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ノドン用核弾頭小型化に3~5年かかると報じる日本の新聞が甘いワケ

木村正人在英国際ジャーナリスト

韓国軍の鄭承兆合同参謀本部議長が6日、韓国の国会で北朝鮮が水素爆弾の前段階のブースト型核分裂爆弾を使った核実験を行う可能性があると証言した。北朝鮮ウォッチャーの韓国・延世大学の武貞秀士国際学部専任教授はどうみるか、ロンドンから国際電話でインタビューした。

武貞秀士・延世大学専任教授
武貞秀士・延世大学専任教授

ブースト型核分裂爆弾は核融合反応を利用して核分裂を促進させ爆発力を増したもので、都市を廃虚にする威力があるといわれている。

――韓国の分析はどれぐらい信頼できるか

「韓国独自の方法で北朝鮮のモニターをしている。以前、韓国は北朝鮮が核融合に成功したと言ったとき、『その可能性について関連機関と検討している』と発表した。水素爆弾の一つ手前のものを実験する可能性が高いと軍責任者が言っているのは非常に重い話だ。相当、確証があるのだろう」

――英シンクタンク、国際戦略研究所(IISS)軍縮・核不拡散プログラム部長のマーク・フィッツパトリック氏は筆者に「3回目の核実験の狙いはノドンに搭載できる核弾頭がうまく爆発するか、確かめることだ」と話しているが

「北朝鮮はノドンに搭載できる800キログラムから1000キログラム相当の重量の核弾頭を持っている。1万キロメートル以上飛ぶ大陸間弾道ミサイル用の核弾頭は200~250キログラムまで小型化しなければならない。北朝鮮はすでに大陸間弾道ミサイルに向けた作業に入っている。3回目の核実験もそこに照準を当てるだろう。北朝鮮が米国に対する抑止力を持つに至ったという発言、昨年12月のミサイル実験も大陸間弾道ミサイルを意識していたことから判断すると、北朝鮮は射程1300キロメートルのノドンについていろいろな実験をする段階は終わっている。北朝鮮は1990年代の終わりにはノドンの開発を終えており、(核弾頭小型化には十分な時間があったので)米コロンビア大学東アジア研究所のジョエル・ウィット上級調査研究員が北朝鮮はすでにノドンに搭載できる核弾頭を保有しているという見方とまったく同じだ。北朝鮮は大陸間弾道ミサイルを開発中で、昨年4月に無残に失敗した後、12月に成功させた。今度は、それに搭載できる核弾頭と関連した核爆発の実験をやるとみなければならない」

――ノドンの射程1300キロメートルの意味は

「1300キロメートルが持つ意味は大きく、射程が1000キロメートルだったら、北緯38度線から沖縄の在日米軍嘉手納基地には届かない。38度線から嘉手納基地までちょうど1300キロメートルだ。ノドンを北海道の釧路とか稚内に撃ち込むわけではない。ズバリ、狙いは沖縄だ。ノドンは100発撃ったら半径2500~3000メートルの範囲に50発命中する精度だ。非常に精度は低いが、核弾頭をつけるわけだから、半径200メートル以内に半分が命中する米国のミニットマン2ミサイルに比べて精度が低いという議論は成り立たない」

――北朝鮮はどれぐらいノドンを保有しているか

「ノドンは200発、発射台は十数基だ」

――ノドンに搭載できる核弾頭の小型化に成功していると分析する根拠は

「技術的な評価はわからないが、北朝鮮の発言が日本と在日米軍を対象に批判していた時代から、はっきりとある時期から米国が朝鮮半島の問題に介入する時代は終わった、民族同士の問題に干渉しないでくれと強調するようになった。その時期と並行して2006年7月と2009年4月にテポドン2の発射実験を行っている。テポドン2というのは日本向けではない。日本の大都市と在日米軍基地に対してはノドンで必要にして十分。なぜオカネをたくさん使ってミサイル開発を進めるかといえば、米国を脅威に陥れる大陸間弾道ミサイルを手に入れるためだ。つまり、ノドンの開発は卒業している。ノドン用核弾頭の開発を終えているということだ」

