「北朝鮮ミサイル発射」 日米韓が取るべき最善策とは

北朝鮮による「核」の脅しで北東アジアの緊張がピークに達する中、独裁者・金正恩第1書記は、核弾頭を搭載できる中距離・短距離弾道ミサイルを同時発射する準備を整えている。グアムを射程にとらえる新型中距離弾道ミサイル「ムスダン」(最大射程4000キロ)も含まれているとみられる。金正恩がここまで「瀬戸際戦略」をエスカレートさせる理由は何か。金正恩の戦略を読み解くカギは金日成、金正日の残した足跡にある。

・ミサイル発射の意味は?

北朝鮮が「ムスダン」2発を同国東部の江原道元山付近に配置、北方の咸鏡南道にもミサイル発射用車両4、5台を配置していることを米韓両国は確認している。人工衛星打ち上げを隠れミノにした昨年12月の長距離弾道ミサイルの発射実験とは異なり、実戦をにらんだ発射訓練だ。

北朝鮮は短距離弾道ミサイル「スカッド」(300、500キロ)や中距離弾道ミサイル「ノドン」(1300キロ)を実戦配備、性能も実証済みだ。ムスダンは50発、実戦配備されているとみられるが、試射はまだ確認されていない。

グアムの米軍基地を狙えるムスダン発射には、米国のオバマ大統領に対し、ミサイル能力を見せつける狙いがある。

2012年4月に行われた北朝鮮の軍事パレードでは全長18~20メートルの新型弾道ミサイルが公開された。この新型ミサイルは「ムスダン」より大きく、長距離弾道ミサイル「テポドン2」より小さかった。発射準備を整えているのがこの新型かどうかはわからない。

・日本や米国がミサイルで狙われた場合の軍事的な脅威は?

北朝鮮は日本本土や沖縄県の米軍嘉手納基地を射程に収めるノドン200発を実戦配備している。北朝鮮の労働党機関紙、労働新聞は、神奈川県横須賀市、青森県三沢市、沖縄県と、米軍基地がある日本の地名を具体的に挙げ「我々の射撃圏内にある」と威嚇する記事を掲載している。米国、韓国などへの攻撃も示唆している。

英シンクタンク、国際戦略研究所(IISS)のマーク・フィッツパトリック氏の分析では、北朝鮮はすでに4~10個の核爆弾を保有している。

ノドンに搭載できる核弾頭の小型化に成功していると指摘する専門家は少なくないが、改良にはまだ時間がかかるとみられている。ノドンに積める核弾頭を何発持っているのかは不明だ。北朝鮮が十数基ある発射台からノドンを同時発射した場合、日米両国のミサイル防衛システムですべてのミサイルを撃ち落とせるという保証はない。

ムスダンに搭載可能な核弾頭はまだ開発していないとみられている。

昨年12月の実験で、北朝鮮は3段式ロケットの切り離しと、衛星軌道の投入に初めて成功した。射程は米本土に届く1万キロ以上に延びたが、大気圏に再突入した時に弾頭を高温高熱から保護し、着弾地点を制御する技術を獲得しているかどうかはわからない。

・日本への影響は?

金正恩の狙いはズバリ、米国のミサイル防衛システムをかいくぐってワシントンを攻撃できる核ミサイル能力を確保することだ。その布石として、ノドンで在日米軍基地をとらえている。次はムスダンでグアムの米軍基地を射程に収めるのだろう。

制裁を強化する自民党の安倍政権に対して、「核」の脅しをエスカレートする恐れは否定できないが、本丸はあくまでオバマ政権だ。日本ができることは、米国と協力してミサイル防衛システムを強化することだ。

・金正恩が「瀬戸際戦略」をエスカレートさせる理由は?

