シッチェス映画祭ディレクターインタビュー。「最高傑作」や「サプライズ」と評価した日本映画はどれ?

『無限の住人』など今年のシッチェス映画祭には17本がノミネート。写真は映画祭提供

シッチェス映画祭レポート2回目。日本のホラー、スリラー、SF、サスペンス作品のレベルの高さは世界的に知られているが、今年はなんと17作品がノミネート! どんな作品がなぜ選ばれ、前代未聞の大量参加となったのか? 同映画祭のディレクター、アンヘル・サラと副ディレクター、マイク・オステンクが話してくれた。

インタビュー・文・協力/Interview & Text by Courtesy of スペインのアジア映画情報サイト『CineAsia.net』

聞き手CineAsia(以下省略)――日本はシッチェス映画祭にアジアから参加した初めての国でしたが、それにしても50周年の今年あなたは何をしたのか(笑)! 日本の17本のノミネートは国別最多です。公式コンペティション入りした3本のうちの1本、黒沢清監督の『散歩する侵略者』についてまずは聞かせてください。

アンヘル・サラ(以下A)「黒沢監督の最近の作品の中では最も奇妙だね。彼特有のファンタスティック映画としてスタートし、一級のSF(『SF/ボディスナッチャー』に似たテーマ)となりながら、黒沢には珍しいまるで松本人志監督作のようなユーモアにあふれている。不条理コメディとでも呼ぼうか」

――お馴染みの三池崇史監督の『無限の住人』『ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない 第一章』はいかがですか?

マイク・オステンク(以下M)「『無限の住人』は海外でも人気の同名漫画の実写版で、ファンタスティック映画と時代劇のミックスだ。三池作品の最高作の1つだと思う。我われも興奮したよ。暴力的で面白く脚本が良い……。彼の100本目の記念作品でもある。『ジョジョの奇妙な冒険……』はシッチェスで撮影された作品で市役所による表彰が予定されている。三池監督は映画祭を訪れてくれる予定だ。3本目の『土竜の唄 香港狂騒曲』は第1作よりもさらに自由奔放で面白かった」

――やはりお馴染みの矢口史靖監督、『サバイバルファミリー』はどうですか?

A「今年のサプライズの1つだ。世界の終末の物語だが、その軽いバージョンと言おうか。社会から電気がなくなり家族がカオスに巻き込まれる。あふれるユーモアのセンスは『ロボジー』に通じるものがある。特殊な道を歩むこの監督の作家性が凄く反映されている」

M「その通り。『ロボジー』との共通性は明らかだ。この監督は『ロボジー』で社会批判とSFをミックスしていたが、この『サバイバルファミリー』ではさらに批判性が際立っている。家族が様々な状況でどう振る舞うかが描かれているのだが、興味深いのはそれぞれが日常の人格を維持して同じ言動をすること。こんな作品はめったにない。公式コンペティションに入れられて良かった」

『無限の住人』は三池作品の最高作の1つだと思う

――日本アニメ100周年ということですが、 アニメ部門について話してもらえますか?

A「アニメのセレクションには今年は特に自信がある。まずは湯浅政明監督の2作品。『夜明け告げるルーのうた』は『崖の上のポニョ』の続編のようだが、そうではないことがすぐわかる。子供向け映画のように始まり、クレージーにシュールに終わる。『夜は短し歩けよ乙女』はまさに彼の本領が発揮されている。『マインド・ゲーム』ほどラジカルではないものの、物語は混乱しておりタッチはシュール。残念ながらスペインではあまり知られていない彼の作家性の高さが表れている。次にもう少し商業ベースに乗った作品『映画 聲の形』。アジアで大ヒットした言わば“大泣きできるドラえもん”。アニメの完成度の高さが見もの。『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』は『君の名は。』の成功を受け継いだ作品だ」

――『エンシェンと魔法のタブレット ~もうひとつのひるね姫~』はどうですか?

