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ロイヤルベビー誕生へ(7)キャサリン妃は「軽めのダイアナ」?

木村正人在英国際ジャーナリスト

第1子を出産する予定のキャサリン妃を故ダイアナ元皇太子妃と比較する声が英国外ではよく聞かれる。ドイツメディアは「キャサリン妃は『軽めのダイアナ』とコラムニストに酷評されている」と伝えたことがあった。

ウィリアム王子は2010年に婚約した際、キャサリン妃に母ダイアナ元妃の形見であるブルーサファイアとダイヤモンドの指輪をプレゼントした。ウィリアム王子は「母もキャサリンも僕にとっては同じように大切な人なので、母の形見を贈った」と説明した。

この指輪は1981年、チャールズ皇太子が婚約時にダイアナ元妃に贈ったものだ。不倫、別居、離婚、そして非業の最期を遂げたダイアナ元妃の形見をキャサリン妃に贈ることについては当時、英国内では賛否両論があった。

「母の面影をキャサリン妃に求めている」「キャサリン妃もダイアナ元妃の悲劇を繰り返すことになりはしないか」と心配する声に対して、「ダイアナ元妃を忘れないという優しさが伝わってくる」と2人に心を寄せる声もあった。

ウィリアム王子との交際が明らかになってからキャサリン妃にはダイアナ元妃のときと同じようにメディアの関心が集まった。キャサリン妃が第1子を出産するのも、ダイアナ元妃がウィリアム王子とヘンリー王子を出産したセント・メアリー病院リンド病棟である。

婚約時の会見で、ウィリアム王子は「母と同じ運命をたどろうと試みる人はいない」と語り、キャサリン妃は一時2人の関係が破局したことについて「とてもつらい時期だったが、おかげで以前より強くなれた」と告白、結婚についても「尻込みするが、何とかやっていけることを願っている」と複雑な胸の内を正直に吐露した。

1986年(昭和61年)、チャールズ皇太子とダイアナ元妃が来日、神戸も訪れた。当時、産経新聞神戸支局で勤務していた筆者には、日の丸をイメージした赤の水玉模様のブラウスが鮮烈に印象に残っている。

ダイアナ元妃のイメージは愛らしいはにかみから、美しさ、セクシュアルでスキャンダラスな妖艶さに変貌を遂げていく。これに対して、キャサリン妃の魅力は何と言っても自然な明るさだろう。

ショーン・スミス氏著の伝記『Kate』によると、キャサリン妃は「将来、王子さまのお妃になりたいという人がいなくなったら困るから、お妃になるのはそんなに大変なことじゃないのよというメッセージを送るよう努めている」そうだ。

キャサリン妃とダイアナ元妃の違いはかなりある。

(1) ダイアナ元妃は19歳で婚約、チャールズ皇太子と交際を始めて約7カ月だった。キャサリン妃は28歳で婚約、出会ってから約9年の歳月が流れていた。

(2) ダイアナ元妃は花嫁学校、キャサリン妃は英スコットランドの名門セントアンドルーズ大学を卒業。

(3) ダイアナ元妃は貴族の出身。キャサリン妃は豊かな中流家庭の出身。

それだけではない。キャサリン妃はダイアナ元妃似というより、ダイアナ元妃が亡くなった後、ウィリアム王子とヘンリー王子の世話をしたナニーのティギー・レッグ=バークさんに似ている。結婚式でヘンリー王子が乗った馬車にはティギーさんの息子トムくんの姿があった。ティギーさんは結婚式には姿を見せなかった。

1981年のロイヤル・ウエディングでダイアナ元妃は7・62メートルのトレイン(引き裾)を着用。元妃のウエディングドレスを共同制作したデービッド・エマニュエル氏はかつて筆者に「結婚式場のセントポール寺院でも映えるように20世紀で最も長いトレインにした。ダイアナはロマンチックなおとぎ話やファンタジーが好きだった」と語った。

一方、英人気ファッションブランド、アレキサンダー・マックイーンのサラ・バートンさんがデザインしたアイボリー・サテンのウエディングドレスのトレインは2.7メートル。ダイアナ元妃の「ファンタジー」に対して、キャサリン妃は「清楚(せいそ)さ」をアピールした。

キャサリン妃はダイアナ元妃と同じワナにはまらないようメディアへの露出を控えている。キャサリン妃はブレア元英首相の右腕だったデービッド・マニング元駐米英国大使から直々にお妃の心得やメディア対策について講義を受けたことがある。

昨年、ロンドン五輪が終わった後、一息ついた南仏でトップレス写真を撮られるという大ピンチに見舞われたキャサリン妃は外遊先で自然な笑顔を振りまいた。ビキニ姿やレオタード姿の写真で大騒ぎしたダイアナ元妃に比べて、キャサリン妃は何一つ動揺を見せなかった。

ファッションに気遣っていないわけではないが、キャサリン妃は既製服やデザイナーのオーダー・メイドをローテーションで着回し、同じ靴を履いていることも多い。デザイナーの新しい作品を着るたび世界中の話題になったダイアナ元妃に対して、キャサリン妃は普段着でスーパーマーケットに買い物に出かける写真が英大衆紙に掲載されている。

ダイアナ元妃は王室で孤独だった。英国はかつての輝きを取り戻すため、ダイアナ元妃のような広告塔を求めていた。しかし、時代は移り、英夕刊紙イブニング・スタンダード(無料紙)の世論調査では、ウィリアム王子とキャサリン妃の第1子は将来、普通の仕事に就くべきだという声が65%にのぼっている。

慈善活動の普及など、ダイアナ元妃がロイヤル・ファミリーに遺したものは大きいが、英王室に求められる役割やイメージは随分と様変わりしている。英BBC放送の王室担当ピーター・ハント記者によると、ウィリアム王子とキャサリン妃は宮中ではなく、英南部バークシャー州にある同妃の実家で第1子の誕生を待っているという。

(つづく)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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