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ロシアW杯14日目。敗退済みも、可能性小も勝ちに行った! 引き分け狙いに正当なサッカーの神の罰

木村浩嗣在スペイン・ジャーナリスト
精も根も尽き果てた、とはこのことか。ドイツのアクセルの踏み込みは遅過ぎた(写真:ロイター/アフロ)

マッチレビューではなく大きな視点でのW杯レポートの13回目。大会14日目の4試合で見えたのは、勝ちに行った“敗退済み”と“可能性小”が手にした栄誉。“引き分け狙い組”に正当なサッカーの神の罰……。

ドイツ敗退、メキシコ大敗というビッグニュースがあったが、まずは韓国、コスタリカというグループステージ突破の可能性がごくごく小さかったチームと、すでに敗退済みのチームの頑張りに拍手したい。両チームとも終了間際にゴールを決めるのだが、その喜び方が良かった。ベンチ前に殺到してスタッフも交えて全員が団子になり、まるで優勝したかのように歓喜を爆発させた。

奮闘で知る。やはりW杯は特別だ

彼らやサウジアラビア、モロッコ、ペルーの頑張りが今大会を締まったものにしている。そして、W杯での1点、1勝がいかに重要なものかを再確認させられることが、このコンペティションの格を確実に上げている。表現は悪いが“消化試合”で勝ちに行くなんて、クラブレベルではあり得ないことだ。やはりW杯は違う。プレーや戦術のレベルは例えばCLより下かもしれないが、国を代表し最後まで全力を尽くす熱い姿はW杯ならではだ。

敗者の方に目を向けよう。

スウェーデン対メキシコ(3-0)でのメキシコはグラウンド上の顔ぶれこそ同じだが、アグレッシブさがまったく違った。“引き分けでも突破”、というのは彼らの頭にあったのだろう。“勝たないと敗退”、というのがスウェーデンの選手の頭にあったように。

「引き分け狙いでは負ける」というのがサッカーの定石だからどの監督も勝ちに行くと言うし、選手もそう意識付けされる。が、メキシコのようにテクニックに自信があり、すでに2勝していて、チームとして歴史も伝統も上となると、どうしても油断が生じる。勝利への意欲をむき出しにする相手に気後れしてしまう。

後ろ向きのバックパスは敵への招待状

平常心であれば、メキシコはパスを回し時間を使う技術がある。

安全なパス回しにバックパスが必要であることはすでに述べた。が、後ろ向きの気持ちで出す後ろ向きのパスは、相手が前へ出て来ることを許し、逆に勢い付かせてしまうことがある。この日のメキシコはこれ。

運もなかった。1失点目は相手のシュートミスが絶好のアシストとなり、2失点目は審判が自信たっぷりにVARを拒否するも微妙なPK、3失点目はオウンゴール。オソリオ監督は慌てて点を取りに行くチームに変えようとするが、手がない。だって、すでにベストメンバーでベストの布陣[4-2-3-1]なのだから。ベストでなかったのはメンタリティで、今は予想外の事態にパニックになっているのだから。

スウェーデンの戦い方は昨日のアイスランドと同じ。そもそも主導権を握るチームではなくカウンター用のチームだが、運動量で引いた状態からの攻撃を成立させる。空中戦に絶対の自信を持つ点でも同じだ。先制、追加、駄目押しと理想的なペースで得点したことでまったくメキシコを寄せ付けなかった。

クロース頼みで結局パワープレー

韓国対ドイツ(2-0)のドイツにもメキシコほどではないが、油断はあったはずだ。

裏試合の結果に関係なく勝てば決勝トーナメント進出。相手は今大会未勝利で、実績と伝統にも大きな差がある。決死の形相で勝ちに行くというのではなく、楽な気持ちで臨んだはずだ。そうしてグラウンドに出てみたら相手は決死の形相だった……。

