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なでしこジャパンに敗れた北朝鮮代表は“ラフプレー”が多かった?監督が語った“フェアプレー”の概念

金明昱スポーツライター
(写真:ロイター/アフロ)

 国立競技場で行われたパリ五輪アジア最終予選の第2戦で、なでしこジャパン(日本)に敗れた朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)代表。前半に1点、後半にも追加点を決めた日本が2点リードし、このままの流れで試合が終わるかと思ったが、81分に途中交代でピッチに入った20歳の北朝鮮FWキム・ヘヨンがゴールを決めた。

 それでもなでしこジャパンの粘り強い守備の前に最後まで同点ゴールを決めることができず、1-2で北朝鮮が敗れた。それでもアジアの女子サッカーを代表する実力伯仲の両者の戦いはとても見応えがあった。

 特に試合前は“北朝鮮”というイメージからか、ネット界隈では「ラフプレーには気を付けろ」という書き込みも多数、見受けられたが、試合を取材した個人的な感想では、両国の選手ともに球際や激しい当たりの強さはありながらも、クリーンな展開で試合は進んだと思う。

 ただ、この試合で出されたイエローカード3枚は、いずれも北朝鮮選手に対するもの。前半16分にFWスン・ヒャンシム、45分にDFウィ・ジョンシム(遅延行為)、71分にはDFリ・ヘギョンが警告を受けているが、サッカーの試合においては想定内と言える範囲。これを“荒れた試合”と見る人は少なかったと思う。

元日本代表の内田篤人「非常にフェアプレーを心掛けていた」

 この試合を見ていた元日本代表DF内田篤人が「報道ステーション」に出演し、なでしこジャパンを苦しめた北朝鮮代表の試合についてこんな感想を述べていた。

「北朝鮮の選手もよかったです。ゴールに迫ってきたシーンが何回もありましたし、ターンの入れ方や細かいところを見れば、非常に手強い相手でした」

 試合中の北朝鮮のフェアプレーについてもこう語っていた。

「北朝鮮選手は非常にモチベーションが高かったですね。試合は展開的にもっと荒れるのかなと思ったのですが、危険なシーンもありましたけれど、“意外に”と言ったらあれですけれど、非常にフェアプレーを心掛けていました。僕も北朝鮮でプレーしたことありますが、独特で、やっぱり自分の国に対する思いっていうのは非常に強い人たちですから、サッカーでも非常にいいゲームというか、痺れるゲームでした」

 自身の経験を踏まえて、北朝鮮のプレーはタフながらも非常にフェアだったと解説した内田のコメントからも、非常に好ゲームだったことが分かる。

北朝鮮選手に「幼い頃からフェアプレーを身につけるよう指導」

 北朝鮮代表のリ・ユイル監督は試合後の会見でも「フェアプレー精神」についてこんな見解を述べていた。

「まず我々はスポーツ選手としてルールを尊重するということ、審判の判定を尊重するというのは非常に重要なことで、これはスポーツ選手のみならず、一般的にも道徳的にもルールを守ることは重要です。朝鮮も日本も大変すばらしいフェアプレーをみせてくれました」

 また、「常日頃からルールは守らなければいけないと指導してきました。選手たちは、幼い頃からフェアプレーを身につけるように、心がけるように指導しています」と強調していた。

 もちろん日本にいる在日コリアンの大応援団が見ているからこそ、よりクリーンなプレーに徹しようという全体的な雰囲気も見受けられたが、審判の判定を尊重するという姿勢は浸透しているようにも思えた。

 次は男子のW杯アジア2次予選で、日本と北朝鮮の試合(21日、国立競技場)が控えている。W杯出場をかけた戦いだからこそ、ピッチ上では熱くなる部分も大いにあると思うが、フェアプレー精神にのっとった試合を期待したいところだ。

スポーツライター

1977年7月27日生。大阪府出身の在日コリアン3世。朝鮮新報記者時代に社会、スポーツ、平壌での取材など幅広い分野で執筆。その後、編プロなどを経てフリーに。サッカー北朝鮮代表が2010年南アフリカW杯出場を決めたあと、代表チームと関係者を日本のメディアとして初めて平壌で取材することに成功し『Number』に寄稿。11年からは女子プロゴルフトーナメントの取材も開始し、日韓の女子プロと親交を深める。現在はJリーグ、ACL、代表戦と女子ゴルフを中心に週刊誌、専門誌、スポーツ専門サイトなど多媒体に執筆中。

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