厳戒下のサン・セバスティアン国際映画祭を現地取材。コロナ感染対策は万全だったか?
9月18日から26日まで開かれたサン・セバスティアン国際映画祭を現地取材してきた。
この開催には2つの意義がある。
1つは、カンヌ映画祭が中止される中、コロナ禍の下で開催された、ベネチアに次ぐ2番目の国際映画祭であること。2つ目は、開催地が通算83万人、1週間で5万から6万人程度の新規感染者を出しているスペインだったことだ。首都マドリッドでは今500万人が再ロックダウンに苦しんでいる。
こんな状況でも映画祭ディレクターのレボルディノスはオンライン開催を拒否した。それは観客不足で壊滅的なダメージを受ける映画業界への支援のため。映画祭を成功させ映画鑑賞が安全であることを証明したかったのだ。
その意気に共感して現地取材することにした。
シンプルな感染対策の感想
最初の驚きは、移動の飛行機内がほぼ満席だったことだ。
ソーシャルディスタンス(以下SDと略す)は、乗り込むまでは最低1.5メートルを厳守しなければならないが、乗り込んでみると満席。それが正しいか間違っているかの議論はしない。それは科学者の仕事だ。
が、映画祭では上映室の収容能力の50から60%に制限されていたのに飛行機は満席というのは矛盾している、という印象は誰でも抱くだろう。
映画祭の感染対策は極めてシンプルだった。
1上映室のキャパの上限は50から60%
2マスク着用
3全席予約制で席の移動は禁止
4入室前にジェルで手を消毒
5上映間隔が1時間から2時間で、この間に座席を消毒
6感染対策を守りましょう、というスポットを上映前にしつこく流す
それぞれの感想を書く。
1については、席を1つ空けても人と人の距離は1メートルも無い。SDとは矛盾する。が、それが正しいか否かは問わない。
2については、スペインではすでに屋外、屋内を問わずSDが守られているか否かを問わず、どこでも着用しないと罰金なので、違和感はない。
3については、過去の映画祭では記者は自由席で好きなところに座っていた。また予約抜きでも列を作れば入れた。なるべく多くの作品を見よう、という私には不向きだった。
4についてはスマホのバーコードでチェックを終えるとすぐに消毒。片手にはスマホを持ったまま。人工物経由で感染するのか、どこまで効果はあるのかは疑問だが、まあこれはもう習慣のようなもの。
5については作品をたくさん見ようとする者には、上映回数と作品数が減って不向き。
6については3カ国語(バスク語、スペイン語、英語)で毎回やられると、ややしつこい。
6万人観賞で感染者は出たか?
このシンプルな対策で、9日間で6万2000人が142作品を514回の上映で見た。チケットはほとんどが完売で満員御礼だった。
で、結果はどうだったか?
感染者はゼロだった。集団感染どころか感染者自体が出なかった。
もちろん、調査をちゃんとしたのか?という疑問はある。6万2000人の追跡調査なんてできっこない。
が、少なくとも映画祭の滞在中に発症したり入院したりした者はいなかった。
これは上記のシンプルな対策さえすれば、映画館は安全、という重要な証明ではないのか?
繰り返すが、スペインは世界有数の感染率、感染者数を出している国である。首都がロックダウン中なのだ。
そこの有数の観光地であるサン・セバスティアンでの国際映画祭が感染者ゼロだった。
ならば、他の国際映画祭も前向きに開催を考えられるのではないか?
感染のリスクをゼロにすることはできない。リスクを負いつつ映画を楽しむべき今、どのあたりに境界線を引けば良いのか、を考えるのに有意義な経験だった。
※カバー写真は映画祭提供/ Photo:Gari Garaialde
本文中の写真は筆者撮影