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渋野日向子の罰金100万円は甘い?韓国女子ツアーで前回大会覇者の欠場は“優勝賞金全額”罰金の衝撃!

金明昱スポーツライター
渋野日向子が100万円を罰金したが、韓国ツアーには優勝賞金全額罰金の規定がある(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

 今週開催されている「ワールドレディスチャンピオンシップサロンパスカップ」を欠場した前回大会覇者の渋野日向子。現在、タイで開催されている米ツアーの「ホンダLPGAタイランド」に出場しており、6月までは海外を転戦する予定という。

 そのため日本女子プロゴルフ協会(JLPGA)の規定通り、出場義務違反として100万円の罰金が科されたことが物議をかもしている。

 ただ、罰金の金額自体は渋野にとってはそこまで“痛手”ではないだろう。こうした規定が時代にそぐわないという声が大多数だと思う。

 ディフェンディングチャンピオンであり、しかも人気選手ならなおさら、海外の試合に出てほしくない協会側の思いやスポンサーの意向もあるはずだ。

 それはお隣の国、韓国女子ツアーでより顕著なのをご存じだろうか。

 韓国女子ツアーでプレーしていた実力者が、今では米ツアー進出を果たしているのは、ゴルフファンならよく知るところだろう。

 現在の世界ランキング上位にいる1位のコ・ジンヨン、3位のキム・セヨン、7位のキム・ヒョージュ、18位のイ・ジョンウン6、19位のパク・ソンヒョンは今も米ツアーで活躍しているが、かつては韓国女子ツアーで賞金女王などのタイトルを勝ち取った選手たちである。

 実績と実力のある選手がゆえに、韓国内に留まらず、米ツアー進出を果たすケースが後を絶たなかった。

 それは世界で通用する選手が、韓国ツアーに多いという証拠だが、一方で人材の流出で国内ツアーの人気低下が懸念されていた。

 そのため韓国女子プロゴルフ協会(KLPGA)が定めた規定があるのだが、選手にとってはかなり厳しいもの。

 もっとも驚いたのは、KLPGAツアーの大会優勝者が、翌年の同一大会を欠場した場合に払う罰金が“優勝賞金全額”という規定だ。

 ちなみに2012年までは優勝賞金の50%が罰金だったが、2013年から全額の罰金に規定が変更され、現在に至るという。(海外ツアーで活動中の選手や招待選手の場合は別途審査で決定。外国人選手は除外)

 韓国ツアーのトーナメント1試合の優勝賞金は、今シーズン開催された3試合の実績だと約1260~1800万円。これだけ大金を“罰金”として支払ってまで海外の試合に出ようと思う選手はいないだろう。

 比較しても仕方がないが、渋野の100万円があまりに小さく見えてしまう。

 実際、韓国ツアーではディフェンディングチャンピオンが欠場して、優勝賞金全額を支払ったケースはない。ただ、この規定によって“被害”を被った選手が2人いる。日本ツアー6勝のキム・ハヌルと米ツアー7勝のパク・ソンヒョンだ。

優勝賞金全額を罰金か米ツアーかで揺れたキム・ハヌル

 現在、日本でプレーするキム・ハヌルは、2011、12年の韓国ツアー賞金女王でもある。

 心身ともに絶頂期を迎えていたこともあり、その勢いで米ツアー進出を計画。2013年のQスクール(予選会)の受験を予定していた。そこで引っかかったのが、前回大会覇者の出場義務である。

 同年Qスクール直前の大会「ラッシュ&キャッシュチャリティークラシック」のディフェンディングチャンピオンだったのだ。

 2013年当時の韓国経済紙「アジア経済」はこう報じている。

「詰まった日程のため、大会欠場を伝えたキム・ハヌルはKLPGAから『昨年(2012年)の優勝賞金1億2000万ウォン(約1200万円)を返すように』と伝えられた。それでQスクールを放棄した」

 当時の心境についてキム・ハヌルが語ったインタビューが韓国紙「文化日報」(2018年1月17日付)のに掲載されていた。

「2013年の秋に米ツアーのQスクールに挑戦しようと思ったのですが、韓国のディフェンディング大会と日程が重なりました。罰金をしてまでもアメリカに行こうとしましたが、優勝賞金全額を収めないといけないという規定で断念しました……。大会主催者側とKLPGAとの関係を考慮して、アメリカ行きを諦めました」

 とはいえ、その後に日本行きを決断し、ここまで通算6勝と結果を残しているのを考えると、結果的にはよかったと言えるのかもしれない。

韓国ツアー同日程の海外ツアー出場は最大3試合

 また、現在米ツアーが主戦場のパク・ソンヒョンは韓国女子ツアーの開幕戦「2017年現代車中国女子オープン」を欠場。前年(2016年)同大会で優勝していたが、米ツアー進出でアメリカにいたため出場できず、本来であれば罰金で優勝賞金の全額を支払わなければならなかった。

 しかし「腰を痛めて大会に出られない」との理由で、病院からの診断書を提出するとKLPGAはそれを受諾。結果的に罰金をせずに済んだという。

 他にも2019年からは、KLPGAツアーと同じ日程に開催される海外ツアーへの出場は、最大で3試合までと規定が加わった。さらにKLPGAツアーのメジャー大会が海外ツアーと同じ日程で開催される場合は、国内メジャーを優先する出場義務が課されている。

 仮に規定を違反した場合、最大10試合の大会出場停止と10万ウォン~1億ウォン(約1万円~1000万円)の罰金を支払わなければならない。

 こうした規定について“鎖国政策”と批判する声もあるが、人気選手が抜ければトーナメントの興行にも影響する。そこには大会スポンサーの意向も見え隠れする。

 いずれにせよ、韓国女子ツアーは国内選手の海外進出にはかなりシビアだということをお分かりいただけただろうか。

スポーツライター

1977年7月27日生。大阪府出身の在日コリアン3世。朝鮮新報記者時代に社会、スポーツ、平壌での取材など幅広い分野で執筆。その後、編プロなどを経てフリーに。サッカー北朝鮮代表が2010年南アフリカW杯出場を決めたあと、代表チームと関係者を日本のメディアとして初めて平壌で取材することに成功し『Number』に寄稿。11年からは女子プロゴルフトーナメントの取材も開始し、日韓の女子プロと親交を深める。現在はJリーグ、ACL、代表戦と女子ゴルフを中心に週刊誌、専門誌、スポーツ専門サイトなど多媒体に執筆中。

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