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ロシアW杯16日目。メッシとロナウドの戦術的&人材的孤立と、フランスとウルグアイの順当勝利

木村浩嗣在スペイン・ジャーナリスト
やれることは全部やったロナウドだがメッシはそうではない。悲しみが深いのはどちらか(写真:ロイター/アフロ)

マッチレビューではなく、大きな視点でのW杯レポートの15回目。観戦予定の計64試合のうち大会16日目の2試合で見えたのは、フランスとウルグアイの順当勝利と、メッシとロナウドの戦術的&人材的孤立だ。

フランス対アルゼンチン(4-3)、ウルグアイ対ポルトガル(2-1)には共通点がある。どちらも実力上位チームの順当勝ちだったということと、敗者にはメッシとロナウドという世界1、2を争う選手がいたが、その周りが力不足だったということだ。

一発勝負だからタレント頼りでも勝てないことはない。ともに1点差で何が起こるかわからない時間帯もあった。だけど普通は、戦術的にも人材的にも多彩なオプションを持つ総合力が上のチームが勝つものだ。

メッシがフランスにいたら、ロナウドがウルグアイにいたら、タレントが組織に支えられていたら、とんでもないことになっていただろう。メッシがエムバペとジルーを自由に動かしていたなら(攻守バランスから言ってグリーズマンはベンチ)、ロナウドが前線に残りカバーニとコンビを組んでいたなら(同じ理由でルイス・スアレスはベンチ)最強だったはずだ。

しかし、サッカーはやはりチーム競技。個は集団には勝てない。

4つの先発メンバーに見る完成度の差

4チームの先発メンバーを比べると、フランスとウルグアイがグループステージのベストパフォーマンス試合(それぞれペルー戦ロシア戦)の先発と同じ、と迷いがなかったのに対し、アルゼンチンとポルトガルはいじってきた。短期決戦ではベスト11を見つけたらいじらないのが原則。こういうところにも完成度の違いが反映されていた。

ただ、突出して良かったゲームも悪かったゲームもなかったポルトガルの迷いはわかるが、明らかにナイジェリア戦というベストゲームがあったアルゼンチンの迷いはわからない。何でイグアインをトップにした[4-2-3-1]でなくて、メッシ、ゼロトップの[4-3-3]だったんだろ? センターラインを強化したということかもしれないが、イグアインが作ってくれるスペースがないのでメッシはプレーゾーンを下げざるを得なくなった。つまり、メッシはゴールから遠ざかった。

勝者側の基本思想に差。アタッカーの守備がカギ

ワンマンチームを破ったフランスとウルグアイの基本的な考え方は、“しっかり守って前線のタレントを生かす”で共通しているが、細部は異なる。

大雑把に言うと、前者がマテュイディ、ポグバ、カンテという個の守備力に依存しているのに対し、後者は組織というか団結力で守り切るタイプ。デシャン監督が守備タレントを最適に配置して強化したのに対し、連続12年間やっているタバレス監督は“人数を掛ける、球際で粘る、誰もさぼらない”の精神を浸透させて強くした。ウルグアイはもうずっと10人でペナルティエリア内外を固める、というこの守り方で誰が入っても同じだが、フランスの方は3人の誰かが欠けるとチーム全体の攻守バランスを考え直さなければならない。

守備ということでは、グリーズマンとカバーニの貢献も特筆すべきだろう。

グリーズマンは下がり気味のメッシのマークを担当。一度捕まえると最後まで離さずついて行くことで、怖いクサビからの2列目、3列目からの攻め上がりをほぼ完全に封じた。アトレティコ・マドリーで同じような役目を課されることがあるので慣れていたというのもあるのだろう。カバーニの役割はとにかく全力で戻ること。あれだけ守備に献身的なFWは今大会ではクロアチアのマンジュキッチがいるだけ。セカンドトップ兼守備的MFのカバーニの体力が続く間はチームは12人でプレーしているようなものだ。

フランス:代えが利かないジルーとポグバ

攻撃の個については、フランスのエムバペはもうみんなが絶賛しているはずなので一言だけ。

PKを誘った独走時のスピード――前にいたロホをあっという間に抜いて肩に手を掛けざるを得ない状態にした――、3点目の狭いスペースでのフェイント、リズムチェンジ、シュートは凄い。が、たぶん一番凄くて将来性があると思うのは、頭が良さそうなところ。19歳なのに物怖じしないというわかりやすい特長に加え、自己顕示欲が少なそうで状況を見極められそうなところが、特に素晴らしい。自分の得意技をごり押しするのではなく、効果的な出し方を知ってそうだ。いずれも「~そう」という印象に過ぎないのだが、予感はある。

