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イ・ボミに続いてユン・チェヨンも…なぜ韓国女子ゴルファーの“日本ツアー引退”が続くのか?

金明昱スポーツライター
同年代のキム・ハヌルとイ・ボミ(写真・筆者撮影)

 今季限りで日本ツアー引退を決めたイ・ボミに続いて、“8頭身美女ゴルファー”として韓国で人気に火が付いたユン・チェヨンも今年で引退することを発表。今週開催の国内女子ゴルフツアー「ヤマハレディースオープン葛城」が日本で最後の試合となる。

 さかのぼれば“スマイルクイーン”と呼ばれたキム・ハヌルも2021年を最後に引退。他にも2001年からシードを守ってきた李知姫も昨季にシードを落とし、QTにも失敗して韓国へ帰国した。また、“セクシークイーン”として日本女子ゴルフ界では時の人となったアン・シネも日本のプロテストに合格したものの、その後はコロナ禍でQTに挑戦することなく、韓国で活動を続けている。

 ちなみに、国内ツアーで4度も賞金女王となったアン・ソンジュも双子の出産後は、産休制度を利用して、まずは永久シードを持つ韓国ツアーに復帰。今季は日本ツアー復帰と思われたが、すでに韓国ツアーの国内開幕戦のエントリーに名前があるのを確認できた。つまり、日本ツアーからは“事実上の引退”と言ってもいいかもしれない。

 いずれも見える部分においては、賞金シードを落として、ツアー出場権が得られないから“引退”を決断したという単純な話だ。しかし、これだけ成績を落とす韓国選手が多かったのは、決して偶然ではない。

コロナ禍の隔離に苦労したイ・ボミとキム・ハヌル

 過去の韓国選手の取材から見えてきたのは、やはり新型コロナウイルスの感染拡大の影響が大きい。2020年の日本女子ツアーは開幕戦から中止が続き、6月のアース・モンダミンカップからシーズンがスタートした。

 当時、多くの韓国選手は、日本への入国制限措置のほか、日韓両国を行き来するたびに2週間の隔離生活を余儀なくされていた。日本の選手に比べて、必然的に調整が遅れ、隔離でコンディションの調整も厳しい状況下にあった。

 かつてイ・ボミはこんな話をしていた。

「日本に入国したときに2週間隔離があったのですが、やはりコンディションを維持するのは難しい。(キム・)ハヌルが引退したのも難しい決断だったと思いますが、コロナ禍で思うような環境の中でゴルフができなかったのもあると思います」

 キム・ハヌルもまた、コロナ禍で成績を落としたことを正直に話していた。

「オフのトレーニングで万全だったコンディションは、隔離生活で完全に崩れました。試合に出ない週は普段なら韓国に帰って家族や友人と会ったりしていたのが、隔離があるので帰れない。シーズン中はホテル中心の生活が続き、心身ともにリフレッシュするのが難しかったです」

 2020年と21年シーズンは統合されたが、試合勘の鈍りやシーズンの始まりの遅れを取り戻すのは難しく、このシーズンにイ・ボミは賞金ランキング82位、キム・ハヌルは81位でシードを落としている。

 共に年齢は今年35歳と気持ち次第ではまだゴルフを続けられるだろうが、賞金シードを喪失して、ツアー出場権を失ったことで精神面に大きな影響を与えたのは想像に難くない。

 トップアスリートには、自分のコンディションを維持するルーティーンが存在するものだが、日本に拠点を持たない韓国選手も多く、そうした環境が整わないことも大きなストレスになっていたと思う。

申ジエ「コンディション作りが難しかった」

 2009年の米女子ツアー賞金女王で元世界1位の申ジエも、イ・ボミとキム・ハヌルと同い年。今季の開幕戦でいきなり優勝して、健在ぶりをアピールした。

 それでもコロナ禍の3年間はかなり辛い時期だったと明かしていた。「私は日本ツアーに来てから、休みの週があれば必ず韓国に帰って家族や兄弟に会って過ごしていました。それが私の心が休まる時間でしたから。両国に行き来に隔離があり、まだ気軽に外出できる状態ではありません。日本で休みを過ごすといっても、部屋にいることが多いので、リフレッシュをどうすべきかが難しい。今はこうした状況にも慣れましたが、爆発的なスコアを出せるようなコンディションを作るのは以前よりも難しくなっています」

 ようやくそのような状況が落ち着いたことが、今季開幕戦の優勝につながったと言えるが、百戦錬磨の申ジエだからこそコロナ禍の3年間を耐えられたのではないかと思えるほどだ。

 もちろん、年齢的な部分で言えば、30歳を超えて、体力の低下や若いころのようなスイングができなくなったり、成績が落ちてきたことも日本を離れる要因だろうし、一方で若い選手たちの台頭によって自然とシード圏外に押し出されたり、技量向上やモチベーションが年々、低下しているのもあるだろう。

今季のヤマハレディース出場が日本ツアー最後となるユン・チェヨン(写真・筆者撮影)
今季のヤマハレディース出場が日本ツアー最後となるユン・チェヨン(写真・筆者撮影)

10カ月のホテル生活を続けたユン・チェヨン

 ユン・チェヨンも2017年から日本ツアーに初参戦して、毎年シードを維持してきたが、昨季は賞金ランキング79位でシードを落とし、「結果が出なかったので、かなり悩んで辛かったこともあり、徐々に考えて決めました」と話していた。

 また、彼女からはこんな苦労話も聞いていた。

「2021年は約10カ月を日本で過ごしました。日本に拠点を持たないので、ホテルを転々する生活でした。(コロナ感染の懸念があるので)気楽に外食したり、日韓も簡単に行き来することはできなかったです」

 試合に出ない週があれば韓国に帰ってリフレッシュして、再び来日して試合に挑める。そうしたルーティーンがユン・チェヨンには必要不可欠だったが、それがなくなると、途端にゴルフの調子が悪くなってもおかしくはないだろう。

 今季のシード権(昨季のメルセデス・ランキング50位以内)を持つ韓国選手は、申ジエ、ペ・ソンウ、イ・ミニョン、黄アルム、全美貞の5人になった。現在は新たに韓国から日本ツアーに来る選手は皆無で、プロテストに合格して正会員にならなければ、ツアー出場権を得るQTに出場できなくなったことが影響している。

 いずれにしても多くの韓国選手たちにとっては、2020年から22年までの3シーズンは“コロナ禍による失われた3年間”だったのではないか。様々な局面で難しい選択を迫られる中で、韓国の選手たちは日本でゴルフを続けていたという事実を改めて伝えておきたい。

スポーツライター

1977年7月27日生。大阪府出身の在日コリアン3世。朝鮮新報記者時代に社会、スポーツ、平壌での取材など幅広い分野で執筆。その後、編プロなどを経てフリーに。サッカー北朝鮮代表が2010年南アフリカW杯出場を決めたあと、代表チームと関係者を日本のメディアとして初めて平壌で取材することに成功し『Number』に寄稿。11年からは女子プロゴルフトーナメントの取材も開始し、日韓の女子プロと親交を深める。現在はJリーグ、ACL、代表戦と女子ゴルフを中心に週刊誌、専門誌、スポーツ専門サイトなど多媒体に執筆中。

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