Yahoo!ニュース

ロシアW杯6日目。1点リード&数的有利を生かせなかった教訓、「単調」でも脅威のアフリカらしさ

木村浩嗣在スペイン・ジャーナリスト
壁は飛んではいけない、が原則。が実際は飛んで救うピンチもある。だからミスではない(写真:ロイター/アフロ)

マッチレビューではなく大きな視点でのW杯レポートの5回目。観戦予定の全64試合のうち大会6日目の3試合で見えたのは、数的有利時のマネージメントの拙さと、ワンパターンだが強いアフリカサッカーの脅威である。

日本が勝った。この経験は今後必ず生きるだろう。それは二重の意味でそうだ。第1に、1点リード&数的有利という状況で追い着かれてしまったという教訓。第2に、勝ち越し点を危なげなく守り切ったという自信である。

今回、このコロンビア対日本(1-2)については「教訓」の方を書こう。日本の勝利というビッグサプライズに対してスペインメディアが絶賛というわけではないのは、学ぶべきことがあるからだ。

まず、CBダビンソン・サンチェスが体を入れ替えられ、カルロス・サンチェスがシュートを手で防いで退場となったプレー。カルロス・サンチェスの判断ミスは明らかだ。南アフリカW杯準々決勝ウルグアイ対ガーナでルイス・スアレスが同様のプレーで退場となったが、あれは延長戦の終了間際、120分だから正当化された。ガーナがPKを外して入ったPK戦をウルグアイが制し、ルイス・スアレスはダーティながらヒーローとなったのだった。しかし、4分で手を出してはいけない。先制されても11人対11人ならどうなっていたかわからなかった。

パス回しで時間稼ぎ、は正しい判断

1点リード、相手が10人となって日本がやろうとしたこと――ボールをキープし試合を落ち着かせ相手を疲労させる――は、間違っていない。後半、日本が前に出て持ち直したから“あの調子で先制後もやっておけば良かった”、と考えがちだが、終盤コロンビアの足が止まったのは前半の日本のパス回しがあったお陰である。

ボールポゼッションに自信があるスペインのチームならリードすれば100%、日本と同じ判断をする。失点し傷ついたチームが反撃に出て来る勢いをパスワークでかわす。で、そのうち疲れてくるからカウンターで止めを刺す――。私が指導していた街の少年サッカーレベルでもこのやり方である。しかも、相手が10人で前に出て来られないのだから、なおさら効果がある。

いくらラインを上げても両CBはフリー、GKはもちろんフリー、両SBもかなりの確率でフリー。理屈の上では彼らの間でボールを回していれば永遠に失点しない。だが、ただ後ろでボールを回しているだけでは相手もリスクを犯して前に出て来るから、ラインを下げるだけになって失点のピンチを招く。よって、時々は前線の4人にボールを渡し、カウンターの脅威を与えておかなくてはならない。

この”後ろ向きだけど前向き”、”安全第一だけど時々リスクも負う”、というさじ加減が難しいのではあるが、前に行けなくなったら必ず後ろにバックパスという逃げ道がある、というのは絶対的に有利な状況だ。

パス回しの原則は、ボールを前に運べるだけ運ぶ、前へ行けなくなったら迷わずバックパス、バックパスを受けた選手は必ずサイドチェンジ(ライン間を超える大きなものではなく、隣の仲間に渡すショートパスでもOK)。この原則を守るだけでリード&数的有利なら、かなり安全なキープができる。

が、これがうまく行かなかったのは、チームがそういう状況に慣れていない、ボールをキープして時間を使う=守備をする、という発想があまりない、ということなのか。

もっと遠慮なくバックパスをするべき

絶対にやってはいけないのは、ドリブルで前へ突っかけるプレー。

相手が前を向いた状態でボールロストして、しかも後方の守備が1人少ないから危険なカウンターを食う可能性が高くなる。この絶対禁止のドリブルでの突っかけ後ボールロストがいくつかあったのは、W杯レベルではいただけない。ドリブルで持ち上がってもいいが、前を塞がれたら必ず後ろを向いてバックパス。これでいい。見ていて、“もっと後ろを向いてくれ”と言いたくなるシーンがたくさんあった。

