ロンドンに本拠を置く国際的な資産運用会社「キャプラ・インベストメント・マネジメント」の共同創業者、浅井将雄さんは「日本が成長を取り戻すカギはエネルギー革命だ」と日本周辺海域でのメタンハイドレート開発の重要性を強調する。

英巨大ファンド日本人創業者の浅井将雄さん
英巨大ファンド日本人創業者の浅井将雄さん

――ブレイナード米財務次官が11日の記者会見で、アベノミクスを支持する考えを表明したが

「日本の円安政策に彼女は肯定的ではない。アベノミクスに対して理解できると言っただけで、日本は円安を享受していいとは言っていない。ブレイナード財務次官1人の発言を米国の真意だと見るのは早計だ。米国はそれほど単純な国ではない。自動車業界はこれ以上の円安には歯止めをかけたいと思うだろうし、米国が1ドル=100円以上を容易に容認するケースは日本に環太平洋経済連携協定(TPP)参加を強烈に迫るときだろう」

――日米首脳会談のポイントは

「日本も米国も、中国、北朝鮮を含めた極東地区の地政学リスクについてしっかりした議論を持ちたい。それは沖縄の基地問題につながってきている。民主党の鳩山由紀夫首相がオバマ米大統領と会談して、『トラスト・ミー』と言って、沖縄の普天間基地移転問題はすでに解決しているはずなのに、いまだに解決していない。基地問題、安全保障問題がクローズアップされるのは間違いない。為替はそれに付随する問題だが、その下地として20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議でしっかり米国の方から注文を付けてきて、それで日本の方からノーということが伝わっていれば、やんわりと警告するだけだと思う。急激に円安が進んでいるが、米国は長く続いた円高の修正局面だということは認識している。円安局面とはみておらず、リーマンショックの後、長く続いた円高の修正の範囲内であれば米国は大きな警告は出してこないと思う。安全保障、TPPというのが非常に大きな枠組みで、安全保障の中でも太平洋を囲む輪の中にTPPがある。日本がTPPへの参加を表明してくれという要請は限りなく大きくあると思う。為替は主議題ではない。米国の立場としては警告すれども非難せずということだと思う」

――円安はどこまで進むのか

「100円を大幅に超えて円安が進むことについて、米国が金融緩和策を続ける中で、ドル高に動いてくることを快くは思わない。ただし、それが介入とか人為的作用を伴わないゆっくりとした円安であれば、容認可だと思う。100円までの段階で米国が非難をしてくるとは思っていない」

――日本が財政の崖から転落することを米国は恐れているのか

「日本が将来、崖から落ちるかどうかは米国もわからない。米国も自分たちの財政の崖で必死だ。ただ、米国も対中国の経済的枠組みが今年、来年大きく変わるとは思っていない。今のアベノミクスの手法について米国の方もネガティブには思っていないというのが、ブレイナード財務次官の発言ではないかと思う。決して円安を容認しているわけではない。アベノミクスがもたらした経済的な成功に対してとりあえず賛意を表したという程度だ」

――ドイツ連銀(中央銀行)のワイトマン総裁が日銀をハンガリー中銀と比べたが

「ハンガリー中銀に関して、ワイトマン総裁は中央銀行の独立性の問題を指摘した。日銀が独立性を揺るがされながら政府に譲歩を迫られている姿は、中央銀行マンから見れば、非常にナンセンスだと思う。ドイツ連銀は非常に独立しているので、ワイトマン総裁から見れば当然のコメントだったと思う。しかし、日銀のマンデートがこれまではあいまいだった。英中銀・イングランド銀行ならインフレーションターゲットと決まっているのに対して、物価と雇用について日銀は責任を持たなければならないが、明らかなメルクマールがなかった。今回からインフレーションターゲットが2%と決まったので、今までは目標も手段も日銀が決めていたが、これからは、目標は政府が決めて、手段は日銀が持ち合わせている。ここまでの範囲であれば日銀の独立性に懸念はないと思う。ただ、この目標が達成できなかった場合、総裁らが解任されたりすると独立性は失われると思う。目標は共有した。これからの金融緩和の手段は日銀が持っているので、これについて日銀がきちんと説明責任を果たしながら金融政策を進めていくことは日銀の独立性を侵害することにはならないと思う」

――日本の円安政策が通貨安競争を招くと批判されているが

「G20としてのまとまりはもうない。G20は、昔のG7(先進7カ国)のような為替に対して大きなイニシアチブを持つ集団ではない。利害関係者が多すぎて、円安がどうだろうが、欧州の人が円安に大きく振れることに不満はないと思う。彼らにとっては欧州単一通貨ユーロの方がずっと大事だ。韓国はウォン安円高で非常にメリットがあったのが、競争力のある日本が円安になることで競争力を失ったのは事実なので、それに対して韓国が苦言を呈することはあるだろう。しかし、日本政府としてはあまり考慮するべきことではない。長く続いた円高の修正局面に過ぎないということを日本政府は淡々と説明し続けるだろうし、それが正しい手段だと思う」

――日本の為替政策は

「日本政府は今の段階で為替介入をしていない。今は1ドル=94円、日経平均も1万1400円まで行った。しかし、もう一度80円を割れたり、9000円を割るような株安に見舞われた時、日銀は介入と思われたり、資産を浮揚させたりするような手を打たざるを得ない局面に追い込まれた時に、介入と思われるような行為、すなわち財務省によるさらなる外為購入枠の拡大が行われた時に、各国が許容してくれるかと言えば、非常に疑念が生じる余地がある」

――外債購入のための官民ファンドは難しいか

「ロジック上は使えない。しかし、日本はこれまで何度も介入してきた。本当に苦しいとなったら安倍政権はやると思う。しかし、1ドル=94円の段階でその宝刀は抜かない。80円をうかがう段階で官民ファンド、日銀がファンディングする外債ファンドというのは構想として必ず議論されると思う」

