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【独占インタビュー】昨年女子ゴルフツアー不出場の“セクシークイーン”アン・シネは今どうしているのか?

金明昱スポーツライター
昨年は日本ツアー出場を見送ったアン・シネ(写真:Lee Jae-Won/アフロ)

「日本の(新型コロナの)状況はどうですか?」

 電話越しの声は明るくも、今も新型コロナウイルスの感染者が減らない日本の状況をとても心配していた。

 声の主は、かつて“セクシークイーン”との愛称で女子ゴルフ界をにぎわせたアン・シネだ。

 2020年シーズンの日本女子ゴルフツアーは、コロナ禍の中で14試合が開催された。しかし、同ツアーを主戦場にする海外の選手たちは、入国制限措置などで入国が遅れたり、コロナに感染する危険性を避けるため参戦を見送ったりした選手もいる。

 彼女はその中の一人でもある。

 19年に日本女子プロゴルフ協会の正会員の資格を得るためにプロテストを受験して合格を勝ち取り、同年のQT(予選会)を25位で突破。20年は前半戦から出場が可能だったが、コロナ禍で日本への入国制限措置などで、ツアー参戦への歯車が狂い始めた。

 最終的に「20年シーズンは参戦を見送る」と決断した。

 20年と21年シーズンは統合され、ツアーへの出場資格はそのまま持ち越される。そのため、アン・シネは今年もツアー参戦が可能だ。

 現在はどのように韓国で過ごしているのか。開幕までの準備をどのように進めているのかについて聞くため、電話でインタビューを行った。

「日本ツアー参戦の準備を進めている」

――昨年は新型コロナウイルスの影響もあり、日本ツアー参戦を見送りました。

 去年は新型コロナウイルス感染拡大の影響で日本の入国制限解除の見通しが立たず、ビザの更新の問題もあり、どうすべきか迷っていました。最終的に日本への入国が可能となったあと、3~4試合の出場を考えていたのですが、短いスパンで両国を行き来することで、2週間の自主隔離があり、それも大きなネックでした。コロナに感染するリスクへの不安もありました。それで20年シーズンは韓国に残ると決めました。

――試合に出ない間はどのように過ごしていましたか?

 練習場でショットの確認、ジムでのトレーニング、ラウンドにも出ていました。ただ、昨年の冬場あたりから、韓国で新型コロナの感染者数が増え、練習場やトレーニング施設などが使えなくなったんです。それから自宅でのコンディション調整はすごく難しかったです。先週からジムなどの施設使用が再開されたので、トレーニングを開始しています。

――ということは、今年は日本ツアー参戦の準備を進めているということですね?

 もちろんです。私が開幕戦の「ダイキンオーキッドレディス」(3月4~7日)に出場できたら、496日ぶりの出場となるそうです。日本と韓国のニュース記事を見て知ったのですが、そんなにも試合に出ていないんだと思って驚きました。1年間も試合に出ず、こんなに休んだこともないので、緊張感が落ちている状態です。試合の緊張感を取り戻す練習を重点的にしていかないといけない。とにかく今は試合に出られるだけでも感謝したい気持ちです。重圧よりも楽しさのほうが勝つと思います。

韓国-沖縄便がない新たな“悩み”

――ただ、今もコロナ感染へのリスクや2週間の自主隔離も続いています。

 確かに2週間の隔離は、アスリートにはすごく大変です。それに韓国から直接、日本ツアーの開幕戦が行われる沖縄に入れるかと思ったのですが、現時点では直行便がないんです。韓国からは成田行きがあるので、そうなると成田で2週間の隔離生活を送ることになります。そのあとから沖縄に入ることになれば、少し予定を立てづらい部分はあります。

――2月7日に解除予定の緊急事態宣言ですが、その後の予定も不確定です。

 日本の緊急事態宣言が解除されて、2月8日から日本に入国できるなら、2月中旬くらいに日本に行く予定で考えていました。ただ、入国制限措置がどうなるのか、緊急事態宣言が延長されるのかに注視しています。私だけでなく、日本ツアーを主戦場にする選手たちはそのあたりをすごく心配していると思います。最悪、開幕戦に出場できない海外選手が出てくる可能性もありますよね。

自分の日常を取り戻したい

――日本ツアー参戦から今年で4年目のシーズンになりますね。

 今はとにかく自分の日常のルーティーンを取り戻したい気持ちが強いです。他の選手とプレーを楽しんだり、キャディさんとコースの攻め方を話しあったり、芝や風のチェック、グリーンの状態を確認するなど、いつもやってきたことに取り組みたい気持ちです。朝早く起きて朝食を食べて、ストレッチをして、練習をしてティグラウンドに立つというようなルーティーンがすごく恋しいです。

――精神的にはすごくいい状態にあるようにも見えます。

 正直、去年は日本に行けない状態のとき、焦りよりも少し気持ちが楽になった部分もありました。というのも、5年前から日本ツアーのQT(予選会)に挑戦して、がんばって生き残れるようにここまで必死に戦ってきました。去年はそこから少し立ち止まって、大きく息を吸って落ち着くことができました。自分にはすごく貴重な時間だったと思います。

新たに成し遂げたいことがある

――逆に自分を見つめなおす時間になったということでしょうか?

 私は日本に行ってからは、自分が求めるような成績は残せていません。ただ、19年は若い選手たちとプロテストにも挑戦し、そのあとQTにも出場しました。一つひとつ、ミッションをクリアしなければ生き残れなかったわけなので、常に息苦しかったのはあります。そうした大きな重圧との戦いから少し解放され、結果を残そうという気持ちが高まってきました。プロゴルファーなのに試合に出ていないと「自分は何者? こんな長い時間、私は何をすればいいの?」と悩んだりもしましたが、ゴルフをやめたいとは思わなかった。むしろ新たに成し遂げたいことがあるという気持ちです。

――今年は試合に出る意欲がかなり強いようですね。目標はどこに置いていますか?

 21年シーズンは(第1回リランキングまで)10試合くらい出場できると聞いています。去年から試合に出ている選手たちの賞金ランキングを追う形になるので、順位を上げていくのはかなりハードルが高いのですが、目標はリランキングで上位入りして、後半戦の出場権を勝ち取ることです。

スポーツライター

1977年7月27日生。大阪府出身の在日コリアン3世。朝鮮新報記者時代に社会、スポーツ、平壌での取材など幅広い分野で執筆。その後、編プロなどを経てフリーに。サッカー北朝鮮代表が2010年南アフリカW杯出場を決めたあと、代表チームと関係者を日本のメディアとして初めて平壌で取材することに成功し『Number』に寄稿。11年からは女子プロゴルフトーナメントの取材も開始し、日韓の女子プロと親交を深める。現在はJリーグ、ACL、代表戦と女子ゴルフを中心に週刊誌、専門誌、スポーツ専門サイトなど多媒体に執筆中。

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