メキシコのようにやられっぱなしというのではなかったが、攻撃面では無力だった。いつでも点が取れる、いつでも勝てると思っているうちに前半が終了。ドイツがアクセルを本格的に踏み込んだのは、50分スウェーデンが先制しこのままでは敗退という状況に追い込まれてからだ。スウェーデン戦で土壇場で勝利したゲルマン魂という自信もあったから、慌てるという風ではなかったが……。

メンタル面の問題だけでなく今大会のドイツには戦力面での問題もあった。

クロースを抑えられると何もできない。2戦目で控えでこの日先発に復帰したケディラは守備面で、同じくエジルは攻撃面でクロースをサポートすることができなかった。結局マリオ・ゴメスとブラントを投入しキミッヒにセンタリングを上げさせるという、スウェーデン戦と同じパワープレーに頼るしかなかった。しかし、文句なく韓国の今大会MVPであるGKの好守、フリーでもシュートが枠に飛ばないミスもあって点が取れない。

前大会王者から2点は、相応しい報酬

90分にVARの助けもあって韓国が先制。ロスタイムに上がったGKノイアーがドリブルに挑戦してボールロストするという信じられないプレーからのカウンターで2点目が入った。スペースへのロングパス、空のゴールへ向けての独走と、韓国ファンは歓喜する前の前振りも十分楽しめたのではないだろうか。

メキシコが負けていたから韓国に突破の可能性はなかった。だが、前大会王者から挙げたこの2点は必死に戦ったことへの相応しい報酬であり、輝く歴史となって今後チームを強くしていくのだろう。

スイス対コスタリカ(2-2)で、努力の報酬を手にしたのはコスタリカだった。唯一のチャンスで先制されても、最終ラインをセンターライン近くまで上げ、相手GKへもプレスを掛けるアグレッシブな戦い方(このやり方は韓国も同じ)で、スイスGKのファインセーブを何度も引き出した。点取り屋不在で戦ってきたが、この日は快速キャンベルがCFとなって前に1人残り、ブラジル大会を彷彿とさせるカウンターを見せた。スイスは引き分け狙いではなかったが、相手の思わぬ抵抗に遭いリヒトシュタイナー、シェアの警告累積での次戦(スウェーデン戦)欠場が決まった。

緩急を使い分ける王者の余裕

セルビア対ブラジル(0-2)ではブラジルが危なげなく勝ち上がった。

昨日のメッシのゴールを思わせる、コウチーニョとパウリーニョのコネクションで先制。CKからチアゴ・シウバが頭で叩き込んで追加点。その他の時間は、パスを回しながらの「緩」から、ギャップを見つけた途端「急」にリズムアップするブラジル伝統のやり方に費やした。

ネイマールは1対1が少しずつ抜けるようになってきた。両CBを軸とするDFラインはマルセロに代わってフィリペ・ルイスが入って、守備面ではさらに強化された。試合巧者の彼らだから簡単な山に組み込まれる2位抜けを狙うかに思われたが、そういう手加減はなく勝利にこだわった。まあそれが王者の余裕というものだろう。

ここまで終わって、ウルグアイ、ポルトガル、フランス、アルゼンチン、ブラジル、メキシコが同居する“死の山”ができたことは、日本でも報道されているだろう。日本が2位抜けだとこの山に入ってしまうから、駆け引きなく1位抜けを目指すしかない!

在スペイン・ジャーナリスト

編集者、コピーライターを経て94年からスペインへ。98年、99年と同国サッカー連盟のコーチライセンスを取得し少年チームを指導。2006年に帰国し『footballista フットボリスタ』編集長に就任。08年からスペイン・セビージャに拠点を移し特派員兼編集長に。15年7月編集長を辞しスペインサッカーを追いつつ、セビージャ市王者となった少年チームを率いる。サラマンカ大学映像コミュニケーション学部に聴講生として5年間在籍。趣味は映画(スペイン映画数百本鑑賞済み)、踊り(セビジャーナス)、おしゃべり、料理を通して人と深くつき合うこと。スペインのシッチェス映画祭とサン・セバスティアン映画祭を毎年取材

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