――北朝鮮が目指しているミサイル能力は

「テポドン2の上のテポドンXの射程は1万3000キロメートル、核戦略の基本であるポイント・ゼロ、つまりワシントンを破壊する能力がなければ意味がない。ロサンゼルス、アラスカを攻撃できても、ワシントンに届かなければ、米国から報復攻撃を受けて北朝鮮の負けになる。北朝鮮がワシントン、ニューヨークまで届く大陸間弾道ミサイルを完成させても、アラスカのミサイル防衛(MD)システムで落とされてゼロになれば北朝鮮の負けだから、ミサイル防衛の網をかいくぐってポイント・ゼロを攻撃できるよう50~60発撃たなければならない。すでにわかっているミサイル基地から撃つと兆候が出た時点で米韓がたたくから、隠された半分地下化したところから1万3000キロ飛ぶものを50~60発撃つ準備を整えるのが最終目標だ。それを宣言した上で、米朝正常化と在韓米軍撤退を米国に迫る、最後は核兵器で韓国社会を脅しながら朝鮮半島全体を戦争をしないで主体(チュチェ)思想で統一するというのが北朝鮮の核戦略のグラウンドデザインだ」

――北朝鮮が核開発をプルトニウム型から濃縮ウラン型に変えた理由は

「原子炉を稼働していないのでプルトニウムを抽出できない。北朝鮮はウラン濃縮に関してすごい技術協力が得られた。遠心分離器を稼働させ、自分のところで組み立てる技術も習得したので、プルトニウムでする必要はなくなった。1950年の直後、北朝鮮はウラン濃縮型の核開発を考えていた。60年代初めに旧ソ連が原子炉を提供したことから、北朝鮮はプルトニウム型に特化し始めた。北朝鮮のウラン埋蔵量は世界のトップクラスで、だからウラン濃縮に関心があった。ソ連から原子炉をもらったからスイッチしたわけで、北朝鮮はもともとウラン濃縮型を目指していた。北朝鮮にとって濃縮のやり方を覚えたら、はるかにウラン濃縮の方がやりやすい。ウラン濃縮技術はパキスタンとイランから来ている」

――北朝鮮はどれぐらい核兵器を持っているか

「プルトニウムを抽出した量から計算するとプルトニウム型8~12個といわれており、北朝鮮の核戦略に関する発言からするとノドンに搭載でいる形になっていると思う。北朝鮮はポイント・ゼロのワシントンに向かうミサイルと核弾頭を開発する段階に入って、10年が過ぎた。ウィット氏は最悪シナリオとして2016年までに北朝鮮がウラン濃縮型50個の核兵器を保有すると予測しているが、米国に対して核抑止力を持つには50~60個というのは合理的な数字だ」

――ブースト型核分裂爆弾の技術習得は難しくないか

「技術的には簡単だと思う。原子爆弾を爆発させた上で、誘爆させる形で爆発力を強める。核爆発のプロセスをマスターした北朝鮮にとっては応用問題に過ぎない。追加的な装置でできるわけだから北朝鮮にとって簡単だ」

――日本の新聞はいまだにノドンに搭載できる核弾頭の小型化には3~5年かかると報道している。日本の見方はどうして甘いのか

「それは日本だから。2006年のミサイル実験のあとは、ノドンにこだわっている感じはなくて、北朝鮮はその先を行っている。高校3年の数3をやっている人が高校1年の数1の教科書を開くだろうか。北朝鮮は核実験をしないと言い続けた日本の専門家もいたし、北朝鮮の核保有は体制の保証を求めているからで米国から体制を保証するという言質を取れば核を放棄するという見方が日本やワシントンでは主流だった。米朝平和協定や援助を引き出すための駆け引きだから最後まで核実験はしない、カードを切ったらおしまいと考えた。朝鮮半島統一という国是と密接に繋がった核戦略が北朝鮮にあって、核の開発を進めていると私が説明すると、みんなから失笑された。日本の社会ではそういうことはあり得ないと考えるのが主流だった」