A「『映画 聲の形』のような日常を描いたものだが、もっと家族向けで子供向け。こういう作品もやっと欧州で配給されるようになった。これまでファンタスティック色が弱くSFでもない日本アニメにはなかなかスペインにはやって来なかったのだが、今は少しずつ変わってきているが」

――恒例の「ジャパン・マッドネス」(日本の狂的な作品を集めた上映会)、特に北村龍平監督について聞かせてください。

M「今年のジャパン・マッドネスは例年にも増してマッドネスだよ(笑)。『Downrange』は北村監督の高いレベルでの手腕が光っている。面白くスプラッター具合も大変良い。ホラーの定石を踏襲する、タイヤのパンクで道路に立ち往生した若者たちが、いきなり狙撃者に襲われるという物語だ。ウルトラスプラッターなのだが、監督のディレクションがあまりに良いから……」

A「そう、公式コンペティションへのノミネートも考えたほど。深夜ながらオウディトリ(映画祭最大のホール)で上映されるのはそういう理由だ。良く撮られたスプラッターでデジタルではない伝統的な特撮も巧み。殺しの度に観客から拍手が上がるような作品だ」

『血を吸う粘土』はすべての低予算ファンの見本だ

――西村喜廣監督の名もあります。

M「西村監督は『ミートボールマシン』シリーズの第2弾『蠱毒 ミートボールマシン』を披露してくれる。極端にニヒルなメッセージが込められたスプラッターで我われも大好きだ。そして、今回のジャパン・マッドネスの最大のサプライズが低予算作、カナダのトロント映画祭でも上映された『血を吸う粘土』。毎年日本からローコストの作品がたくさん送られて来て、楽しませてもらっていたのだが、これまではレベルに達していなかった。この作品は物語と設定のオリジナル性ですべての低予算ファンの見本となり得るもの。粘土で作られた彫像をバンパイア化するというアイディアには脱帽だよ。『ゴースト』のパンク版だね(笑)。予算は5万ドルくらいか。まったくお金のかかっていない、新しいコンセプトのスプラッター兼ホラーだ」

――園子温監督の『東京ヴァンパイアホテル』をどう思いますか?

A「日本以外での上映用にアマゾンで配信されたドラマシリーズを編集・要約して(ソフトにはなっていない)150分に収めたのがこの映画バージョン。この作品のように、クレージーで乱暴で羽目を外したものに彼の傑作がそろっていると思う」

――「新しい視点部門」には内田英治監督の『獣道』『乱鶯』が参加しています。

M「『獣道』は日本映画の2つのトレンドの1つに属する。一方に三池崇史、黒沢清、園子温監督ら大物がいて、もう一方に内田監督のような最近欧州に紹介され始めた者たちがいる。『獣道』を私が気に入ったのは日本の暗い一面を代表しているから。決してグロテスクはないが、新興宗教や闇の世界に知的な拠り所を求める人間、という露悪的なメッセージが込められている。知的先進国、日本にもこんな一面はあるのだ。闇の世界になぜ日本人がはまるのかがよく描かれている」

A「『乱鶯』は演劇を映画で見せる、という新しいスタイルを採った映画。ショーとして素晴らしく映像美も目を見張る。映画的であるから欧州の観客にも受け入れられるかもしれない。古典でかつ斬新な作品だ」

――『リップヴァンウィンクルの花嫁』の参加は我われの大きな喜びです。

A「私は大の岩井俊二ファンなんだ。ただ、上映時間3時間だからプログラムするのには骨を折ったよ。岩井作品は興行的にあまり期待できず輸入が難しい。この素晴らしい作品はここ数年の日本の作品で最も優れたものだが、海外では見逃されてきた」

漫画の実写化には食傷気味だと釘を刺しておく

――50周年に北野武作品は欠かせないでしょう。『アウトレイジ最終章』について一言。

A「最初にこの映画について教えてくれたのはマルコ・ミューラー(映画プロデューサー)だった。3作の中で最も暴力的、野蛮で最高だ、と」

M「しかも前2作と同じ監督、同じ脚本家、同じ映像ディレクターなら悪い映画になるわけがない。我われの映画祭に北野作品は外せないよ」

――最後に、今年はなぜこんなに日本映画がたくさん参加しているのですか?

A「お馴染みの監督たちは健在だし、新しい監督も出て来ている。日本映画は非常に高いレベルを維持している。とはいえ、釘を刺しておきたいのは、漫画の実写化には少々食傷気味だということ。『銀魂』や『東京喰種 トーキョーグール』は気に入ったのだがスペースの関係で泣く泣く諦めた。スペインでも公開が決まった『東京喰種トーキョーグール』や配給予定の『銀魂』を外しても、小さな宝石のような作品『獣道』やめったに見られない『乱鶯』を入れたかった」

M「日本映画に危機の時代があったことは確かだ。映画化された漫画はみんな同じに見える時は確かにあった。『図書館戦争』のような良い作品が1つあると、他がそれに追随するような傾向があった。だが、今年はそこが改善され、レベルが他の年より高かった」

――今日は長い間ありがとうございました。