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ワーキングホリデーの恐怖。これが実話!? 映画『ザ・ロイヤル・ホテル』

木村浩嗣在スペイン・ジャーナリスト
お金がなくなり働くことを決意した2人は、忘れられない経験をする

バックパッカーの女性2人がワーキングホリデーで恐怖の体験をする――というのはホラー映画ではありふれている。が、この作品、実話なんですね。だから、恐ろしい。

こんなことが現代の文明国オーストラリアであっていいのか?

■男たちが若い外国人女性を品定め

映画『ザ・ロイヤル・ホテル』(The Royal Hotel)はドキュメンタリーの『ホテル・クールガルディ』(Hotel Coolgardie)に着想を得て作られた、というかほとんどそっくりだ。

実話が基になっているので、残虐な事件が起こったりはしない。誰も死なないし、幽霊も、モンスターも出て来ない。出て来るのは、人間の男たちだ。粗野で、下品で、暴力的で、男尊女卑で、女性嫌悪で、同性愛者や異人種や外国人を毛嫌いする、教養や知性の欠片もない連中である。

こんな連中の前に、外国から来た金のない若い女性2人が現れたらどうなるか?

↑が映画(2023年)↓がドキュメンタリー(2016年)。そっくりだ。

もう一度言うが、これ、実話である。なので、どうしようもない男どもは実在する。

映画では俳優が演じているが、ドキュメンタリーの方には名前と顔をさらして登場している。

■隠れない男たち。セクハラが日常だから

で、粗野で、下品で、暴力的で、男尊女卑で、女性嫌悪で、偏見の塊であることを包み隠さない男たちは、女性2人へのセクハラは当然のこととして、性加害寸前の行為にまで及ぶ。

ドキュメンタリーには、女性の1人が肉体的な危害を受ける寸前のシーンがある。あれ、撮影スタッフがその場にいなければどうなっていたのだろう? カメラを投げ付けて阻止したい衝動にかられるシーンだ。

しつこいが、これ、実話で、ドキュメンタリーの方に登場する、粗野で、下品で、暴力的で、男尊女卑で、女性嫌悪……の男たちは実在する

彼らがカメラの前で上品に振る舞ったり、紳士的に行動したりしないところが怖い。それはつまり、カメラが収めた恐怖は日常茶飯事の当たり前のことで、恥ずべきことでも、隠すべきことでもないことを意味するからだ。

まず、こういう男たちが実在することが怖い。次に、彼らの蛮行の数々が当然とされる社会が実在することが、もっと怖い。

ドキュメンタリーを見た後、こんな内容で村の人たちがよく放送や上映を許可したな、と思ったが、これが当たり前で普通なのなら、放送や上映に反対する理由がない

■「フレッシュ・ミート」と呼ばれて

女性たちにとっては恐怖の連続だろう。女性の方も実在する。カメラの前で彼女たちは野獣たちをなだめすかし、ぎりぎりのところでかわしていく。

例えば、デートに誘われる。返事は断固としてノーだが、下手な言い方をすると暴力的にリアクションされる。傷付けないように、刺激しないようにと、気を遣うのも女たちの方なのだ。

つまり、彼女たちは思慮深く機転が利く人間である。対して、男たちは暴発寸前の性欲の塊、ただのサカリのついた動物である。

女性たちが逃げ出しても男たちはまったく困らない。新顔の「フレッシュ・ミート」(と彼女たちは呼ばれる)が仕事を求めてまた必ずやって来るからだ。

『ザ・ロイヤル・ホテル』のキティ・グリーン監督
『ザ・ロイヤル・ホテル』のキティ・グリーン監督

まず、映画『ザ・ロイヤル・ホテル』を見て、次に、ドキュメンタリー『ホテル・クールガルディ』を見てほしい(順番は逆でもOK)。フィクションだと思って見るのと、実話だと思って見るのでは衝撃が段違いなので、両方の鑑賞を強くおススメする

これらを見ると、女たちが綱渡りで生きている、男の性暴力衝動にさらされる日常のリアルが、垣間見えるのだ。

※写真提供はサン・セバスティアン映画祭

在スペイン・ジャーナリスト

編集者、コピーライターを経て94年からスペインへ。98年、99年と同国サッカー連盟のコーチライセンスを取得し少年チームを指導。2006年に帰国し『footballista フットボリスタ』編集長に就任。08年からスペイン・セビージャに拠点を移し特派員兼編集長に。15年7月編集長を辞しスペインサッカーを追いつつ、セビージャ市王者となった少年チームを率いる。サラマンカ大学映像コミュニケーション学部に聴講生として5年間在籍。趣味は映画(スペイン映画数百本鑑賞済み)、踊り(セビジャーナス)、おしゃべり、料理を通して人と深くつき合うこと。スペインのシッチェス映画祭とサン・セバスティアン映画祭を毎年取材

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