元米国防総省アジア太平洋局の交渉問題専門家、チャック・ダウンズ氏著『北朝鮮の交渉戦略』を読むと、北朝鮮の外交戦略は朝鮮戦争(1950~53年)以来、何一つ変わっていないことがわかる。

北朝鮮にとって戦争ギリギリまで危機を高めれば高めるほど、米国を交渉テーブルに座らせ、譲歩を引き出せる可能性が大きくなる。「異常な」「非合理な」「気まぐれな」「奇異な」「予測不可能な」という形容詞はこれまでも北朝鮮の「瀬戸際戦略」に対して繰り返し使われてきた。

戦争になれば北朝鮮の崩壊は避けられない。しかし、「戦争」と「融和」の選択を迫られた米国の歴代政権はいずれも「融和」を選択してきた。「戦争の出費」と「融和の代償」を秤にかけた場合、民主主義国家の政治指導者は必ず融和を選ぶものだ。

金正恩は金日成、金正日がそうしたようにオバマに楽観と幻滅と失望を味合わせている。日米韓にとって最善の対策は、核兵器開発の放棄に応じない限り交渉を拒否し続けることだ。脅しは通じないことを金正恩にわからせなければならない。

オバマは今のところ金正恩政権の崩壊を待つ「忍耐戦略」を続け、交渉を拒否している。

・過去の事例は?

1990年代前半の危機では、北朝鮮の核開発を止めるため米国が施設を攻撃する寸前まで緊張が高まった。93年3月、北朝鮮は核拡散防止条約(NPT)脱退を宣言。94年4月、休戦協定は無効であると宣言し、5月には、寧辺の黒鉛減速炉で燃料棒取り出しを強行した。

カーター元米大統領が6月に訪朝し、金日成と会談。金日成は7月に死去したが、米朝は10月、北朝鮮の核開発凍結と関係改善で合意する。ソ連崩壊で後ろ盾を失った後継者・金正日には、権力基盤が固まるまで時間を稼ぐというしたたかな計算があった。

98年、総書記に就任した金正日はテポドン1号を発射する。「瀬戸際戦略」には外からの脅威をあおり国内の権力基盤を強固にする狙いもある。

・周辺国の対応や思惑は?

韓国は2010年、46人が死亡した哨戒艇沈没事件や延坪島砲撃事件で北朝鮮の攻撃を受けた。北朝鮮が新たな攻撃を仕掛けてきた場合、韓国は反撃する姿勢を明確にしている。韓国国防省は北朝鮮全域を攻撃できる射程800キロの弾道ミサイルを新たに実戦配備する計画を明らかにしている。

中国の習近平国家主席は「いかなる国も混乱を引き起こしてはならない」と名指しは避けながらも北朝鮮を牽制した。今年2月、英紙フィナンシャル・タイムズに中国共産党幹部養成機関、中央党校の機関紙「学習時報」のトウ聿文副編集長が「中国は北朝鮮を切り捨て、朝鮮半島統一を支援すべきだ」との寄稿を行った。このあと、副編集長は処分された。

米国のカート・キャンベル前国務次官補(東アジア・太平洋担当)は「中国の外交政策は微妙に変化している」と指摘している。しかし、中国の対北朝鮮政策が本当に変わったかは、中国が国連安全保障理事会の制裁決議をどこまで実行するかを見極めないと何とも言えない。

ロシアのラブロフ外相も「核実験やミサイル発射は冗談では済まない。威嚇が過ぎると、逆に自分を追い込んでしまうからだ」と北朝鮮を非難している。

・核戦争や地上戦の可能性は? 今後のシナリオは?

金正恩の目的は核戦争を起こすことではなく、米国を交渉テーブルに座らせ、北朝鮮が核保有国であることを認めさせることだ。米国が米朝協議に応じるまで「瀬戸際戦略」をエスカレートさせる一方で、核兵器と弾道ミサイル開発を続行するだろう。

ただ、金正恩が北朝鮮人民軍に突き上げられて瀬戸際に追い込まれていると指摘する声もある。北朝鮮は、サイバー攻撃など、軍事攻撃以外の「威嚇」行動を限りなくエスカレートさせる可能性が極めて強い。

これまでのパターンをみると、北朝鮮が危機状態を作り出すため挑発的な言動を繰り返している時に直接、軍事行動を起こした例はない。しかし、偶発的に紛争に発展する恐れは十分にある。

インターネットや24時間テレビニュース局が普及したことで、北朝鮮の「瀬戸際戦略」による効果がこれまで以上に増幅されている側面は否定できない。何よりノドンに搭載できる核弾頭を北朝鮮が保有しているとみられることが緊張を異常に高めている。これがこれまでの危機との決定的な違いだ。

(おわり)