組織については、ジルーは不動で代えが利かない。90分間プレーさせるべき。グリーズマンとエムバペは疲れたら代える。ポグバの視野の広さ、配球力、効果的な上下動は、当時史上最高移籍金額を記録した値段にふさわしいものに近づいている。このフランスならブラジルと並ぶ優勝候補だ。

ウルグアイ:連係抜群の個にロングボールを

ウルグアイの攻撃については、個はルイス・スアレスとカバーニを語るだけで良い。見本は、メキシコのドイツ戦でのゴールに並ぶ美しいコンビネーションから生まれた先制点を見れば十分。

組織として、彼らにいかにボールを供給するか? タバレス監督が選択したのは、最も単純で最短距離の答え=ロングボール。低い位置で守ってカウンターという戦い方で勝つには、この試合のように中盤ダイヤモンド型でスタートし、終盤にサイドをクリスティアン・ロドリゲスに代えて攻撃的に移行、という形がベストだろう。変な守備固めをせず2トップを維持する方が攻守バランスが一番取れていて、逃げ切りにも向いている。ただ、負傷退場したカバーニが今後出場できないようだとタバレス監督にプランBはない。

審判にも一言。ルイス・スアレスの巧妙なファウル狙いと時間稼ぎのダイブ気味のプレーを見極めたジャッジは、今大会一番の名ジャッジだったかもしれない。裁いたのはセサール・ラモス(メキシコ)。この名前、今後また聞くことがありそうだ。

アルゼンチン:中盤から下に個が足りなかった

敗者についても触れておこう。

アルゼンチンは中盤から後ろがやはり個として力不足だった。

フランスと1人ひとり比較するとバネガが勝っているかどうかというレベル。サンパオリ監督のやりくりもまずはここの強化が狙いだったのだろうが、守りを固めると創造力が下がるジレンマ。マスチェラーノとバネガの2ボランチでは怖いというのはよくわかるが、攻撃を強化することで守備の負担を減らす(具体的にはイグアインIN、エンゾ・ペレスOUT)という英断はこのプレッシャー下では無理だったか。

メッシが現れたのは4-2になってグリーズマンが下がってから。ロスタイムの3点目のアシストは彼が出したものだ。チームを背負えないままに終わった、楽しそうでないメッシを見るのは忍びない。もう代表から解放してあげても良いのではないか。

ポルトガル:内側から崩せない“ロナウド的”

ポルトガルは後半ウルグアイの足が重くなり、帰陣が遅くなるにつれて反撃を開始した。

攻撃面ではセットプレーがよく考えられていた。素早いリスタートのショートコーナーから、2人のマーカーが付くロナウドを囮にしフォンテ、ペペへのマークを薄くして、ここまで無失点だったウルグアイの守備組織に穴を開けた。ただ、それ以外では、ウルグアイの低い守りとプレスにカウンターの芽をことごとく摘まれると、右サイドからのセンタリングと、その強化(クアレスマ投入)があるだけだった。

ブロックの外側からの攻撃はあっても、内側へのギャップを突くパス、アシストの1つ前の決定的なパスが出ない。スペインからイニエスタかイスコを貸してあげたいくらいだったが、ロナウドも狭いスペースでは持ち味が生きない直線的なタイプだからポルトガルが同じ様なチームになるのはしょうがないのか。

今大会のロナウド、お膳立てまでやろうとする彼は、ゴールゲットに専念するレアル・マドリーでの彼よりもはるかに魅力的だった。見直した。今年の夏は新たな挑戦の時にしてもいいのかもしれない。

在スペイン・ジャーナリスト

編集者、コピーライターを経て94年からスペインへ。98年、99年と同国サッカー連盟のコーチライセンスを取得し少年チームを指導。2006年に帰国し『footballista フットボリスタ』編集長に就任。08年からスペイン・セビージャに拠点を移し特派員兼編集長に。15年7月編集長を辞しスペインサッカーを追いつつ、セビージャ市王者となった少年チームを率いる。サラマンカ大学映像コミュニケーション学部に聴講生として5年間在籍。趣味は映画(スペイン映画数百本鑑賞済み)、踊り(セビジャーナス)、おしゃべり、料理を通して人と深くつき合うこと。スペインのシッチェス映画祭とサン・セバスティアン映画祭を毎年取材

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