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女子プロゴルファーにプレー中の“笑顔”は必要?ある選手の“反響ツイート”から考察するスマイルの是非

金明昱スポーツライター
「スマイル・シンデレラ」の愛称を持つ渋野日向子だが…(写真:REX/アフロ)

 1998年度生まれの“黄金世代”で女子プロゴルフツアー1勝の河本結が、5月9日に投稿したツイッターの内容に目が留まった。

「私は、ゴルフも戦いだと思うんだけど?

格闘技とかで笑顔〜とかある?

ファンが見てる、ギャラリーがって

それは本当に感謝してますし。

でも

怖い顔で戦うの、いんじゃないの?

ゴルフにはいろんな戦い方をする選手が居ていいと思う。

それも含め女子プロゴルフの

魅力なんじゃないの?」

 上記は原文そのままなのだが、内容から察するに、試合中にギャラリーから「笑顔がない」などと言われたのだろうか。何か思いを起こさせるものがあったのだろう。

 ちなみにこのツイートは、約2400件の「いいね」(5月10日時点)がつくほどの反響で、河本の意見に対して共感する人たちが多いと察する。

河本結のツイッターの投稿(@Yk5472)
河本結のツイッターの投稿(@Yk5472)

プレー中の表情が話題になるゴルフの特性

 プレー中の表情がこれほどギャラリーにじっくりと見られる競技も珍しい。

 “笑顔”でプレーしていれば「あの選手は愛想がいい」と称賛され、真剣な表情で笑顔一つもなく18ホールを回っていれば「全然、笑わない」と揶揄される。個人的にはそうした部分が、気の毒で仕方ないと思うことがある。

 成績や調子が良ければ、自然と笑顔が出てくるものだし、常に笑顔を心掛けることでリラックスできるという選手もいるだろう。しかし、いいプレーができずスコアが伸び悩んでいる時に笑顔を振りまく余裕がなくて当然だ。

 とはいえ、一方でスポンサーやファンあってのトーナメントでもある。チケットを買って観戦する立場を考えれば、多少は笑顔での対応もプロとしての仕事と捉えられる側面があるのも事実だ。

渋野日向子「イライラすることもある」

 これまで数多くの女子プロゴルファーのプレーを見たり、対面インタビューで色々な話を聞いてきたりしたが、その中でたびたび“笑顔”に関する話になることもあった。

 “スマイル・シンデレラ”の愛称がつけられた渋野日向子。

 2019年の全英女子オープンを制覇した渋野日向子が、プレー中やインタビューで常にニコニコと笑顔を見せていたことから、海外メディアが「スマイル・シンデレラ」と名付けたというが、そのインパクトは大きい。

 ただ、彼女も常に笑顔でプレーしているのかといえばそうではない。

 2年前の2020年7月に行った渋野日向子の単独インタビューで「笑顔」に関する質問をいくつかしたのだが、こんなことを話している。

【参照】:渋野日向子「スマイルシンデレラを壊しちゃうよ?」 全英女子OP優勝から1年の思い

――プレーと関係ない話になるのですが、“スマイル”ばかりが注目されて、つらくないですか?

 いま考えると私、そんなに笑っていたっけなーって思います。こうやって名前(スマイル・シンデレラ)を付けていただけるのは、ありがたいです。でも、私はウソをつけないので、顔には出しますよ。

――「顔に出る」というのは、笑っているときもそうでないときも、自然と表情に出るということでしょうか。

 笑うのもそうですし、怒るときも顔に出しますし、本当に“スマイル・シンデレラ”という名前を壊しちゃうよ? というぐらい隠さず顔に出します(苦笑)。失敗した自分にすごく怒ってしまうのは昔からなんです。ソフトボールのピッチャーをやっていた小学生のときは、ヒットを打たれたら、次はその打った人に対して、ボールを当てたくなるくらいに、すごく怒ってました(笑)。

――でも、ゴルフのプレー中はなるべく抑えていると?

 ミスショットをするとイライラして、「チッ」と舌打ちをしちゃったりすることもあります。ただ、怒りの感情はなるべく出さないように気を付けています。ギャラリーのみなさんに見てもらっていますし、ゴルフは怒ったところで、それが原因でスコアが悪くなっていきます。そういうことをプロになってから、試合を戦う中ですごく気付かされました。

 渋野もイライラして笑っている余裕がないこともあると正直に話していた。前述した河本はツイートの投稿で、続きをこう記している。

「正解はわからないけど。

結果が全て って、今は、

そう思って "私のゴルフ"

を確立しようとしてる」

 河本の言う通り、真剣勝負の場で“笑顔”でいる義務はない。プロである以上結果がすべてである。納得の回答だと思う。

 それに河本がまったく笑顔を見せないのかと言えばそうではない。いいショットで拍手が贈られれば、ギャラリーに向けて手を挙げて笑顔を見せることもある。

「無理してニコニコしなくても」

 今季のKKT杯バンテリンレディスオープンのプレーオフで敗れて2位の吉田優利もいつもと違う淡々としたプレー中の表情について問われ、こんなことを言っている。

「勝つまで集中し続けなきゃいけないですし、ニコニコしてる暇もないというか。別に無理してニコニコしなくても良いと思っています」

 優勝のかかった大一番で、笑顔でいることのほうが難しいのは当然だろう。

 また、“スマイルキャディ”の愛称を持つイ・ボミや“スマイル・クイーン”と呼ばれたキム・ハヌルも「常に笑っているイメージがあるようで、そのあたりは少し苦労しました」と口をそろえていた。

 特に近年のイ・ボミは思うようなショットが打てず、ファンの前でも笑顔が消えることのほうが大きく、2015年に初めて賞金女王になった時のように笑顔が見せられないことをとても辛そうにしていた。どの選手も笑顔でいられる時とそうでない時がある。

 「試合」とは「試し合い」であるが、選手たちが練習してきた技量を試す場所。プロゴルファーはこれまで磨き上げてきた技術をコースで試し、素晴らしいプレーにギャラリーは一喜一憂し拍手を贈る。それでいいと思う。

申ジエ「ゴルフ場に一歩入れば、そこは戦場」

 そこで元世界ランク1位で元米ツアー賞金女王の申ジエの言葉が思い浮かぶ。彼女に韓国人選手の強さの理由について聞いた時、少し考えてこんな答えが返ってきた。

「ゴルフ場に一歩入れば、そこはもう戦場なんです」

 この重い一言に、彼女のゴルフへの取り組み方が見える。ライバルたちがひしめきあう真剣勝負の試合で、笑顔を見せることはないという雰囲気もひしひしと伝わってくる。

 いずれにしてもプレー中にギャラリーが選手たちに“笑顔”でいることや、大きな大会で勝った選手たちに常に結果を求める風潮には違和感がある。

 もちろんいつも笑顔でいる選手に親しみやすさを感じるというのもあるが、プロゴルファーは想像以上の重圧の中で真剣勝負をしていることを、今一度、見る側も考える必要があるだろう。

スポーツライター

1977年7月27日生。大阪府出身の在日コリアン3世。朝鮮新報記者時代に社会、スポーツ、平壌での取材など幅広い分野で執筆。その後、編プロなどを経てフリーに。サッカー北朝鮮代表が2010年南アフリカW杯出場を決めたあと、代表チームと関係者を日本のメディアとして初めて平壌で取材することに成功し『Number』に寄稿。11年からは女子プロゴルフトーナメントの取材も開始し、日韓の女子プロと親交を深める。現在はJリーグ、ACL、代表戦と女子ゴルフを中心に週刊誌、専門誌、スポーツ専門サイトなど多媒体に執筆中。

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