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「森保監督が来た試合はすべて負けている」日本国籍取得から1年のサガン鳥栖GK朴一圭の“代表への思い”

金明昱スポーツライター
日本国籍を取得して1年が経ったサガン鳥栖GK朴一圭(写真:西村尚己/アフロスポーツ)

「森保(一)監督が来ている試合を、僕はまったく知らなくて聞かされていないんですよ」

 サガン鳥栖GK朴一圭(パク・イルギュ)は、日本代表の森保一監督が今シーズン、鳥栖の試合を視察に来ていることを一度も耳にしたことがないという。それについて「僕はもし事前に(森保監督が)来ているのがわかるのなら逆に知りたいくらい」と笑いながらも、内心では少し苛立っているようにも見えた。

 11月25日のJ1リーグ第33節、柏レイソル対サガン鳥栖の試合は2-2のドロー。朴は「勝ち切れた試合だったけれど、そう簡単じゃない」と悔やんでいた。この日も、失点したあと雰囲気が悪くなるのを止めるため、キックオフ前には選手たちを全員呼んで輪になり、発破をかける姿も見られた。

“リベロGK”としてのプレースタイルは変わらず。ハイラインの裏をカバーし、ビルドアップからゲームの流れを作る。鋭いロングパスからチャンスを作り出す姿は、見る者を楽しませてくれる。

森保監督「存在感のある選手」と朴を評価するも…

 今年8月、サガン鳥栖のホームで行われたアビスパ福岡との試合を森保監督が視察に訪れていたことがニュースになっていた。結果は0-1での敗北。その時、森保監督は朴のプレーについて「存在感のある選手。ビルドアップはもちろん、好機も生み出せる」と評価していた。

「評価していただけるのはすごくありがたいのですが、森保監督が視察に来た試合はすべて負けているんです…。せっかく見に来ているのに負ける姿を見せるのは悔しい。だから本当に勝ちたい。実はチームが事前に(森保監督が)訪れる情報を入れないんです。たぶん選手が緊張したり、意識しちゃうのを防ぐという意味もあると思うのですが、僕なら逆に知りたい。じゃあ事前に森保監督が来ているのが分かったら、パフォーマンスが上がって試合に勝てるのかという話ではないですが、やっぱり日本代表を目指してやっている立場としては、アピールする場でもあります。チャンスがある限りは、そこを目指した方がサッカーを続けるうえでのモチベーションにもなりますからね」

PA内シュートのパンチ率は1位

 昨年11月、在日コリアン3世で韓国籍の朴が日本国籍を取得した。その理由の一つは「外国籍選手枠」の規定だ。Jリーグの外国人枠は最大5人で、「長くJ1でプレーしたい」と望む朴にとって、この制限は足かせになる可能性があった。

 33歳という年齢を考えれば、いい条件の話があっても、枠が埋まっていれば再考を余儀なくされる可能性もある。より高みを目指す彼にとって、人目に触れる機会が多いJ1でのプレーにこだわるのは至極、当然のことだ。

 そのうえで目指せるチャンスが生まれたのが日本代表GKの座。今シーズンJ1でのセーブ率は、ペナルティエリア内外ともにトップ10入り。ペナルティエリア内シュートのパンチ率は1位と多くの決定機を防いでおり、能力の高さはJ1屈指なのは間違いない。

「モチベーションは1年前と変わらない」

「国籍変更して1年経ちましたけれど、実は心境的にも何も変わっていませんし、そこまで深くは考えていなかったです。代表に入るにしても、チームの結果も出さないといけないし、個人の結果も必要。もちろん今もずっと日本で一番いいキーパーになりたいという目標はずっと持っています。W杯予選とかが始まるといいアピールしたいなとか、そういう欲は出てきますが、モチベーションは1年前と変わっていません」

 サガン鳥栖ホームでの今季最終戦(第34節)は12月3日、相手は川崎フロンターレだ。「とにかく何が何でも勝ちたい。最後1つ勝てば気持ちよく終われる。とにかく勝って終わりたいです」。勝利の先にチームの明るい未来と日本代表へ道が開けると朴一圭は信じている。

スポーツライター

1977年7月27日生。大阪府出身の在日コリアン3世。朝鮮新報記者時代に社会、スポーツ、平壌での取材など幅広い分野で執筆。その後、編プロなどを経てフリーに。サッカー北朝鮮代表が2010年南アフリカW杯出場を決めたあと、代表チームと関係者を日本のメディアとして初めて平壌で取材することに成功し『Number』に寄稿。11年からは女子プロゴルフトーナメントの取材も開始し、日韓の女子プロと親交を深める。現在はJリーグ、ACL、代表戦と女子ゴルフを中心に週刊誌、専門誌、スポーツ専門サイトなど多媒体に執筆中。

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