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「米国の世紀は終わった」 データでみる繁栄マップ  日本は浮上

木村正人在英国際ジャーナリスト

データが語る現実

世界142カ国・地域の経済、起業家精神、統治など8つの要素から富と幸福度を図る「レガタム繁栄指数」を、ロンドンに本拠地を置く国際シンクタンク、レガタム研究所が29日、発表した。

同指数が発表されるのは今年が7年目。国内総生産(GDP)の規模と成長率からだけでは国の繁栄を判断するのは難しい。そこで同研究所は、副指数として経済・起業家精神と機会・統治・教育・医療・治安・個人の自由・社会資本の項目を設けて、各国の富と幸福度を指数化した。

中でも目を引いたのは米経済の衰退ぶりだ。「経済」副指数では、米国は昨年の20位からさらにランクを下げ、24位に転落。フランス、ドイツ、ニュージーランド、韓国、マレーシアに抜かれてしまった。

「経済」副指数の変化マップ(筆者作成)
「経済」副指数の変化マップ(筆者作成)

上の世界地図は2009年の「経済」副指数ランキングと、13年のそれを比較したものである。緑色が濃くなればなるほど順位を上げ、赤色が濃くなればなるほど順位を下げている。単純化すれば緑色が経済的な繁栄を、赤色が低迷を表している。無色は比較するデータがなかった国だ。

繁栄しているのがアジア、南米、北欧とドイツで、米国やロシア、残りの欧州は低迷していることがわかる。

繁栄クラブにも入れない米国

包括的なレガタム繁栄指数でも米国は世界11位で、2年連続で「最も豊かな10カ国」に入れなかった。

「経済」副指数ランキングの推移を示すグラフを作成すると、米経済の衰退ぶりが一目瞭然だ。同研究所のジェフリー・ゲドミン所長は「もはや米国を世界で最も繁栄した国とみなすことはできない。いや、繁栄クラブにすら入っていない」と指摘する。

「経済」副指数で見た順位の推移(筆者作成)
「経済」副指数で見た順位の推移(筆者作成)

さらに、「米経済は数年にわたる停滞から抜け出し始めたが、オバマ大統領は依然としてライバルに対抗できないことに苛立つことになるだろう」との厳しい見方を示した。

世界最大のGDPを誇る米国だが、その衰退ぶりを物語るデータとして、同研究所は、台湾(4.3%)や韓国(3.4%)より高い米国の失業率8.9%を挙げる。

ハイテク製品が輸出に占める割合もマレーシア(43%)、中国や韓国(いずれも25%)に比べて18%と格段に低いという。

アジアの国々に比べ米国民の貯蓄は少なく、生活に満足している人の割合も2009年の75%から72%に下落。十分な食事や住宅を享受できている人々の割合も09年の87%から81%に下がっていた。

オバマ大統領の民主党と野党・共和党が激しく対立し、政府機関の閉鎖など政治の混乱が続いているため、政府への信頼も10年の51%から35%に急落していた。

起業コスト下がった中国

発表の後、同研究所のアナリスト、エド・オミック氏が筆者のインタビューに応じ、「中国での起業コストは5年前、年収の10%だったが、2%も下がった。中国では90%近い人がハードワークは必ず報われると信じている」と指摘した。

一方、米国ではハードワークは報われないと考える人が増え、起業コストは高くなり、官僚主義や政府の非効率が目立っているという。

しかし、米国に留学した中国人学生の92%が成功する機会を求めてそのまま米国に残留。米国では成果主義が浸透し、新しいアイデアを持っていれば資金提供者も見つけやすい。

ひと昔前なら米ハーバード大学を卒業して中国に戻れば高い地位と高収入が約束された。しかし、今では何の保証もなくなった。

中国は今後5~10年間で、縁故主義や腐敗を一掃して、海外で学んだ優秀な人材の流出を防げるかが、経済成長を続けるための大きなカギとなる。

一方、欧州では債務危機に見舞われたギリシャ、ポルトガル、スペイン、イタリアの競争力は低いままだ。北欧諸国やドイツでは起業がしやすいものの、輸出が停滞する欧州経済に引きずられるため、アジア進出が課題だという。

アベノミクスは面白い

オミック氏は安倍晋三首相の経済政策アベノミクスについて「面白い。過去20年間、停滞が続いた日本経済をよみがえらせる可能性がある」と指摘。グラフを見ても「経済」副指数は急回復していることがわかる。

消費税の増税について、「日本の消費税の税率は他の経済協力開発機構(OECD)と比べても最低レベルだ。消費を冷ます恐れもあるが、それほど大きな影響は出ないのでは」と予想。

労働市場改革について「昔は会社への忠誠心が日本経済を支えた。しかし、イノベーションが求められる今、高い技術や能力を持った人材が会社を移動しやすくすることが大切だ。そうしないと優秀な人材を雇うことはできない」という。

終身雇用、年功序列という日本的な労働慣行が日本企業の国際競争力を低下させ、海外から優秀な人材を集める妨げになっている。オリンパス事件で浮き彫りになったように日本の企業統治は海外から不信の目で見られている。

日本、韓国、台湾はそれぞれ中国との経済関係を深めている。30年前は台湾の輸出の30%は米国向けだったが、今では中国向けに変わってしまった。

アジアは中国を中心に発展していくとみられている。このため、オミック氏は「安倍首相が靖国神社参拝など歴史問題にこだわれば、アベノミクスにも支障が出るだろう」と警告している。

出遅れるインド

インドについては汚職がはびこり、法の支配が不十分で、海外からの直接投資を呼び込みにくい状況になっている。レイプ事件が相次ぐなど、治安の面でも問題を残している。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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