Yahoo!ニュース

欧州のバルセロナはなぜ弱く見えるのか?(マンチェスター・ユナイテッド戦分析)

木村浩嗣在スペイン・ジャーナリスト
ジェットコースターのような展開は中立の観戦者にとっては最高だったが……(写真:ロイター/アフロ)

国内では無敵、欧州では“有敵”。パフォーマンスに大きな差があるバルセロナ。なぜか?

■タイミングの悪いローテーション

1つは、監督シャビがチームをいじったこと。

国内リーグ21試合で7失点の堅守が、常勝を支えていた。だが、その柱である左SBバルデ、左CBクリステンセン、右CBアラウホ、右SBクンデのDFラインを昨夜は崩した。

マンチェスターU戦のセットは、左SBジョルディ・アルバ、左CBマルコス・アロンソ、右CBクンデ、右SBアラウホだった。

アロンソの本職はSBであってCBではない。アルバよりもバルデの方が守備の強度(運動量、特に背走スピード)が上で、これまで強敵相手には必ずバルデを選んできたが、昨夜に限ってアルバを選んだ。

シャビの気持ちはわかる。

真面目に練習しているベテランに“君らのことを信頼している”というのは。長期的にはメンバーを入れ替えた方が、疲労の蓄積も防げるし選手層も厚くなる。だが、これは2戦限りで後がないトーナメントなのだ。ローテーションするなら、マンチェスターU戦後のリーガ、カディス戦、アルメリア戦という打って付けのカードがあるじゃないか。

いくつかのシャビの采配には疑問がある
いくつかのシャビの采配には疑問がある写真:ロイター/アフロ

■アラウホとクンデをなぜ入れ替えなかった?

2つ目は、修正が遅れたこと。

いつものアラウホ右CB、クンデ右SBではなく、クンデ右CB、アラウホ右SBにしたのはラシュフォード対策だったのだろう。アラウホの対人能力(スピード、パワー、高さ)はクンデより上。彼をエース、ラシュフォード(やはりスピード、パワー、高さに優れる)にぶつけるのは当然だ。

だが、フタを開けてみるとラシュフォードのポジションは左サイドではなくCFだった。

両者をすぐに入れ替えるのかと思ったら、シャビは後半の中ほどまでそのまま放置した。右SBをそん色なく務められるパス能力とセンタリング能力を持つクンデに対して、アラウホの攻撃参加力は低い。結果的に攻守ともマイナスになった。

ただ入れ替えるだけ、これまでの形に戻すだけなので、簡単にできる。解せない判断だった。

■欧州の笛は国内ほど繊細ではない

3つ目、欧州の笛と国内の笛の違い。

国内と欧州カップ戦ではフィジカルコンタクトに対する寛容さが違う。国内で笛が鳴るような接触プレーでも欧州では流される。技巧派のバルセロナにとっては不利だ。

足下に飛び込んで来る相手を技でかわそうとして衝突し、ボールがこぼれる。これがファウル、イエローになるのと、ボールを拾われカウンターになるのとでは大違いである。

さらに悪いことに、相手の勢いを技でいなせるペドリが負傷で途中退場。プレーのリズムも欧州の方がハイテンポなのだが、ボールをキープすることでスローダウンさせる役のキーマンがいなくなった。

PKのジャッジも欧州と国内では違う。

63分ラシュフォードが倒されたシーン、84分フレッジのハンドは国内であればPKだったかもしれない。ラシュフォードのシーンはバスクダービーでの久保のPK+レッドカード獲得を思い出した人もいるのではないか。

欧州の笛とスペインの笛には違いがある
欧州の笛とスペインの笛には違いがある写真:ロイター/アフロ

■イージーなミスが連鎖する仕組み

4つ目、欧州でのネガティブな記憶。

バルセロナは欧州では別人になる。リーガでは3試合で1失点のペースなのに、この夜だけで2失点して2-2に終わり、国内無敵なのに勝てなかった。

先のCLグループステージでは2勝1分3敗で12得点12失点。あの頃とはCBの顔ぶれが変わりMF4人になって、対人能力、プレスの強度、ポゼッション力がいずれも上がっているのに、いつものバタバタした攻め合い、撃ち合いをしてしまった。

昨日の試合はCL第4節チェルシー戦(3-3)とそっくり。土俵際に追い詰められてから反撃して引っくり返しかけたところまで同じだった。

根性の粘りは評価できるが、ボールを通して試合を安全にコントロールする本来の姿がからはほど遠かった。

国内ではめったにしない失点をすると、動揺する。途端に、圧力のないところでのコントロールミスやパスミス、ボールの譲り合いなどあり得ないミスを連発する。選手たちの顔色が変わっている。

土壇場で粘れたことがどうプラスになるか?
土壇場で粘れたことがどうプラスになるか?写真:ロイター/アフロ

■強くなるレアル・マドリーの真逆

ミスの頂点だったのが、あの59分の2失点目のシーン。

ショートコーナーからラシュフォードにライン際を突破されたのが切っかけだったが、マンチェスターUの2人に対してバルセロナの守備者は1人だけだった。

ショートコーナーにはもう1人送って2対2にして臨むのがセオリーであり、これは小学生でもやっている(私が指導していたチームもやっていた)。そんな初歩的なミスが出るというのは、気持ちの動揺以外あり得ない。

ファウルが吹かれない、中盤が支え切れない、ハイリズムとパワー、ロングボールで敵陣に押し込まれる。“こんなはずではない”展開で失点すると、ついこの前のCL敗退とここ数年の欧州での低迷が思い出される。ビビッて技術がブレ、パススピードが落ち、プレーが消極的になる……。

レアル・マドリーは欧州では強くなる。

酷い内容でリードされるのに、どういう訳か土壇場で逆転する。そのマジックの大部分は“俺たちは強い”という思い込み、成功体験に裏付けられた自信によるものだと思う。

バルセロナには真逆のことが起こっている。挫折体験に裏付けられた自信喪失である。

来週の第2レグは、ガビが出場停止でペドリが負傷欠場でアウェイ。過去を忘れられるかがカギになる。

在スペイン・ジャーナリスト

編集者、コピーライターを経て94年からスペインへ。98年、99年と同国サッカー連盟のコーチライセンスを取得し少年チームを指導。2006年に帰国し『footballista フットボリスタ』編集長に就任。08年からスペイン・セビージャに拠点を移し特派員兼編集長に。15年7月編集長を辞しスペインサッカーを追いつつ、セビージャ市王者となった少年チームを率いる。サラマンカ大学映像コミュニケーション学部に聴講生として5年間在籍。趣味は映画(スペイン映画数百本鑑賞済み)、踊り(セビジャーナス)、おしゃべり、料理を通して人と深くつき合うこと。スペインのシッチェス映画祭とサン・セバスティアン映画祭を毎年取材

木村浩嗣の最近の記事