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「インスタやるならゴルフやれ」見た目で非難も “ギャルファー”金田久美子が34歳のいま伝えたいこと

金明昱スポーツライター
見た目で判断された過去の経験を赤裸々に語ってくれた金田久美子(筆者撮影)

 茶髪にピアス、へそ出しにミニスカート…そんな見た目から“ギャルファー”と呼ばれてきた女子プロゴルファーがいる。金田久美子(愛称はキンクミ)だ。

 8歳で世界ジュニア選手権を制してタイガー・ウッズの記録に並び、その後プロ転向までに15回のベストアマを獲得するなど、“天才少女”として大きな注目を浴びたプレーヤーでもある。

 2008年にプロ転向後は2011年にツアー初優勝して以来、第一線で戦い続け、昨年、ツアー制施行後では最長ブランク記録となる11年189日ぶりのツアー2勝目を挙げ、涙を流した。勝てない年月が続き、一時は引退もよぎるほどのスランプを乗り越えて再び手にしたタイトル。その裏には、プレーの苦難とともに、「練習していない」「だから成績が悪い」といった、その見た目ゆえの“偏見”との戦いもあった。

 少女時代からセンセーショナルなスタイルで注目の的となってきた彼女は34歳になった今、自身や時代の変化をどのように感じているのか。

昨年の優勝でいい声は増えたけれど…

「『インスタやるならゴルフやれ』なんて声は今も毎日、ダイレクトメールで届きますよ」

 金田はそう言いながら笑っていたが、表情は少し曇っていた。彼女の Instagram(インスタグラム)は女子プロゴルファーの中では屈指のフォロワー数約18万人。男女問わず多くのファンに支持され、投稿されるプライベート写真には多くの「いいね」がつく一方、アンチも多い。

「去年、11年ぶりに優勝した直後はすごくいい声が増えて、誹謗中傷の声には『見返せたかな』という気持ちでした。でも、ほとぼりが冷めるとそんな声ってまた出てくるんですよね」

 ゴルフは“紳士のスポーツ”と呼ばれ、日本では特にドレスコードやマナーなどが重視されやすい。それゆえゴルフ界では、夏場の試合で肩出しのノースリーブのウェアを着たり、好きなファッションやメイクをするなど、派手な身なりの金田はプロ転向当時には、“異端児”とみられ、やはり目立った。そのスタイルに対しては今なお非難の声が上がる。

「今だから言えるけれど、当時は日本女子プロゴルフ協会(JLPGA)会長の樋口(久子)さんにも叱られましたもん」と苦笑いを浮かべる。

「短いスカートで先輩プロにあれこれ言われたこともありました。私は『そんなこと気にする必要もないんじゃないかな』って思っていたけれど(笑)。あまりにも注意されるから、他の選手も見てくださいって言ったんです。そしたら少しずつ緩和されていったのですが、最初に言われるのはやっぱり私(笑)。自分がこんな格好をしているから、見た目とかのイメージがあるんでしょうね。しょうがないんですけれど」

「すべては自分のモチベーションのため」

 我が道をいくスタイルの金田ではあるが、見た目で判断される理不尽さはずっと感じていた。

「『そんな時代だった』と言えばそれまでですけど、批判めいた声って1人に集中しちゃったりするじゃないですか。“いじめ”と似ていたりするのかな」

 派手なウェア、そして金髪などの髪色は、決してルール違反などではない。周囲に彼女のようなスタイルの女子プロゴルファーがいなかっただけであり、「そんな身なりはけしからん」という固定観念から、批判にさらされていただけだ。

2010年ニチレイレディスに出場した時の金田久美子(写真・アフロスポーツ)
2010年ニチレイレディスに出場した時の金田久美子(写真・アフロスポーツ)

 そうした外野の声が続くと、傷つくことも当然あったはずだ。大人しく周囲にあわせておこう、地味にしておこうとは思わなかったのだろうか。

「いろんな声がありましたし、見た目について言われるのは嫌でしたよ。じゃあなんでやめないんだって話になるわけですけれど…。(貫いたのは)すべて自分のモチベーションのためでした。だから別に言われてもいいじゃんって思っていました。ゴルフをするのにスカートの短さや髪の色の規定もないわけですし、ルールに反していないことを、他人からああだこうだと言われるのは嫌でした」

 要するに金田にとっての“ギャルファー”スタイルは、彼女自身のポリシーであり、好きな格好をしてゴルフを楽しんでいるということ。違反でもない以上、たしかに周囲がとやかくいう問題ではないだろう。

「こう見えて本当は別に目立ちたいわけじゃないんです。ただ好きでやっている。周囲から嫌われるのも別に怖くなくて、人によく思われたいっていうのもない(笑)。すべてのことにおいて、そういう気持ちが根底にあるのかもしれません」

