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分散するパワー 没落する西洋とリオリエント

木村正人在英国際ジャーナリスト

米国の地位を脅かす国がなかった「パックス・アメリカーナ」の時代は幕を閉じ、覇権国家なき世界がやって来る。日本やロシア、欧州は相対的に衰退を続ける。米中央情報局(CIA)など16の米情報機関を束ねる米国の「国家情報会議」が4年ごとにまとめている報告書「世界潮流(グローバル・トレンド)2030」を発表した。

報告書は今後10~20年の間に中国は経済力で米国を追い抜くものの、軍事力やソフトパワーなどの総合力で米国は指導的地位を保つと分析。しかし、米国では民主党と共和党の対立が深まっており、そうした困難な状況下、米国は新しい役割を構築しなければならないと指摘している。

経済協力開発機構(OECD)によると、インド、中国、アジアの中産階級の消費は2030年までに世界全体の半分を超え、日米欧とその他の合計を追い抜く。

報告書は、「中産階級の拡大が世界に地殻変動を起こす」と予測し、「多極化する世界では同盟国、友好国、個人や非国家主体のネットワーク形成がカギになる」と分析している。

2030年時点の総合力ランキングは1位米国、2位中国、3位インド、4位日本、5位英国、6位フランス、7位ドイツ、8位ロシアとなっている。

過去30年間、10%成長を続けた中国の経済成長は高齢化の進行とともに減速するものの、2025年時点で世界全体の経済成長の3分の1を占め、2030年時点の国内総生産(GDP)は日本の2・4倍になっているという。

中国は外交圧力を強めており、今後、アジアで日中、日韓、中韓、インド・中国、ベトナム・中国間の緊張が高まる。アジア諸国が経済では中国との関係を深める一方で、米国との安全保障関係を強化する傾向が続くと報告書は予測している。

米国では新しいタイプの天然ガス・シェールガスの開発が進み、石油の中東依存が解消されて、2030年にはエネルギー輸出国に転じるという。イスラム過激派はイスラム圏で支持を失っており、テロの脅威がなくなる可能性がある。

その一方で、核・ミサイル開発を進める北朝鮮やイランの脅威を封じ込めるため、核の傘を拡大する可能性についても言及している。

一方、日本が抱える最大の問題は急速に進む少子高齢化だ。2010年時点で45歳だった平均年齢は2030年には52歳に上昇。同じ期間に米国は37歳から39歳に、インドは26歳から32歳に、中国は35歳から43歳に上昇する。

人口構成が経済成長のチャンスになるのは0~14歳人口が全体の30%未満、65歳以上が15%未満のときだそうだ。日本では1965~1995年にこの時期は終わっているのに対し、米国は2015年まで、中国は2025年まで続き、インドは2015~2050年に到来する。

次期首相就任が確実視される自民党の安倍晋三総裁は、経済成長を取り戻すためリフレ(緩やかなインフレーションに導く)政策を唱えているが、一部では「活力を失った高齢者に与えるビタミン剤を10錠から30錠に増やしても日本経済は復活しない」という指摘がある。

人口問題に即効薬はないものの、日本が成長力を取り戻すには「デフレ脱却」の対処療法以上に、政治が少子高齢化対策、移民政策、アジア・太平洋戦略でリーダーシップを発揮しなければならないのはいうまでもないことだ。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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