ロシアW杯20日目。ボール支配率4割のベルギーがなぜ魅力的なのか? 攻撃と守備の定義と“実感”のズレ

ルカクを前に残す名采配。スペインの監督候補にマルティネスが挙がっているのもわかる(写真:ロイター/アフロ)

マッチレビューではなく大きな視点でのW杯レポートの19回目。大会20日目の2試合で見えたのは、攻撃と守備の定義と“実感”のズレ。ボール支配率4割のベルギーはなぜ魅力的に見えるのか?

ブラジル対ベルギー(1-2)は今大会これまでのベストゲームだろう。ポルトガル対スペインドイツ対メキシコ日本対セネガルベルギー対日本には興奮させられたし、ドイツ対スウェーデンクロアチア対デンマークはドラマチックだった。だが、個のレベルの高さ、戦術的な駆け引きの面白さではこの試合がナンバー1であり、そうなったのはベルギー監督ロベルト・マルティネスの采配に依るところが大きい。

一発勝負なのだから、何たってブラジルの前では格下なのだから、守りに入っても良かった。だが、そうしなかった。

“ボール支配高=攻撃的”のスペイン的誤り

ブラジルの攻撃的精神は“天然”である。彼らの血の中にはサッカーはゴールこそ華であり、それも見栄えのするプレーで得点してこそなんぼ、というのがある。ネイマールやマルセロやドウグラス・コスタは放って置いても前へどんどん出て行く。だから、チッチ監督の仕事はプレスやリトリートなど守備の整備ということになるわけだ。ベルギーは違う。マルティネスのさじ加減で攻撃的にも守備的にもなる。

しかし、シュート26本(ベルギーは8本)、CK8本(同4本)、ボール支配率57%(同43%)のブラジルが攻撃的なのはわかるが、なぜベルギーが攻撃的と呼べるのか?

そもそも攻撃的、守備的とは何なのか?

スペインの監督ライセンスの講習の初日に、「攻撃とはボールを保持して行うすべてのアクションのこと」と教えられる。要は、ボールを保持すればするほど攻撃的となるわけだ。だが、実感とはズレがある。スペイン対ロシアでうんざりするほどパスを回したスペインがうんざりするほど攻撃的だったろうか? ボール支配率75%だったのだから75%攻撃的なチームだったろうか? そんなわけがない。全然相手ゴールを目指さないあんな戦い方が攻撃的と呼べるわけがない。

CKの守備でルカクを右前に残す意味

逆のことがベルギーには言える。彼らのブラジル戦のボール支配率は4割ちょっとだったが、十分攻撃的だった。その最たる例がCKの守りでルカクを前に残したことだ。

プロサッカーはどんどん守備的になっている。

かつてCKの守備時には前に1人残すことが主流だった。1人残すと相手はマークとカバーで2人でケアしなくてはならないから差し引き得だからだ。だが、今は11人で守るのが普通で、この大会でもほとんどのチームがそうしている。全員で守る傾向はFWにロナウドのようにヘディングに強い選手が置かれるようになって、さらに顕著になっている。

ベルギーのルカクもその空中戦に強いタイプなのだが、マルティネスは前に残した。CKで不利になってもカウンターで有利になることを選択。肉を切らせて骨を断つ、という勇敢なプラン、失点するかもしれないが得点してやる、という強気の姿勢である。これを攻撃的と形容せずして何と呼ぼう。

しかも、ルカクを右に置いた。これは相手左SBマルセロが上がることを想定しての、攻められたら攻め返します、というメッセージだった。3トップの残りの2人デ・ブルイネとアザールはどちらかがショートコーナー対策、残り1人が真ん中に配置された。いずれもゴール前の密集には入らず、マイボールになれば直ちにルカクをサポートするために前へ走った。

両監督が演出したスリリングな3対3

この試合マルティネスはFWのメルテンスの代わりにMFのフェライーニを入れ、これまでの3バックから4バックへ変えた。これが日本に良いように攻められたサイドを強化する目的だったことは明らかである。だが、ブラジルの強力な攻撃タレントを前にして守りに入ったわけではなく、ちゃんと点を取りに行くシナリオを作っていた。

そのシナリオ通りに運んだのが、ベルギーの2点目となる見事なカウンターだった。

相手CKのボールをインターセプトしてすぐにルカクに渡し、ルカクがドリブルで突進して右にデ・ブルイネとムニエが流れる。マルセロとコウチーニョが戻り切れなかったギャップでパスを受けたデ・ブルイネがネットを揺らす――。

後半2点リードされたブラジルが猛攻に出る。ここでもマルティネスはルカク、デ・ブルイネ、アザールを前に残すやり方を変えなかった。ブラジルのマーク担当はそれぞれミランダ、チアゴ・シウバ、ファグネール。点を取りに行かざるを得ないブラジルに1人余らせる余裕はなく、チッチも3対3のマッチアップで受けて立った。

この両監督の守備を犠牲にして攻めるという姿勢によって、ブラジルが圧倒的に攻め込むものの、ベルギーが時々見せるカウンターでミランダがルカクに抜かれたら一巻の終わり、というスリリングな状況がほぼ試合終了まで、マルティネスが87分についにルカクを諦めティーレマンスを入れるまで続いたのである。この交代後、前に残ることになったアザールが、ボールをもらうとドリブルを仕掛けてファウルをもらって、アップアップのチームを助けるという献身的な働きを見せ、ベルギーが逃げ切った。

アグレッシブな守備と消極的な守備の違い

この試合とは対照的に、ウルグアイ対フランス(0-2)は守り合いになった。だが、両チームは消極的でも受け身でもなかった。

“オフェンシブな守備”というのは形容矛盾だが、“アグレッシブな守備”というのは存在する。日本のみなさんに一番わかり易い見本は、昨季まで乾がいたエイバルの守り方である。ボールを失ったら直ちに奪いに行く。DFラインを上げGKへのバックパスをも追う。もちろん体力がもたないから90分間ずっとそうはできないが、メンディリバル監督の頭の中では常にアグレッシブであれ、である。

守備のアグレッシブさの度合いは、DFラインの高さ(高いとアグレッシブ。低いとそうではない)、ボールロスト後の姿勢(プレスだとアグレッシブ。リトリートだとそうではない)で決まる。

もともとウルグアイもフランスもDFラインは高くない。特にウルグアイはリードすればDFラインを下げてロングカウンター狙いに切り替える。だが、この試合では先制されたこと、負傷のカバーニの代役ストゥアニにカバーニほどの上下動が期待できないことでラインを下げずに我慢した。フランスの方もリード後も主導権を渡す選択をせず、踏み止まった。その結果、中盤で激しい肉弾戦が展開することとなった。

必死でも無力。そりゃ涙も出るだろう…

エムバペやジルー、ルイス・スアレスやストゥアニはアタッカーとしての仕事はさせてもらえず、もっぱら、アグレッシブな守備の犠牲者として登場することになった。ゴールチャンスが極端に少なく、決着は優勢、劣勢ではなくピンポイントでの個のプレーでついた。点の取り合いではなかったが、体を張っての陣地の取り合い、踏ん張り合いではあった。

ラインを必要以上に上げずカウンターのリスクを負わないまま、プレスの強度は維持し続けた。それは汗をかくことでしか達成できない。全力で戦っているのに勝利が逃げて行く無力感が、ウルグアイのヒメネスに試合中にもかかわらず涙を流させたのだろう。ショーとしてはブラジル対ベルギーに遠く及ばなかったが、あの涙が象徴する熱戦だった。