――オバマ米政権の対北朝鮮政策は失敗か

「オバマ大統領が就任した2009年1月は、1回目の核実験が失敗してまだ2回目は行っていない。オバマ大統領は対中国政策に忙しかった。北朝鮮問題で、中国に役割を期待していた。2009年11月に訪中するまで中国にやさしくて、その後は急に転換してクリントン国務長官も中国封じ込めのような発言を始めた。北朝鮮の軍事能力に対する過小評価、まだ大丈夫、地域的な問題とみなして、まさか大陸間弾道ミサイルまでとは思っていなかった。昨年4月のミサイル実験のとき、日本の新聞は北朝鮮のミサイルはちゃちなもので、だから失敗したと報道していた。1990年代からワシントンで朝鮮半島統一、大陸間弾道ミサイル、米朝正常化の3つをキーワードにして考えないといけないと主張すると、みんな反論した。大陸間弾道ミサイルというと笑い飛ばされた。オバマ政権が北朝鮮の軍事能力を過小評価していたとしてもやむを得なかった。統一せず、分断されたままでは金日成、金正日、金正恩の面子が立たない。統一は国是であり一番大きな北朝鮮のグラウンドデザインだ。通常兵器では米国に負ける。米国と戦争してはダメで、米国との関係を正常化させ、最後は、ワシントンは火の海になるよと言って、労せずしてソウルを取る。戦争をせずに、米国の反撃も受けないまま、主体思想の下、統一が実現できる。金正日が核・ミサイルを『究極の兵器』と言ったのもそういう意味だ。1994年の米朝合意でも金正日の頭の中にあったのは統一、大陸間弾道ミサイル、米朝正常化で、それはずっと一貫している」

――2期目のオバマ政権の対北朝鮮政策は転換するか

「もう転換し始めているが、手遅れだと思う。昨年12月12日、ミサイル実験をした後、国連安全保障理事会の制裁決議まで1カ月半かかったのは、もう北朝鮮を制裁しても仕方がないということがわかっているからだ。核兵器を持って、ワシントンに届くようなものを持ちつつある北朝鮮に核を手放させる方法はなくなったことを前提にして、使わせないような枠組みを作らざるを得なくなってきた。それは何のことはない米朝正常化だ。米国は検討せざるを得なくなりつつある。金正恩は大喜びで米朝話し合いの場をつくるだろう。昨年に2回、米朝秘密接触をやったのも、北朝鮮側が、米国を脅かすような兵器を持っているのだから半島に介入するな、意味をわかっているなというためだった。2期目のオバマ政権では米朝連絡事務所設置ぐらいまではいくのではないか。北朝鮮の核能力に対する米国の扱い方がインド、パキスタン並みになるということだ」

――米国の中国に対する見方は甘いような気がするが

「甘いと思う。台湾や欧州の複数のソースから得た情報では中国は北朝鮮の核実験場まで立ち会ったりしているそうだ。それだけでは協力しているということにはならないが。中国の武大偉・朝鮮半島問題特別代表が平壌に行こうとしたが、拒否されたという動きはヤラセというか、阿吽の呼吸というか、中国が北朝鮮を説得しようとしているが、ダメだという話をつくり上げるための北朝鮮労働党と中国共産党の劇かもしれない。いつも中国が北朝鮮をコントロールできるわけではない。それをやめてくれと言っても北朝鮮がやってしまうことはあるかもしれないが、中朝の軍、党も蜜月だ。下手な戦争を始めない、日本と米国は敵だという認識で中朝は一致している。50~60発核弾頭を保有するようになっても、それを使わないという北朝鮮であれば中国にとって可愛いのではないか。北朝鮮の鉄鉱石を中国の工場に流しこんで、中朝の経済関係は60億ドルを超えた。北朝鮮の港湾施設、経済特区でも中朝関係は緊密だ。核兵器を使わないと約束するなら、実験どうぞ、でも放射能が漏れる実験はやめてねというのが中国の本音だと思う。北朝鮮にやめろ、と中国が言っているのは韓国、米国を安心させるためのディスインフォーメーション(ニセ情報)だ」

――日韓のミサイル防衛システムは無力か

「北朝鮮のミサイル攻撃を完全に防ぐのはあきらめなければならないだろう。有事になればノドンが何発か落ちてくるわけだから、ソウル、東京にいる人は、命は諦めて、米国が最後の最後は勝利して北朝鮮に懲罰を、と遺言を残すというシナリオになる。戦後の日本が築き上げた軽武装、経済重視という吉田ドクトリンの平和主義の帰結点だから日本人はそれに責任を持たなければならない」

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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