黒田日銀 マジックナンバーは「2」 緩和の最終ランナーが背負うリスク

黒田日銀初の政策決定会合は「異次元の緩和」を打ち出した。「年程度でインフレ率%を達成する」「年でマネタリーベース(通貨総量)倍に、国債保有額と平均残存期間を倍以上に増やす」。世界市場にアピールできるよう、「」をズラリと並べた。

「中途半端なことはしない」「戦力の逐次投入はしない」と宣言した黒田総裁は、市場の予想をはるかに上回る緩和策を打ち出した。会合後、円安が進み、1ドル=96・23円。株価も急上昇し、長期金利は史上最低の0・425%まで低下した。

債券系ヘッジファンドではロンドン最大級の資産運用会社「キャプラ・インベストメント・マネジメント」を共同創業した浅井将雄さんは黒田日銀の第一手をこう予想していた。

「白川さんの時代は約50兆円だった日銀当座預金を80兆円とか90兆円に持って行きます。日銀券と日銀当座預金を合わせたマネタリーベースは今、約130兆円ぐらいですが、170兆円、180兆円というところまで行くと思います」

しかし、黒田マジックは市場を驚愕させた。

2年で日銀券や硬貨を87兆円から90兆円に増やし、日銀当座預金を47兆円から3・7倍の175兆円に拡大する。国際通貨基金(IMF)によると、2013年、日本のGDPは推定476兆円。日銀のマネタリーベースはGDPの29%から55%に膨れ上がる。

米連邦準備制度理事会(FRB)の量的緩和(QE)でもマネタリーベースは月にGDP比で0・5%しか増えていない。黒田日銀の「異次元の緩和」でマネタリーベースは月にGDP比で1%も増える。FRBや欧州中央銀行(ECB)のマネタリーベースはGDPの20%未満。

国債の買い入れは89兆円から190兆円に倍増する。日銀は現在、政府債務の14%を保有しているが、26%まで跳ね上がる。ちなみに、英中央銀行・イングランド銀行は政府債務の29%を保有している。

英紙フィナンシャル・タイムズの社説は「これだけ大胆な金融緩和を行っても効果がないかもしれないし、状況が悪くなる恐れすらある。しかし、日本に他の選択肢は残されていない」と黒田総裁の決断をたたえた。

英銀大手HSBCのチーフエコノミスト、スティーブン・キング氏はFT紙で、日本経済には黒田マジックだけでは解決できない構造的な問題が3つあると指摘する。

(1) 海外生産、高齢化、女性の雇用問題、移民の問題

(2) 超低金利マネーが日本国内で使われず、海外にホットマネーとして流出

(3) 前回、日銀が量的緩和を行った際、円安で輸出は促進されたが、内需は喚起されなかった

キング氏は「黒田総裁は1塁に出塁した。しかし、本塁に生還しなければならない」と指摘する。アベノミクスの第3の矢である成長戦略、構造改革を安倍政権が強力に推進して、黒田総裁をホームベースに迎え入れる必要がある。

長期金利を抑えるため、安倍政権は第2の矢の機動的な財政出動は、最初の補正予算だけにとどめる構えだ。

各国中央銀行は、日本をハンガリーにたとえたドイツ連銀のワイトマン総裁を除いて黒田日銀の緩和策に理解を示すだろう。世界第3の経済大国ニッポンが15年間も続くデフレを脱却して経済成長を取り戻す意義は大きいからだ。

しかし、FRBもECBもイングランド銀行も黒田総裁の後追いだけはしたくないのが本音のようだ。米国は家計を中心にバランスシート調整を終了、景気が回復し始め、FRBは慎重にQEからの出口戦略を検討している。

経済の低迷が続く欧州単一通貨ユーロ圏や英国にとって、金融バブル崩壊後、「失われた20年」とデフレに苛まれる日本は反面教師なのだ。

ムンバイでアベノミクスについて講演した慶応大学の竹中平蔵教授に、参加者から「第1の矢である金融緩和は、先進国にとって都合の良い通貨安政策に過ぎない」という痛烈な批判が向けられた。

ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスで開かれた討論会に参加したFRBのバーナンキ議長は「QEは輸出だけでなく内需を喚起し、新興国からの輸入を拡大する」と述べ、先進国中銀の量的緩和は「近隣窮乏化政策」ではなく「近隣富裕化政策」だと強調した。

FRB、ECB、イングランド銀行の周回遅れで「異次元の緩和」を打ち出した黒田日銀。緩和の最終ランナーとして残されてしまったら、極端に膨らんだバランスシートを縮めるとき、深刻な金融リスクを抱えることになる。

(おわり)