どういうわけか日本にはバックパスが有効な武器であるという意識が薄いように感じられた。前へ行ってしまい、前しか見ない。攻めに転じるのは前半を0-1で乗り切った後、相手が疲労し焦り始める後半でいいのに。

それと、GKのパス回しへの参加意識の欠如。ボールキープには欠かせない存在なのにGKがなかなか絡まない。GKには最後の逃げ道として、サイドへ(前へ、ではなく)ドカンと蹴る選択がある。だから、GKへのバックパスは絶対に安全である、と個人的には思っているが、“大事を取った”のかもしれない。だけど、GKも加えないと数的有利は十分に生きない。GKを安全弁としていればDFラインでのボールロスト、危険なFKを招くファウルはかなり減らせたと思う。

いつかは止まるが簡単には止められない

その日本の次のライバル、セネガルは予想以上に強かった。

ポーランド対セネガル(1-2)はサプライズだとは思えない。セネガルはもうこれアフリカ、というチームである。スペースを与えれば個のスピードで突破し、高い打点のヘディングシュートをねじ込むか、強烈なミドルシュートを叩き込む。攻撃のパターンはほぼこれ一本。よって、昨日の記事との関連で言えば「単調」なのだが、そのワンパターンが凄くて十分に破壊力がある。マネ、サール、ニアング、ディウフを走らせたら、速いだけでなく重いので、速度×質量=運動量がでかくてまともに受けたら弾き飛ばされてしまう。大会3日目、クロアチアはコンパクトな布陣でスペースを与えず、ナイジェリアを難なく封じ込めたが、ナイジェリアよりもセネガルの方が個のスケールが一回り大きい。

単調だからいつかは組織に止められる。そこが“作るサッカー”をするガーナを除くアフリカ勢の限界だが、日本が止められるかどうかは大いに興味がある。自陣ゴール前の相手FK時に選手交代をしようとして、マーク関係を自らズラして失点というような、采配ミス、セットプレー時の集中力不足もあるのでそこも突きたい。

ポーランドについて一言。クリホビアクにゲームまで作らせるのは負担過多ではないか。負傷選手が入った直後に不正確なバックパスがその近くへ飛んでしまったのには運が悪いと言うしかない。

ロシア対エジプト(3-1)については、ロシアの大型CFジュバ、でかいトップにポストプレーをさせるという古典的なスタイルが効果抜群な点に興味をそそられたが、ロシアはまだ勝ち上がるだろうから、その話は後日。ほぼ敗退確実のエジプトについては、サラーが負傷上がりだったことが本当に残念だった。フィジカルコンタクトを避けるプレーをしながらも、あの出来。ネイマールもそうだが、回復する時間のないW杯では、エースの不調が敗退の要因になるチームが、今後もっと出て来るのでは、と心配になった。

在スペイン・ジャーナリスト

編集者、コピーライターを経て94年からスペインへ。98年、99年と同国サッカー連盟のコーチライセンスを取得し少年チームを指導。2006年に帰国し『footballista フットボリスタ』編集長に就任。08年からスペイン・セビージャに拠点を移し特派員兼編集長に。15年7月編集長を辞しスペインサッカーを追いつつ、セビージャ市王者となった少年チームを率いる。サラマンカ大学映像コミュニケーション学部に聴講生として5年間在籍。趣味は映画(スペイン映画数百本鑑賞済み)、踊り(セビジャーナス)、おしゃべり、料理を通して人と深くつき合うこと。スペインのシッチェス映画祭とサン・セバスティアン映画祭を毎年取材

木村浩嗣の最近の記事