 金田の芯の強さが見える言葉だ。逆にこれくらいの気の持ちようでないと、プロゴルファーとして長く戦い続けることはできないのかもしれない。

「見た目で判断して攻撃するのは問題」

 そんな“見た目”で偏見を持たれてきた金田自身は、外見で人を判断することをどう思っているのだろうか。

「私も見た目で判断しないかっていったら、そうじゃない部分もあると思います。例えばタトゥーが入っている人を見たら、ちょっと怖いなと思ったり。夜道を歩いていて、サングラスをしてる人としてない人、どっちが近づいてきたら怖いかって聞かれたら、サングラスをしている人のほうが少し不審者に見えてしまう。肌の露出が多い人はチャラそうに見えるし。やっぱり人って見た目で判断しちゃう部分もあると思うので、私も昔からいろいろ言われるのは『しょうがない』っていう気持ちがありました。『私のことをわかって』なんて言ってもわかってくれないですよね。でも、見た目で判断して、『あの人はこういう人だ』と決めつけ、SNSなどで攻撃するのは問題だと思います」

 子どもの頃から注目を集める存在だった金田だからこそ、いろいろと悩んだり考えたりしてきたのだろう。人は誰しも見た目による偏見を持ってしまう可能性はあるが、その偏見を正義や正解のように捉えてしまい、他人を攻撃することは絶対に避けなければならない。

「ただ、私はずっと(ゴルフで)結果を出せば、間違いなく周囲の見方は変わると信じていました。自分が努力して間違った行動をしなければ、どのタイミングでも見ている人がいて、認めてくれる人がいる。ゴルフを続けてきて、それを実感したのがフジサンケイレディスクラシックで初優勝したときでした。結果を出したら、周囲の見る目は大きく変わった。メディアの人たちも『この子は意外とマジメだ』とか(笑)、『めちゃくちゃ練習をして努力している』とか、陰に隠れたストーリーを表に引っ張り出して書いてくれました。それでイメージも変わったんだと思います。去年の優勝の後もそうでした。自分から努力していることをひけらかすのは好きではなく、インスタにゴルフの練習姿を出すのもあまりやりません。それよりも、勝てば取り上げてもらえるかな、なんて思っています」

昨年は11年ぶりにツアー2勝目を挙げた(写真・日刊スポーツ/アフロ)
昨年は11年ぶりにツアー2勝目を挙げた(写真・日刊スポーツ/アフロ)

「正直、ゴルフはまだやりたい」

 こうした話ができるのも、彼女が20代、30代と歳を重ねたからかもしれない。現在、金田が着用する契約ウェアの「マーク&ロナ」は、従来はあり得なかった迷彩柄のデザインも多く、若者に人気のブランドの一つだ。今はゴルフウェアのほとんどのブランドに迷彩柄があるという。

「私が好きでやってきたゴルフファッションやスタイルが今になってようやく受け入れられてきたとも感じます。若い女性ファンの方がインスタにメッセージをくれるのはすごくうれしいです。時代がようやく私に追いついてきた(笑)。今はミニスカートは普通ですし、かわいいウェアを着ている子もたくさん増えましたよね。もちろん、ゴルフをやる全員が派手じゃなくていいし、オシャレじゃなくてもいいんです。社会の動きもすごく変わってきて、多様性とか偏見をなくそうとかそんな時代ですけれど、みんなが同じ考えでは当然ないわけです。嫌われようが何をしようが、私もルールの範囲で好きな格好をしてきただけ。だから、私がそうだったように悩まれている方がいれば、『こういう考え方もあるんだな』と捉えてもらったり、何か変われるきっかけになれば嬉しいです」

 最後に聞いてみた。これからも“ギャルファー”はずっと続けますか?と。

「(笑いながら)私の中では今も一応、歳に合わせて化粧やウェアも変えていってるんですが、若作りすぎないかと不安になっています(笑)。昔よりはかなり落ち着いた感じですね。昔みたいにプライベートではミニスカートもショートパンツもはかないですし。でも派手とか言われるんです…」

 それでも「続けない」と金田が言わなかったのは、やはりそれがポリシーだからだろう。誰に何を言われようとも、“キンクミ”が“キンクミ”であることは変わらないし、変えることはない。それにゴルフへの情熱もまだまだ衰えていない。

「去年優勝して、今年がダメならもう無理だろうなと思ったのですが、正直、まだやりたいなって思ってるんです。伸びしろがあるんじゃないかなって。もっと賢かったら違う生き方もあったと思うけれど、自分はゴルフしかできないから。勝ったらもうちょっと人生変わるかなと思ったけれど、特に変わらなかった(笑)。だったらまた勝ってみたい」

 喜びと悔しさの連続。辛いことも多いが、何かを達成したときの快感や刺激が34歳の金田を突き動かしている――。ギャルもゴルフもまだまだ現役だ。

【この記事は、Yahoo!ニュース エキスパートの企画支援記事です。オーサーが発案した企画について、編集部が一定の基準に基づく審査の上、取材費などを負担しているものです。この活動は個人の発信者をサポート・応援する目的で行っています。】

スポーツライター

1977年7月27日生。大阪府出身の在日コリアン3世。朝鮮新報記者時代に社会、スポーツ、平壌での取材など幅広い分野で執筆。その後、編プロなどを経てフリーに。サッカー北朝鮮代表が2010年南アフリカW杯出場を決めたあと、代表チームと関係者を日本のメディアとして初めて平壌で取材することに成功し『Number』に寄稿。11年からは女子プロゴルフトーナメントの取材も開始し、日韓の女子プロと親交を深める。現在はJリーグ、ACL、代表戦と女子ゴルフを中心に週刊誌、専門誌、スポーツ専門サイトなど多媒体に執筆中。

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