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北朝鮮代表はなでしこジャパン相手にラフプレーしない?日本では“クリーン”な試合展開になりそうな理由

金明昱スポーツライター
日本と北朝鮮の第1戦は0-0のスコアレスドロー。第2戦はどんな戦いになるか(写真:ロイター/アフロ)

 28日に国立競技場で開催されるなでしこジャパン(日本)対朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)代表のパリ五輪最終予選第2戦。サウジアラビアのジッダで行われた第1戦は0-0で引き分けたため、第2戦で勝利したチームがパリ五輪出場の切符を手に入れる。

 日本はFIFA世界ランキング8位で、北朝鮮は9位と順位の差はないが、第1戦では5バックで守備を固める北朝鮮に対して、日本がボールを保持したが、共に決め手を欠いた。後半は攻撃参加の人数を前線に増やして前に押し上げた北朝鮮が、いくつかの決定機を演出したがゴールに至らず。スタミナとパワー、球際でもやや北朝鮮に分があったようにも見えたが、逆に日本の攻撃が機能していない印象にも見えた。30度の気温のなかでかなり消耗戦となったが、次は日本のホームでサウジアラビアよりかは気温がグッと下がる。

 とはいえ、北朝鮮も平壌は北海道なみの気温で寒さには慣れている。あとは時差をどれだけ克服して、万全なコンディションに持ち込めるのかにかかっている。

20年前のアテネ五輪予選で北朝鮮が味わった屈辱

 今回、女子北朝鮮代表は日本に乗り込んできたが、25日夜、羽田空港到着時には多くの在日朝鮮人の歓声と歓迎を受けた。その数は約200人と言われていたが、28日の試合当日は3000人の応援団が訪れると言われている。もちろん北朝鮮代表OBで元Jリーガーの安英学や李漢宰なども観戦に訪れるはずだ。

 そもそも北朝鮮選手たちが海外でこれほどの声援を受けてサッカーができるのは、日本以外ではなかなかあり得ないことだろう。熱い声援を受けられる反面、負けられないプレッシャーとも戦わなければならない。

 ではどのような試合展開になるか――。北朝鮮にとって、日本は完全アウェー。しかも場所は国立競技場だ。そこで思い出すのは2004年のアテネ五輪アジア予選。日本はこの試合で北朝鮮に3-0で勝利してアテネへの切符を手に入れ、「なでしこジャパン」と命名されるきかっけとなった。日本からすれば今も語り継がれる一戦だ。

 一方、北朝鮮選手にとっては、10年以上も負けていなかった相手に国立競技場は屈辱を味わった場所でもある。北朝鮮側から見れば“国立競技場の悲劇”となるだろうか。

 当時、筆者もこの試合の取材に行っていた。約3万人の日本の大観衆の前に完全に飲まれてしまった北朝鮮選手たちの姿があった。緊張感からか安易なミスが続いての失点で、ついにアジア最強から陥落した瞬間でもあった。

 つまり、20年前のように敗れるわけにはいかないと北朝鮮代表は悲壮な決意でいるはず。それも多くの在日朝鮮人の応援団の前ではなおさらだ。

杭州アジア大会の日本戦「北朝鮮はクリーンだった」

 昨年の杭州アジア大会の決勝で、日本と北朝鮮が対戦。試合は4-1で日本が圧勝したが、そのとき北朝鮮側に出されたイエローカードはたったの1枚だった。試合内容は実にクリーンで、北朝鮮側にむしろ物足りなささえ感じたものだった。

 同大会の中継で解説を務めていた元日本代表の福田正博氏に日本対北朝鮮の試合(男女とも)を振り返ってもらうため、直接話を聞いたことがあった。女子の決勝戦を見てこんな感想を話していた。

参照:「北朝鮮の激しさは想定内。気遣いのなさはもったいない」サッカー元日本代表・福田正博氏が見た日朝戦(Yahoo!ニュースエキスパート、金明昱)

「(杭州アジア大会)準々決勝での対韓国戦はかなり激しくて、北朝鮮の選手にイエローカードの色が違うものでもおかしくなかったプレーが2、3回ありました。ただ、日本との決勝戦ではとてもクリーンで、まったく何もしてこなかったに等しい。非常にフェアだったので驚きました」

 もちろん試合展開によって、激しくいくところはいったり、熱くなるシーンが続くと、ラフプレーになったりもするが、筆者の予想は国立競技場での日本戦では、北朝鮮選手たちはかなりクリーンなプレーに徹すると予想している。それはやはり、日本に住む大勢の在日コリアンの大応援団が存在するからだ。

WEリーグ広島加入の李誠雅は元U-17北朝鮮代表

 それに女子サッカーが盛んな日本で、在日コリアンのサッカー少女たちもこの試合を楽しみにしていると思う。今年1月になでしこ1部の日体大SMG横浜から、WE(日本女子プロサッカー)リーグのサンフレッチェ広島レジーナに加入した李誠雅(リ・ソンア)は、大阪朝鮮高出身の在日コリアン。過去には年代別代表(U-17女子W杯の北朝鮮代表に選出)にも選ばれており、彼女のような選手がこれから現れるかもしれない。

 そういう意味では、パリ五輪出場をかけた大事な一戦で北朝鮮の選手たちは、少なくとも在日コリアンにも夢を与える立場にある。だからこそ、気迫は前面に押し出しながらもクリーンでフェアなプレーを心掛けているはず。

 もちろん、それはなでしこジャパンにとっても同じで、国内プロリーグの注目度を上げるためにも、何が何でもパリ五輪出場権を勝ち取らないといけない。むしろホームでは負けられないだろう。

 立場によって試合に挑む見え方は変わってくるものだが、とにかく荒れることのない好ゲームを期待したい。女子サッカーのアジアレベルの底上げのためにも、両国の競争はこれからも必要不可欠だからだ。

スポーツライター

1977年7月27日生。大阪府出身の在日コリアン3世。朝鮮新報記者時代に社会、スポーツ、平壌での取材など幅広い分野で執筆。その後、編プロなどを経てフリーに。サッカー北朝鮮代表が2010年南アフリカW杯出場を決めたあと、代表チームと関係者を日本のメディアとして初めて平壌で取材することに成功し『Number』に寄稿。11年からは女子プロゴルフトーナメントの取材も開始し、日韓の女子プロと親交を深める。現在はJリーグ、ACL、代表戦と女子ゴルフを中心に週刊誌、専門誌、スポーツ専門サイトなど多媒体に執筆中。

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