――先日、ロンドンで開かれた第5回日本証券サミットで経常収支の黒字が2016年までになくなるという指摘があったが

「それが正しいかどうかは自分で判断することだ。所得収支が金利の低下でどんどん下がってくる。貿易収支が一定だと、経常収支も下がってくる。しかし、2017年から非常に安価なシェールガスを米国が提供してくれる。従来のガスの半額で供給されるのであれば、日本の貿易赤字は大きく改善される。経済自体を現在だけで分析するのは時期尚早だ。経済全体の成長を高めるカギは米国がこの20年間行なってきたようなミニ産業革命を起こせるか否かにかかっている。日本発のエネルギー革命を起こせるかどうか。そこにすべてのキーがあるというのが私の持論だ。これまでのパズルで考えると、財政もおかしくなっている、少子化、人口減少、成長力などさまざまなピースが欠ける中で、新たなパズルを完成させるには欠落を埋めるミニ産業革命が必要だ。日本がもう一度、成長を取り戻すような新たなツールが必要だ」

――日本が世界的なヒット商品を出すということか

「世界で競争力がある商品を作ることも大切だが、1980年代までソニーがやってきたようなことは中国、インド、韓国、など競争相手が増えて難しくなってきた。日本の周辺海域に眠っているメタンハイドレートの実用化などエネルギー構造が大きく変わるだけで国としての経常収支は大きく変わってくる。キーワードはエネルギー革命ではないかなと非常に期待している」

――安倍首相が経済団体に賃上げを要請したが

「リフレになって賃金が増えないと国民は搾取されるだけだ。物価が上がって賃金が上がらなければ国民は何の恩恵にも預かれない。ただ、資産だけが上がっていく。リフレに伴って賃金も上がっていけば国民も潤うので、安倍首相や経済政策のブレーン、浜田宏一内閣官房参与(米エール大学名誉教授)もリフレの害も知っているので、賃金を上げて欲しいと経済団体に頼むことは非常に正しいことだと思う。しかし、国際競争の中で日本メーカーが賃金をあげられる余地は極めて低い。しかし、サービス業の賃金が意外と低いので、ここの待遇を改善していくということは非常に大きなテーマになっている。製造業とサービス業の賃金格差をミニマイズするような政策を出すことが大きなカギになる。日本の医療も大きな武器になる。アジア諸国に対して日本の医療はアドバンテージがある。医療の門戸を開けることでアジアへの門戸も開くことができる。この分野での規制緩和は大きなインパクトがあると思う」

――他の課題は

「日本の製造業の強みはまだあるが、韓国、中国、インドに追い上げられクエスチョンマークがつき始めている。英国と比べてみても、日本の安全システム、質の高い医療は優位性がある。また、英国では女性が高いポストや高収入を得る割合が日本に比べて高い。ただでさえ日本は少子高齢化が進んでいるので、女性の能力活用が必要となるのは間違いない。子供に将来を託せないのなら、女性に門戸を開放するのは理にかなった政策だ。育児と仕事の両立というモデルパッケージを出すことができれば、非常にポテンシャルがある。製造業とサービス業の格差、男女格差の解消、医療などが第3の矢のかぎになる」

――円安が進むと日本の企業買収が買収される可能性は

「日本企業は円高耐久力をつけてきて、今の120円は昔の140円に匹敵する。120円になった時に事実上40%も円が減価している。日本の企業は非常に収益力が増しているのに非常に安くなっている。経済というものがドルベースのGDPで測られている。ドルベースで減価するというのはドル保有者にとって非常にメリットがある。日本企業の技術、日本市場へのアクセス。日本のメガバンクを買収すれば2000万~3000万もの口座がついてくる。それがドルベースでは3分の2ぐらいの値段で買えるようになると非常に安い買い物になる。さらに技術があるメーカーなら買ってみようかということになる。中国の通貨解禁が2010年代後半にあって、中国に蓄えられた外貨が運用先として円安が進んだ日本企業に向かう可能性がある。日本企業が中国、米国から買われるのは避けては通れない。リーマンショック後、中国と日本のGDPが逆転して、中国と日本のGDP格差はもう15%もついている。円安になればなるほど日本の購買力は下がる。国力も対ドルベースで下がってくる。円安は輸出企業にとってはメリットがあるが、あまり進み過ぎると国力が衰える。国内では潤っていても世界経済の中では小さくなってくるので、買収の対象にされやすくなる。日本の損益分岐点を見ながら国際競争力を維持できる程度の為替レベルをコントロールしていくのは非常に難しい。1ドル=80円なら輸出企業がコスト割れしてくるのはわかっている。100円だと輸出企業は儲かりだす。120円ならもっと儲かるよねと思っていると、逆にドルベースでは非常に減価していることになるので、そこの舵取りがリフレ政策の非常に難しいところだ」

――日米欧の通貨が弱くなるということは新興国との差が縮まるということだ

「先進国と新興国の通貨の差は最終的には縮んでくる。日本も1ドル=360円から円高がここまで進んだ。新たな発展を遂げる国が外貨をためて、その国の通貨が強くなることが繰り返されてきた。それに逆行しているのは、ユーロ圏で弱い経済国とくっついたドイツだけだ」

――アベノミクスの注目度は

「先日、ロンドンで開かれた第5回日本証券サミットには400人の参加者が集まった。例年、40人ぐらいで閑古鳥が鳴いている。日本人より外国から参加者が多かった」

(おわり)

キャプラは運用総額140億ドル(約1兆1700億円)、債券系ヘッジファンドではロンドン最大級、総預かり資産でもヘッジファンドとしてはロンドンのトップ5に肩を並べる。