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「ダウンターン(下落する)・アベ(安倍首相)」を回避する方法は?

木村正人在英国際ジャーナリスト

日銀の白川方明(まさあき)総裁が5日、任期満了を待たず副総裁の任期が切れる3月19日に辞任する意向を安倍晋三首相に伝えたが、デフレ脱却と円高是正のため2%のインフレターゲットを定めた「アベノミクス」への関心はロンドンでも高い。

日本証券業協会主催、国際資本市場協会共催の第5回日本証券サミットが5日、ロンドンで開かれた。日銀はいったいどのレベルまで日本国債の保有を増やすのか、に関する財務省の担当者や市場参加者の分析が興味深かった。

いつも「英巨大ファンド日本人創業者が読む世界羅針盤」でインタビューしているロンドンの資産運用会社「キャプラ・インベストメント・マネジメント」の共同創業者、浅井将雄さんもパネラーとして同サミットに参加した。

浅井さんは独立行政法人・年金積立金管理運用(GPIF)が社会保障費の不足を補うため日本国債を売却している点を指摘する一方で、日本国債全体に占める日銀の保有率は現在の10%強から20%程度まで増えると予測した。

他のパネラーは、日銀のバランスシートは欧州中央銀行(ECB)を抜いて、対名目国内総生産(GDP)比で2013年末に40・2%、2014年末に42・2%まで膨らむと予測。もう1人のパネラーも2013年に対名目GDP比で35%に達すると分析した。

中央銀行が政府の財政をファイナンスしていると市場が判断して長期金利が上昇するのを避けるため、日銀は、長期国債の保有残高が銀行券の発行残高を超えないようにする「銀行券ルール」を定めている。

しかし、資産買い取りプログラム(APP)で購入した長期国債を含めると、すでに長期国債の保有残高は銀行券の発行残高を上回っている。

日銀のバランスシートがどこまで膨らむのか、日本国債全体に占める日銀の保有率がいったいどこまで急上昇するのか、パネラーの誰一人として言及しようとはしなかった。

2016年までには日本の経常黒字はなくなるというのが市場のコンセンサスで、貿易赤字の拡大で経常収支の赤字転落はもっと早くなる恐れがあるという指摘もあった。

中央銀行の独立性を脅かし、日銀が財政をファイナンスしているのではないかと疑われかねないリスクを取ってまで経済環境を整えるのだから、法人税の引き下げ、金融資産の世代間移動、規制緩和といった構造改革を進めなければアベノミクスは意味がない。

日本の映画専門チャンネルでも英国の人気TVドラマ「ダウントン・アビー」が放送されているが、英国では、これをもじって「ダウンターン(下落する)・アベ(安倍首相)」という皮肉を耳にする。

「日本の問題点は、通貨ではなく生産性」「円安になったところで日本製品は見向きもされない」「日本はゾンビ経済だ」というきつい論調も聞かれる。

しかし、英紙フィナンシャル・タイムズの経済コラムニスト、マーティン・ウルフ氏は最新コラムで「アベノミクスは20年間低迷を続ける経済を回復させるのか、それとも通貨安戦争を招いてハイパーインフレで崩壊するのか。リスクは何も変わらないことだ」と指摘している。

その心は?

円高が是正され、輸出が促進されて、企業が黒字になっても、それを従業員の賃上げか株主への配当で還元しなければ何も変わらないということだ。ウルフ氏は「デフレが日本経済低迷の原因ではない」とも強調している。

英誌エコノミストのビル・エモット前編集長も「日本経済の問題は、政府は赤字、一般市民はカネがない、企業がカネをため込んでいることなんだ」とよく話している。

カネは天下の回り物といわれるが、どのように回していくのかが、アベノミクスの第三の矢である成長戦略のカギともなりそうだ。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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