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渋野日向子との“因縁”で敗れ続けた韓国のペ・ソンウが決して“グッドルーザー”ではない理由とは?

金明昱スポーツライター
先週は渋野にプレーオフで敗れたが優勝も近いペ・ソンウ(写真・KLPGA提供)

「これは僕個人の気持ちですけれど、負けた選手に対して“グッドルーザー”という表現はどうなのかな、とは思うところはあります」

 そう語るのは先週開催された樋口久子三菱電機レディスでペ・ソンウのキャディを務めた李進伍(イ・ジノ)氏だ。

 彼は2019年日本ツアー初参戦したペ・ソンウのバッグを担ぎ、同年の2勝を支えたキャディでもある。

 樋口久子三菱電機レディス最終日にペ・ソンウは優勝を目前にしながら、18番ホールでウィニングパットを外し、渋野日向子に土壇場で追いつかれると、プレーオフ1ホール目で敗れた。

 3週前のスタンレー・レディスでも渋野にプレーオフで敗れているため、渋野との因縁がクローズアップされた。2019年ワールドレディスチャンピオンシップサロンパスカップで、この時も渋野が最終日に競り勝ち、ペ・ソンウは2位だった。

 ただ、敗れたあとにグリーン上で相手を称えて笑顔でハグする姿がいつも見られることから、いつしか“グッドルーザー”という言葉がペ・ソンウを象徴する表現になった感がある。

「クラブハウスでは大泣きしていた」

 キャディの李氏は「今回の敗北は確かな勝利を目の前にして敗れたので、相当悔しかったと思います。勝つことはもちろん簡単ではありませんが、彼女が敗れたことを良いとは思っているはずがありません。もちろん僕も悔しいですし、負けた選手が“グッドルーザー”なわけがないと思っています」と話す。

 選手の心情を考えたとき、試合に敗れて悔しくない選手は誰一人としていない。「負けに対して潔い」という表現は、こちらの勝手な想像でしかないからだ。

 ただ、ペ・ソンウが“表”で見せる姿は、スポーツマンシップに溢れていると感じさせるものでもある。敗北した自分に不甲斐なさを感じつつも、いつも勝者を称えて笑顔でグリーンを去っていくその姿が、多くのゴルフファンの胸を打っているのも事実だろう。

 李氏は敗れたペ・ソンウに対して、特にねぎらいの言葉はかけなかった。

「僕はソンウが負けたあと、特に何も声をかけませんでした。これ以上に悔しい試合はないでしょうし、その気持ちは痛いほどわかりますから。あとは韓国の先輩たちに任せました」

 クラブハウスに戻ったあとで迎えたのは、イ・ナリら韓国選手たち。そこでペ・ソンウは大泣きしていたという。悔し涙から得たものもあっただろうし、リベンジを誓ったに違いない。

今季はトップ10入り13回と好調を維持している(写真・KLPGA提供)
今季はトップ10入り13回と好調を維持している(写真・KLPGA提供)

「私はコツコツと上にあがっていくタイプ」

 今シーズンはまだ優勝がないが、すでにトップ10入りは13回で、賞金ランキングも16位。コロナ禍で海外選手は、休みの週があっても自由に母国と日本を行ったり来たりすることができなくなった。そうした苦労やストレスの影響もあり、今季はイ・ボミも不振にあえぎ、キム・ハヌルも現役引退を発表した。

「ソンウもやっぱり韓国に帰ってリフレッシュできないストレスがありますから、自由な動きができていれば、今年はもう少し成績が上がっていたと感じます」(李氏)

 日本女子ゴルフツアーにペ・ソンウが初参戦したのは2019年だが、1年目に2勝している実力は本物。3年目の今もこうして優勝争いに顔を出す彼女の実力を「ゴルフをよく知っていますし、すごく頭のいいゴルファー。元々、実力のある選手なので、優勝も近いと思います」と太鼓判を押す。

 2019年にペ・ソンウにインタビューする機会があったのだが、その時は自分のことをこう分析していた。

「私はほかの選手のように爆発力があるタイプではないので、コツコツと上に上がっていくタイプです。才能があったり、スターのように派手なタイプでもありません。少しずつツアーで力をつけて、勝てる選手に成長してきたんだと思います」

 言葉通りに小さな努力を重ね、試合では一打を大事にし、日本でも着実に成長している。次こそギャラリーの前で勝利の涙を流してもらいたいと思っている。

 その時はもう“グッドルーザー”とは言わせない。

日本のアイドルではジャニーズの嵐が好きと語っていた(写真・KLPGA提供)
日本のアイドルではジャニーズの嵐が好きと語っていた(写真・KLPGA提供)

■ペ・ソンウ/1994年3月1日生まれ。韓国出身。2012年プロ転向。16年に2勝して注目を浴びた。18年には韓国メジャー含む2勝で賞金ランキング2位に。ツアー通算4勝。24歳で日本ツアー挑戦を決心。18年のファイナルQTで14位となり19年から日本ツアー初参戦。1年目から2勝して賞金ランキング4位となる。15年から日本で開催されている4ツアー対抗戦「ザ・クイーンズ」にも韓国代表として3年連続出場を果たしている。好きな日本のアイドルはジャニーズの嵐。趣味はアイスホッケー観戦

スポーツライター

1977年7月27日生。大阪府出身の在日コリアン3世。朝鮮新報記者時代に社会、スポーツ、平壌での取材など幅広い分野で執筆。その後、編プロなどを経てフリーに。サッカー北朝鮮代表が2010年南アフリカW杯出場を決めたあと、代表チームと関係者を日本のメディアとして初めて平壌で取材することに成功し『Number』に寄稿。11年からは女子プロゴルフトーナメントの取材も開始し、日韓の女子プロと親交を深める。現在はJリーグ、ACL、代表戦と女子ゴルフを中心に週刊誌、専門誌、スポーツ専門サイトなど多媒体に執筆中。

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