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首相の靖国参拝 朝日の世論調査でも6割賛成

木村正人在英国際ジャーナリスト

安倍晋三首相の靖国神社参拝について「妥当」との回答が8割近くに達しているYahoo意識調査だけでなく、民放TBS系情報番組の緊急世論調査でも「いいんだ」という回答が7割を超えるなど、支持する声が広がっている。

TBS系情報番組「情報7daysニュースキャスター」が28日、インターネット上で緊急世論調査を実施したところ、投票総数4万717票のうち「いいんだ」が2万8977票(71.2%)、「まずいんだ」が1万1740票(28.8%)。

共同通信社が28、29両日に実施した全国緊急電話世論調査では、首相の参拝について「よかった」が43.2%、「よくなかった」は47.1%。外交関係に「配慮する必要がある」が69.8%だったのに対し、「配慮する必要はない」は25.3%にとどまった。

安倍内閣の支持率は55.2%と今月22、23両日の前回調査に比べ1ポイントアップ。「よくなかった」が「よかった」を約4ポイント上回ったが、首相の参拝を評価する声は実に4割を超えている。

朝日新聞が11月6日~12月20日、5500人を対象に実施したアンケートでも首相参拝に賛成する回答が約6割を占めた。

この結果について、安倍首相のフェイスブックに秘書が「紙面の扱いは何と、まさかの30面。靖国神社参拝に対する国民の賛否など大切な事項が多いのですから、目にとまるいつもの様に一面で報じた方が良かったのでは」と書き込んでいる。

朝日新聞の世論調査は次の通りだ。

Q日本の首相が靖国神社を参拝することに賛成ですか。反対ですか。

賛成 20代60% 30代以上59%

反対 20代15% 30代以上22%

このアンケートは20代の意識を探るもので、他にも興味深い質問がある。

Q靖国神社には、第2次大戦中の日本の指導者だった東条英機元首相らの戦犯もまつられています。このことを知っていますか。

知っている 20代56% 30代以上84%

知らない  20代43% 30代以上15%

Qこの戦争はアジアに対する侵略戦争だったと思いますか。侵略戦争ではなかったと思いますか。

侵略戦争だった    20代45% 30代以上55%

侵略戦争ではなかった 20代33% 30代以上26%

Q尖閣諸島や竹島をめぐる中国や韓国の姿勢についてどう思いますか。

反発を覚える  20代83% 30代以上90%

反発を覚えない 20代12% 30代以上6%

パーセプションギャップ

戦後日本の進路を方向付けた極東国際軍事裁判を描いた記録映画「東京裁判」が公開されたのは1983年。東京裁判の判決で処刑されたA級戦犯が靖国神社に合祀されてから5年後、当時は東京裁判史観を否定する声は少数派だった。

日本の歴史問題はまだ、米ソ冷戦の中に凍結されていた。

冷戦が終結し、従軍慰安婦の強制性を認めた河野談話(93年)、戦後50年の村山談話(95年)が出された後、翌96年から自由主義史観研究会による「教科書が教えない歴史」の連載が産経新聞紙上で始まる。

冷戦終結によって、韓国や中国では旧日本軍の「加害の歴史」が強調されるようになったのに対して、日本では「日本の教科書なのに日本の加害の歴史ばかりが書かれている」との反発が強まり、「加害の歴史」には触れない風潮が広がった。

さらに竹島や尖閣をめぐって韓国や中国との緊張が高まり、「どうして何もしていない日本ばかりが悪く言われるのか」という国民的な不満が一気に膨らんだ。そうした声が安倍首相の靖国参拝を後押ししている。

安倍首相の「恒久平和への誓い」を読んで、小泉純一郎首相の靖国参拝との違いを感じるのは「加害の歴史」に対する認識である。

「小泉総理の靖国神社参拝が、過去の軍国主義を美化しようとする試みではないかとの見方は誤りである。総理はかねて、靖国神社への参拝は、多くの戦没者に敬意と感謝の意を表するためのものであり、A級戦犯のために参拝しているのではなく、また、日本が極東国際軍事裁判の結果を受け入れていることを明言している」

「総理はまた、我が国が、『植民地支配と侵略によって、多くの国々、とりわけアジア諸国の人々に対して多大の損害と苦痛を与えた』ことを認め、『歴史の事実を謙虚に受けとめ、痛切なる反省と心からのお詫びの気持ちを常に心に刻』むべきことや、『世界の国々との信頼関係を大切にして、世界の平和と繁栄に貢献していく決意』であることを、繰り返し表明している」(外務省HPより、靖国神社参拝に関する政府の基本的立場)

小泉首相は「加害の歴史」と東京裁判を認め、A級戦犯への参拝意図を明確に否定していた。靖国参拝で中国や韓国との関係は冷え込み、欧米メディアは「隣国との関係悪化」に懸念を示したものの、声高に小泉首相の靖国参拝を批判しなかった。

これに対して、安倍首相の「恒久平和の誓い」は「加害の歴史」には言及せず、A級戦犯については「靖国参拝については、戦犯を崇拝するものだと批判する人がいますが、私が安倍政権の発足した今日この日に参拝したのは、御英霊に、政権一年の歩みと、二度と再び戦争の惨禍に人々が苦しむことの無い時代を創るとの決意をお伝えするためです」と直接の答えを避けているようにも聞こえる。

今回の安倍首相の靖国参拝を肯定的にとらえた海外メディア、外国政府は皆無だろう。それに比べて、国内では、安倍首相の靖国参拝を支持する声が多い。中韓との関係を改善するため首相在任中は参拝を見送るのではとの見方もあっただけに、電撃参拝は国内と国外のパーセプションギャップ(認識のずれ)をさらに広げてしまう結果となった。

小泉首相当時と比べて、尖閣をめぐる中国との緊張がギリギリまで高まっていることも、海外メディア、外国政府の懸念を強めている。

また、安倍首相とオバマ米大統領の関係は、小泉首相とブッシュ大統領のそれほど緊密でも親密でもない。ケリー国務長官、ヘーゲル国防長官が千鳥ケ淵戦没者墓苑を訪問して牽制した米国にとって、安倍首相の靖国参拝は予想できなかったのではないか。

安倍首相から発せられるメッセージは断片的で、小泉首相ほどわかりやすくはない。しかも、先の大戦について、安倍首相の立場がもう一つはっきりしない。

米歴史家ジョン・ダワーが『敗北を抱きしめて』でいみじくも指摘したように、国内にとどまった多くの日本人にとって、あの戦争は悲惨な「被害の歴史」として記憶された。しかし、アジア諸国や英米にとって日本は間違いなく「加害国」なのだ。

領海侵犯力づくで尖閣の現状を変更しようとしている中国や、中国と急接近する韓国とうまく折り合うのは難しいとしても、安倍首相は自分の取った行動について同盟国の米国や、欧州諸国にはっきりと伝わるメッセージを発しなければならない。

中国が尖閣を含む東シナ海上空に防空識別圏(ADIZ)を設定し、一段と地域の緊張が高まる中、国内と国外でパーセプションギャップがこれだけ広がっているのは極めて危険な兆候だ。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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