Yahoo!ニュース

なぜキム・ジンスは宮市亮への負傷アクシデントを起こしても日本のサッカーファンから擁護の声が多いのか?

金明昱スポーツライター
全北現代所属の韓国代表DFキム・ジンス。アルビレックス新潟でプロデビューした(写真:Shutterstock/アフロ)

日韓戦後、キム・ジンスは森保一監督に歩み寄り何を話した?

 先月27日のEAFF E-1選手権の日韓戦で、キム・ジンスはキャプテンマークをつけて試合に挑んでいた。韓国は日本からゴールを奪えずに0-3での完敗。

 現地取材に行っていた筆者は、ピッチで呆然と立ち尽くす韓国選手たちの姿を眺めていた。すると、韓国代表の選手の一人が、日本代表チームの輪の中に歩いていく。それはDFキム・ジンス(全北現代)だった。駆け寄っていく人物が誰なのか気になっていると、その先には森保一監督がいた。キムはそこで立ち止まり、森保監督と会話を始めた。

 サムライブルーの青のユニフォームの群れの中に、韓国の真っ赤のユニフォームの選手がたった一人いる不思議な光景。何を話していたのかは正直分からない。ただ、キャプテンとして話すことがあったのだろう。

 後半に宮市亮(横浜F・マリノス)への接触プレーで大ケガ(右ひざ前十字じん帯を断裂)をさせてしまったことを謝ったのだろうか。他にも試合後の話や最近のJリーグやKリーグの話なのだろうかなど、色々と想像していた。それにしても森保監督と日本語も堪能なキム・ジンスが、これほどまでに違和感なく会話する姿が少し頼もしくも見えた。

 キムはアルビレックス新潟でプロデビューし、約2年半、懸命にプレーして多くのサポーターに愛された選手だった。アルビレックス新潟と“最後の別れ”のスピーチを日本語で行っているが、それが同クラブのYouTubeチャンネルに残っている。人柄の良さがにじみ出ていて、Jリーグと新潟、日本での生活を彼が本当に大切にしてきたことが、よく分かる。

試合とは関係ない質問にも真摯に答える

 18日に開幕するAFCチャンピオンズリーグ(ACL)のノックアウトステージのベスト16で対戦する全北現代と大邱FCの前日会見に全北現代の韓国代表DFキム・ジンスが姿を見せていた。

 そこでは日本の報道陣から「先月、日本で開催されたEAFF E-1選手権で宮市亮選手(横浜F・マリノス)と衝突して、大ケガを負った。何か伝えることはないですか」と質問が飛び出したという。その一連の流れについて、総合ニュースサイト「mydaily(マイデイリー)」が伝えている。

 キム・ジンスは「宮市亮選手との間で起こったことについては、私が謝罪した。理由がなんであろうと、彼がケガをしたのであって、本当に申し訳ないと思う」と話し、その後、日本の記者が「この場でこの質問をしてすみません」と謝罪すると、キム・ジンスは日本語で「大丈夫」と答えたという。

 これについてはすでに故意によるものではなく、全力でプレーする中で起こったアクシデントであるという認識が共有されているだろうし、サッカーの試合では起こりうることだ。だが、ライバルである両国だけに、「韓国が得意とするラフプレーによるケガ」と思う人も、もしかすると一定数はいたかもしれない。

W杯出場は“3度目の正直”なるか

 アルビレックス新潟でプロデビューを飾り、約2年半プレーした彼は日韓両国民の感情をよく知る選手の一人。自分の行動や言動が、韓国の選手にどのような影響やイメージを与えるのかをよく知っているはずだ。だからこそ、試合とは関係のない質問でも、嫌な顔をせず丁寧に、誠実に答える。そんな真摯な行動が日本のファンから愛される理由だろう。そこでふと、森保監督へ歩み寄っていく姿が思い浮かんだ。

 全北現代では替えのきかない主力の左サイドバックとして、今では韓国代表でもレギュラーに定着した。2014年ブラジル大会と18年ロシア大会はケガでメンバーから落選したが、今回のカタール・ワールドカップ(W杯)では3度目の正直としたいところ。

 30歳のキムにとっては最後のW杯となるだろう。世界の強豪国を相手に躍動する姿を日本から応援するファンもきっと多いはずだ。

スポーツライター

1977年7月27日生。大阪府出身の在日コリアン3世。朝鮮新報記者時代に社会、スポーツ、平壌での取材など幅広い分野で執筆。その後、編プロなどを経てフリーに。サッカー北朝鮮代表が2010年南アフリカW杯出場を決めたあと、代表チームと関係者を日本のメディアとして初めて平壌で取材することに成功し『Number』に寄稿。11年からは女子プロゴルフトーナメントの取材も開始し、日韓の女子プロと親交を深める。現在はJリーグ、ACL、代表戦と女子ゴルフを中心に週刊誌、専門誌、スポーツ専門サイトなど多媒体に執筆中。

金明昱の最近の記事