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「誤球」不正を隠した韓国女子ゴルファーが国内開幕戦から涙の復帰…申ジエが伝えた“刺さる”言葉とは?

金明昱スポーツライター
韓国ツアー国内開幕戦から約2年ぶりに復帰したユン・イナ(写真・KLPGA)

 先週、開催された韓国女子ゴルフツアーの国内開幕戦「斗山建設Weveチャンピオンシップ」(4月4~7日)では、ある選手に注目が集まっていた。

 不正行為による懲戒処分を終えて、ツアー復帰を果たした20歳のユン・イナ。約2年ぶりの国内での試合となったが、涙を流しての会見も、ティショット前のギャラリーに向け謝罪するかのように頭を下げる姿も、それはまるで“謝罪行脚”のような大会でもあった。自身にとって復帰できたことはありがたくも、歓迎する声も半々という雰囲気も感じ取っていたに違いなく、複雑な心境だったに違いない。それでも予選を通過し、4日間をやりきった。結果は通算2アンダーの34位タイとまずまずの結果と言える。

 ユン・イナは2022年6月の「韓国女子オープン」初日に誤球に気づきながらもそのままプレーを続け、1カ月も隠し続けていたことが明らかになると大韓ゴルフ協会(KGA)と韓国女子プロゴルフ協会(KLPGA)は3年間の出場停止処分を言い渡していた。

 一時はゴルフ界からの永久追放の可能性もあると言われていたほど、周囲からの批判の声はやむことはなかった。ただ、その後の行動に反省が見られるとして、処分は1年6カ月に軽減され、今季の国内開幕戦出場が叶った。懲戒処分後は約50時間の社会奉仕活動や米ミニツアー13試合の賞金すべての寄付などを行ったほか、復帰を求める関係者やファンら5000人以上の嘆願も大きかったという。

「ゴルファーとして生きられる機会に感謝」

 ドライバーの長打力を武器に2022年の初優勝にこぎつけるまでの勢いと実力、そのスター性に異論はなく、いずれ米ツアーでも活躍できそうな選手である。KLPGAとしても彼女のプロゴルファー人生をこのまま終わらせるわけにはいかなかったというのが本音だろう。ただ、多くの選手たちの中で、復帰への世論は割れていたとも聞く。すべての人たちが復帰を歓迎しているわけでないこともきっとユン・イナは肌で感じていたはずだ。

 それは大会初日後の会見で語った言葉からもよく分かる。

「私のせいで傷ついた方たちには申し訳ない気持ちでいっぱいです。もう一度、ゴルファーとして生きる機会をいただけたことに感謝し、個人の成果よりもゴルフの発展に貢献する選手になりたい。辛い時に大きな力になってくれたのは、応援して激励してくれたファンの方たちです」と涙を流していた。

 今大会で獲得した賞金はすべて寄付するとも発表。今後もゴルフ界への貢献を第1に考え、ツアー生活を送っていくという。

ティショット前にギャラリーに向けて頭を下げるユン・イナ(写真・KLPGA)
ティショット前にギャラリーに向けて頭を下げるユン・イナ(写真・KLPGA)

申ジエ「復帰への評価は“簡単”ではないが…」

 一度でも失敗した人は永遠にバッシングを受け続けなければならないのだろうか――。そんな問いかけに対し、韓国では“生きる伝説”とも称される申ジエが、ユン・イナに救いの手を差し伸べたと聞いている。

 申ジエはユン・イナと共に今オフ、海外合宿を行っており、そこでたくさん話し合ったという。韓国ツアー国内開幕戦に出場した申ジエは、大会前の会見で、ユン・イナに対して背中を押す言葉を送っていた。

「復帰に対する評価は簡単ではありません。それでも難しく考えることもないでしょう。復帰した今からが重要です。(不正行為は)過ぎたことで、これからいい影響力を与えるためにたくさん準備してきたことも知っています。これから彼女のことを見守れば分かるのではないでしょうか。誰でも“帰ってくる”のは良いことですから。殺伐とした雰囲気の中ですが、それに打ち勝ち、自身のプレーをしてくれることを期待しています」

 35歳ながらも現役のトッププレーヤーとして、今年は韓国代表としてパリ五輪出場も狙っているという申ジエ。心身ともに充実した一流の大先輩から、学びの機会を得られたことで、大きく変わるチャンスを得た。

今月22日、日本開催の全米女子OP予選会にエントリー

 そして、ユン・イナは4月22日に千葉の房総カントリークラブで行われる「全米女子オープン」の日本予選会にエントリーしていることも分かった。昨年から韓国で同予選会の開催が消滅し、全米女子オープンに出場したい韓国の選手たちは日本や米国での同予選会にエントリーしなければならなくなったわけだ。

 ユン・イナのプレーが日本で見られるという楽しみとともに、全米女子オープン出場権を勝ち取ることができれば、日本と韓国でまた一つ大きな話題にもなりそうだ。

スポーツライター

1977年7月27日生。大阪府出身の在日コリアン3世。朝鮮新報記者時代に社会、スポーツ、平壌での取材など幅広い分野で執筆。その後、編プロなどを経てフリーに。サッカー北朝鮮代表が2010年南アフリカW杯出場を決めたあと、代表チームと関係者を日本のメディアとして初めて平壌で取材することに成功し『Number』に寄稿。11年からは女子プロゴルフトーナメントの取材も開始し、日韓の女子プロと親交を深める。現在はJリーグ、ACL、代表戦と女子ゴルフを中心に週刊誌、専門誌、スポーツ専門サイトなど多媒体に執筆中。

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