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14日横浜で上映! 映画『二つの世界の狭間で』にみる「現代の女性搾取の現場」

木村浩嗣在スペイン・ジャーナリスト
クルーズという娯楽は「見えない」彼女たちの過酷な作業に支えられている

期日が迫っているので何よりもまずは告知を。

今回紹介する『ウイストルアム - 二つの世界の狭間で -』が、フランス映画祭2021横浜で11月14日に上映される。日本公開はまだ先のようなので、この機会を逃さずに!

サン・セバスティアン映画祭で欧州部門の観客賞に選ばれたこの作品は、一人でも多くの人に見てほしい。

※フランス映画祭2021 横浜のホームページはこちら。

■客室清掃員の過酷な現場

今スペインで、女性が最も搾取されている労働現場の一つ、といわれているのが、ホテルの客室清掃員だ。観光立国を底から支える人たちである。

ハイシーズンをピークとした不安定な季節労働で、賃金は掃除した部屋数で決まる出来高制。時間と部屋数にはノルマがある。清掃時間はチェックアウト後の部屋が30分間ほどで、それ以外は10分間ほど。最低賃金すれすれの給料なので、これだけのスピードで1日20部屋こなしてやっと生活費分を稼げる。社会保険に未加入で働かされているケースも稀ではなく、重労働でケガや病気をしたら単に給料がもらえないだけ――。

構造的に、ステップアップは不可能で抜け出せない仕組みになっている。

この作品を見ると、フランスの事情も大して変わらないようだ。いや、もっと酷いかも。寄港地での大型クルーズ船の掃除は「1室4分間」というとんでもないセリフが出てくる。停泊時間の90分間で230部屋を手分けして綺麗にするのである。

■見えない。よって存在しない人たち

ジュリエット・ビノシュ演じる主人公は客室だけではなく、オフィス、キャンプ場などの掃除もする。クリーニング専門の派遣会社に所属していて職場は日々変わる。

ただ、どこでも共通しているのは彼女たちは「見えない存在」であること。

ホテルを出て観光して帰って来るといつの間にかベッドメイクがされている。それはそういうもので、掃除している誰かがいる、とは考えない習慣ができている。オフィスへは退社する最後の社員とすれ違いに入って来て、港ではクルーズ客が戻って来る直前に退散している。

気持ち良く掃除された部屋という「成果」の方は残っていても、それを「実現した人」の姿は見えない。

で、見えないと存在しないことになって、我われは忘れてしまうのだ。

彼女たちがどんな酷い条件で働いていようと存在しないのだから、良心の呵責を感じず安心して無関心でいられるのだ。

■入り交じらない二つの世界

ホテルやオフィスを利用している我われと、掃除をしている彼女たちは時間と空間をともにしていない。「サービスの受け手」と「与え手」という関係で結び付いていながら、二つの別々の世界を生きている。

と同時に、クルーズ船で優雅にシャンパンで乾杯をする人と、飲み過ぎ+船酔いでぶち撒けられた彼らのゲロを掃除する人は、「住む世界が違う」という意味でもある。

見えないと気にしない。気にしないと見えない。この相乗効果で二つの世界が交わることは普通はない。

とはいえ、「異なる世界の残酷なまでの格差」というのは、この作品のメインテーマではない。だから「狭間で」と題名で断っているのだ。

交わらない二つの世界の狭間で生きる、とはどういうことなのか?

この、より重要な、私の心を揺さぶったテーマの方には触れたいけど触れられない。ネタバレが嫌だから。

あらすじや予告編ではあっさり触れているので、ここに書いてもいいような気もするがやめておく。

何の予備知識もなく見た私は途中で「なるほど」と合点した。そのサプライズ交じりのスッキリ感をきっかけに、この作品は社会的なテーマから個人的なテーマへと舵を切る。

いったいお前は何なんだ? 何をやっているのだ?と迫ってくるのだ。

見終わった後、身につまされた。そのことはまた別の機会に書きたい。

※写真はサン・セバスティアン映画祭提供。

在スペイン・ジャーナリスト

編集者、コピーライターを経て94年からスペインへ。98年、99年と同国サッカー連盟のコーチライセンスを取得し少年チームを指導。2006年に帰国し『footballista フットボリスタ』編集長に就任。08年からスペイン・セビージャに拠点を移し特派員兼編集長に。15年7月編集長を辞しスペインサッカーを追いつつ、セビージャ市王者となった少年チームを率いる。サラマンカ大学映像コミュニケーション学部に聴講生として5年間在籍。趣味は映画(スペイン映画数百本鑑賞済み)、踊り(セビジャーナス)、おしゃべり、料理を通して人と深くつき合うこと。スペインのシッチェス映画祭とサン・セバスティアン映画祭を毎年取材

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