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ロシアW杯最終日。フランス優勝に見る、コンペティションとしての、ショーとしてのサッカーの限界

木村浩嗣在スペイン・ジャーナリスト
勝てば子供のようにうれしい!ゴールデンボール賞モドリッチのサプライズは粋でした(写真:長田洋平/アフロスポーツ)

マッチレビューではなく、大きな視点でのW杯レポートの最終回。フランス対クロアチアの決勝で見えたのは、コンペティションとしてのサッカーと、ショーとしてのサッカー、それぞれの限界だった。

決勝のフランス対クロアチア(4-2)をスペインで解説したのは、ホセ・アントニオ・カマーチョだった。元スペイン代表監督の彼は2002年日韓W杯での汗ジミで有名になった熱い男、イケイケドンドンで守備よりも攻撃という豪気な男である。

よって、この日の前半終了時点のスコア、2-1には「フランスはリードに相応しいことを何もしていない!」、「チャンス1回で2得点なんて効率が良過ぎるだろ!」とおかんむりだった。

スペインは攻撃的サッカー賛美の国であり、隣国フランスには歴史的に妬みもある。クロアチアのように攻撃に出て力尽きた者に共感するという、ロマンチックな敗戦の美学がまだ残ってもいる。

スペインのように勝ち方にこだわる国(こだわり過ぎて迷い子になってしまったが……)が、フランスの勝利ではなく「勝ち方」の方に文句を言いたくなる、というのはわかる。

勝てば良いW杯でフランスの順当勝利

だが、プロサッカーはコンペティションであり、その頂点にあるW杯は勝てば良い。正当性や相応しさは問われない。

フランスの2点は、1点目はグリーズマンのダイブがファウルと誤審されたFKから得たオウンゴール、2点目はVAR介入後のPKによるもの。2点目のハンドは明らかだから不当ではないが、1点目はラッキーだった。だが、運も実力のうちである。

後半はGKロリスのプレゼント以外は完全にフランスペースだったから、クロアチアの頑張りがいくら感動的だと言っても、フランスが優勝に相応しくないわけではない。

とはいえ、フランスの勝利に意外性がなかったことは確かだ。

意外性やサプライズは結末の感動に大いに関係する。こうなるな、と思っていた映画がその通りに終わった後はやはり味気なく思うものだ。

セットプレーでリードしたフランスが11人で守り、3試合連続の延長戦と1日少ない休養日で疲労したクロアチアのエネルギーが尽きた頃合いを見計らって、エムバペを中心とするカウンターで止めを刺す――というのは、誰もが想像した通りのシナリオではなかったか?

ドラマを期待する心情的には、クロアチアに勝って欲しかったが、チームの状態的にも戦い方の効率の点でも勝利に近かったフランスが、順当に勝利した。

解読&予測可能なドラマは面白くない

コンペティションとしては順当だが、ショーとしては物足りないものだった。

勝利至上主義のコンペティションの論理と、勝ち方やサプライズという勝利以外のものを要求するショーの論理はしばしば衝突する。その場合、コンペティションが優越するのはW杯なのだから当然であり、ショーは二次的なものでしかない。

ショーとして面白く、コンペティション的にも強いというのは理想的だが、なかなかそうはいかない。

監督だって勝つためにチームを作る。その最短距離を探す。それはデシャン監督だってダリッチ監督だって同じである。そうでないのだったら、「勝て!」と言ってチームを国から送り出すな、ということだ。

フランスは勝つことに徹したチームだった。

同点の時点(試合のスタートも含む)では11人を相手ボールの後ろに置く、リードしたら同じ守り方のままラインを下げる、リードされたらどんな戦い方をするのか、アルゼンチン戦の10分間足らずしか機会がなかったのでわからない。

そういう大枠の中で、細かなルールがいくつかあった。

GKロリスのゴールキックは必ずジルーの頭に目掛けて、敵陣でのスローインもジルーの頭へ、ロングカウンターではまず右サイドのエムバペを探す、ボール奪取点が前あるいはポグバが持ち上がるなど時間がある場合は、エムバペは対角線に侵入、グリーズマンはエムバペからの戻しをもらい、ジルーは左サイドのファーポストに流れてヘディングを狙う。エムバペがカウンターのスイッチを入れる役、いきなりジルーの頭に合わせるのはあくまでオプション。いずれのケースでもグリーズマンはセカンドボールに対応しサポートに回る……。

全64試合視聴のW杯レポートもお別れ

デシャン采配にも“謎”が介入する余地があったのは、デビューのオーストラリア戦のみ。次のペルー戦以降は不変&不動。

システムは[4-2-3-1]という表記だが実際は[4-3-3]、交代策はマテュイディ→トリッソなど同ポジションでの交代でなければ、アタッカーを守備的MFに代えるなどの守備固めのみ(リードされなかったから当然だ)と、意外性ゼロだった。

攻撃タレントも含めて11人が守る、ボールポゼッションにこだわらない(決勝トーナメント後の4試合で50%超はウルグアイ戦のみ)、カウンターが攻撃の核という特徴は、前2回大会の王者スペイン、ドイツとは大きく異なる。

フランスとベルギーが優勝候補で、クロアチアとイングランドが続き、ロシアとスウェーデンもしぶとく、ドイツ、スペイン、ポルトガルの巻き返しが期待される、EURO2020が楽しみとなる終わり方だった。

1カ月24回にわたった全64試合完全視聴による、ほぼ毎日更新W杯レポートも今回で終わります。ご愛読ありがとうございました。次はリーガエスパニョーラかCLか映画でお会いしましょう!

在スペイン・ジャーナリスト

編集者、コピーライターを経て94年からスペインへ。98年、99年と同国サッカー連盟のコーチライセンスを取得し少年チームを指導。2006年に帰国し『footballista フットボリスタ』編集長に就任。08年からスペイン・セビージャに拠点を移し特派員兼編集長に。15年7月編集長を辞しスペインサッカーを追いつつ、セビージャ市王者となった少年チームを率いる。サラマンカ大学映像コミュニケーション学部に聴講生として5年間在籍。趣味は映画(スペイン映画数百本鑑賞済み)、踊り(セビジャーナス)、おしゃべり、料理を通して人と深くつき合うこと。スペインのシッチェス映画祭とサン・セバスティアン映画祭を毎年取材

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