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テロから学校を守った少年の死

木村正人在英国際ジャーナリスト

パキスタン北西部ハングー地区の高校で今月6日、自爆テロから学校と同級生を守った15歳のあどけない少年が巻き添えで死亡した。

自らの命を投げ捨てて、生徒2千人の安全を守った少年の英雄的な死に同情が集まり、ソーシャルメディアで世界中から「少年に勲章かメダルを」という声が寄せられている。

この少年はアィティザーズ・ハサンくん。実はハサンくん、6日朝、遅刻したため朝礼に参加できず、同級生2人と校門の外に立たされていた。すると学校の制服を着た男が近づいてきた。

男は見たこともない顔で20歳から25歳ぐらいに見えた。同級生の1人が「制服の下に変なベストを着込んでいる。自爆テロ犯では」と叫んで逃げようとした。

少し太っていて体力に自信があるハサンくんは同級生から「レスラー」と呼ばれていた。ハサンくんは「僕が確かめてくる」と言って、校門から約100メートル離れたところで男を取り押さえた。

すると男はベストの起爆装置を引いて吹っ飛んだ。ハサンくんは病院に運ばれたが、亡くなった。「Lashkar-e-Jhangvi Ali Sufyan」というテロ組織が犯行声明を出した。

この地域は少数派のイスラム教シーア派が暮らしている。「Lashkar-e-Jhangvi Ali Sufyan」はシーア派住民を狙ってテロを繰り返していた。

パキスタンでは宗派対立が激化しており、国際テロ組織アルカイダやイスラム原理主義組織タリバンに関連するスンニ派武装組織がシーア派の集まりを襲撃する事件が多発している。

ハサンくんの父親(55)はアラブ首長国連邦(UAE)に出稼ぎに行っており、息子の死について地元メディアに「崇高な理由で自分の命を投げ打ったことを誇りに思う。殉教だ」と話した。

父親はパキスタンに帰国するが、葬式には間に合わないという。ハサンくんのいとこは「彼は医者になりたかったが、アラーの御心は違っていた」と声を落とした。

Twitterには女性ジャーナリストや元駐米パキスタン大使が「ハサンくんはパキスタンの誇りだ。少なくとも彼にメダルを」などと書き込んでいる。

ハサンくんを、昨年サハロフ賞を受賞したパキスタンの少女、マララ・ユスフザイさん(16)にたとえる声も上がっている。

マララさんは「女の子にも教育を受ける権利がある」と訴えてタリバン組織に銃撃されたが、その後もパキスタンでは学校に通う女の子を狙ったテロ事件が続発している。

アフガニスタンとの国境に近いパキスタン・クエッタでは昨年6月、女子生徒40人を乗せた通学バスが自爆テロで爆破され、うち14人が死亡。負傷者が搬送された病院では看護婦数人が銃撃された。

学校と子供たちを標的にするイスラム過激派組織の非道さに改めて国際社会の非難が集まりそうだ。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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