Yahoo!ニュース

ロシアW杯15日目。日本なら許す、あの幕切れ。ベルギーとイングランドは駄目。セネガルは不運だった

木村浩嗣在スペイン・ジャーナリスト
収穫はアクセントを作れていた宇佐美。乾との併用も考えるべき。柴崎は疲労蓄積が心配(写真:長田洋平/アフロスポーツ)

マッチレビューではなく、大きな視点でのW杯レポートの14回目。観戦予定の計64試合のうち大会15日目の4試合で見えたのは、日本なら許す、あの幕切れ。ベルギーとイングランドは駄目。セネガルの不運……。

引き分け狙いに正当なサッカーの神の罰と昨日の記事で書いたばかりだ。その理屈で言えば、イングランド対ベルギー(0-1)は駄目試合であり、それはファンが浴びせたブーイングが証明してもいる。

このグループステージ屈指の好カードは第1戦で当たっていたらその通りの好カードになっていただろう。だが、ともに2勝で勝ち上がりを決めた状態では、決戦ではなくフレンドリーマッチレベルまでトーンは落ちていた。

一見、攻め合っているが必死ではない

イングランドのサウスゲイト監督は「勝ちに行く」とお決まりの発言をしていたが、フタを開けてみるとレギュラー11人のうち8人がベンチ。正直者のベルギーのマルティネス監督は「勝利優先ではなく選手の温存を優先する」と言い、その通り9人を温存。インテンシティとリズムは低くアグレッシブでもない。セットプレーには時間をかけ攻撃の人数もかけない。一見、攻め合ってはいるが、必死ではない、というのが伝わって来る。

勝利して強豪が待ち構える“死の山”に入ったベルギーに、「ベルギーは何も恐れない」というタイトルを付けた記事を見たが、本当か? 何も恐れなかったのはベルギーではなく、先発アピールをしたかったヤヌザイではないのか。

唯一の見どころは、両チームの対照的なゴールの目指し方だった。

ベルギーは手数を掛け繋ぐことでマークを外しギャップを作り崩していく。イングランドはスペースへのロングボールをきっかけに押し上げ最後はセンタリングに飛び込む。今を代表する異なったスタイルの真剣勝負を見たかった。

“あれ”が最も可能性の高い方法だった

同じ理屈で言えば、日本対ポーランド(0-1)の最後10分+ロスタイムで起こったことはもっともっと駄目なのだが、贔屓の日本だから許す。デンマーク対フランスもイングランド対ベルギーも許さないが、日本は許す。

真面目な話、あれが最も可能性の高い勝ち上がりの方法だった。

日本が点を取りそうな感じはまったくなく、ポーランドはいつでも2点目が取れそうだった。73分レバンドフスキが外すはずのないチャンスで外したが、あんな幸運は次はない。得点の可能性よりも失点の可能性の方がはるかに大きかった。ならば1点差負けを維持するしかないではないか。

柴崎が疲労しフィルターが掛からずボールロストから次々とカウンターを仕掛けられ、投入された乾に何かやれ、と言われてもボールが届かないのだから無理。先制された後、日本に得点のチャンスはありましたか? 失点のピンチはあったけど。

内容的にはベストゲームだった第2戦のメンバーから6人を入れ替えた西野采配に、どういう狙いがあったかはわからない。温存だとしたらとんでもないが、そんなことはないと信じる。

確かなのは、58分のポーランドのゴールから攻めの放棄の80分まで点を取りに行くプランが乾投入以外になく、本田や香川には交代枠が残っていなかったということ。この点についてはベルギー戦までに議論されるべきだ。

「毒を食らわば皿まで」。長谷部の1プレーに疑問

日本ベンチが攻撃放棄の指示を伝えたのは、長谷部の交代時と言われているが、本当なのか? それならなぜ彼はその数分後にバックパスを選択せず、サイドで前に蹴ってボールを失うような真似をしたのか?

ああいう“暗黙の了解”はマイボールで行わなければならない。

攻める気ならいつでも攻められるマイボールの状態で“お腹を見せる”からこそ、攻める気なしという意思が相手に伝わる。相手ボールでは無理だし、裏切られて攻められる恐れだってある。だから、どんなにブーイングされても、W杯の舞台を経験させるためにポーランドベンチが交代要員を用意してプレーが切れるのを待っていても(ポーランドの選手がケガのフリをしたが、審判が中断を認めなかった)、絶対にボールを失っては駄目。「毒を食らわば皿まで」である。

細かいことだが、長谷部の交代は相手CKの直前だったが、いかに守備的な交代でもこのタイミングはまずい。緊張感が途切れマーク関係がずれるから。この時もシュートを打たれたし。同じタイミングでの交代後に失点したのがセネガルだった。

日本を救ったセットプレー。直前交代の不運

セネガル対コロンビア(0-1)はセネガルの今大会ベストゲームで、コロンビアのワーストゲームだった。

日本戦でレッドカードのカルロス・サンチェスが復帰してセンターラインはセネガルの攻撃を跳ね返す耐性を手に入れたが、ハメスの負傷交代も重なって“作る力”を失った。唯一のチャンスがあの日本を救ったCKからのゴールだったのだ。

実はセネガルはポーランド戦でも相手FK時に交代をして失点している。これで2回目なのだが、今回はシセ監督に同情すべき点がある。選手が1人負傷中でCK時には10人だったのだ。だから、交代して11人にした。それでも警戒すべきジェリー・ミナをまったくフリーにしたことには変わらなかったが……。

これ、自分であっても交代しているだろう。不幸なタイミングだった。カード枚数の差で敗退――時間稼ぎしたチームに“フェアプレー”で敗れるというのは皮肉であり、彼らの側からすると納得しかねるだろう。本当に運が悪かった。

パナマ対チュニジア(1-2)ではパナマのW杯初勝利は叶わなかった。先制したが逆転された。パナマは良く走ったが、個々のクオリティでチュニジアが上だった。私の住むスペインではこの試合は唯一テレビ中継されずネット中継のみだった。関心度の低さでそうなったのだと思うが、興奮度ではイングランド対ベルギーよりも上だった。

在スペイン・ジャーナリスト

編集者、コピーライターを経て94年からスペインへ。98年、99年と同国サッカー連盟のコーチライセンスを取得し少年チームを指導。2006年に帰国し『footballista フットボリスタ』編集長に就任。08年からスペイン・セビージャに拠点を移し特派員兼編集長に。15年7月編集長を辞しスペインサッカーを追いつつ、セビージャ市王者となった少年チームを率いる。サラマンカ大学映像コミュニケーション学部に聴講生として5年間在籍。趣味は映画(スペイン映画数百本鑑賞済み)、踊り(セビジャーナス)、おしゃべり、料理を通して人と深くつき合うこと。スペインのシッチェス映画祭とサン・セバスティアン映画祭を毎年取材

木村浩嗣の最近の記事