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渋野日向子「スマイルシンデレラを壊しちゃうよ?」 全英女子OP優勝から1年の思い

金明昱スポーツライター
全英女子オープンの開催が決まり、意気込む渋野(写真提供・株式会社ゾーン)

「私、そんなに笑っていたっけなーって思います」

 女子プロゴルファーの渋野日向子にトレードマークの笑顔について質問をすると、こんな答えが返ってきた。

 昨年8月、プロテストに合格したばかりの20歳のルーキーが、全英女子オープンで日本人選手として42年ぶりにメジャー優勝を飾ると、“スマイルシンデレラ”と呼ばれる存在となった。

 あれから1年。渋野自身は“しぶこスマイル”をどう捉えているのか。一字一句が“しぶこ節”と注目を浴びる現実、2億円以上の賞金を稼いでも変わらない部分について、インタビューで迫った。

「スマイルシンデレラの名前を壊しちゃうよ?」

――昨年の全英女子オープン優勝から1年が経ちました。ここまで早かったですか?

 正直、長かったです。忙しいとあっという間だったりするんでしょうけれど、全英女子オープン以降は一日一日がすごく濃かった。それがかなり財産にはなっているので、長く感じるのかな。今年はもう7月なんだと思う一方で、「あれ?まだ1年経っていないんだ」とも感じます。

――今年の全英女子オープン(8月20~23日、スコットランド、ロイヤルトゥルーンGC)は無観客で開催されることが発表されました。今の気持ちは?

 もう絶対に出たいって思っていたので、うれしいです! 2連覇できるのは私しかいないので、挑戦していきたい。前週のスコットランド女子オープン(8月13~16日)にも推薦をいただいたので、とても感謝しています。

昨年の全英女子オープンではメジャー初出場で初優勝を成し遂げた(写真:AFP/アフロ)
昨年の全英女子オープンではメジャー初出場で初優勝を成し遂げた(写真:AFP/アフロ)

――プレーと関係ない話になるのですが、“スマイル”ばかりが注目されて、つらくないですか?

 いま考えると私、そんなに笑っていたっけなーって思います。こうやって名前(スマイルシンデレラ)を付けていただけるのは、ありがたいです。でも、私はウソをつけないので、顔には出しますよ。

――「顔に出る」というのは、笑っているときもそうでないときも、自然と表情に出るということでしょうか。

 笑うのもそうですし、怒るときも顔に出しますし、本当に“スマイルシンデレラ”という名前を壊しちゃうよ? というぐらい隠さず顔に出します(苦笑)。失敗した自分にすごく怒ってしまうのは昔からなんです。ソフトボールのピッチャーをやっていた小学生のときは、ヒットを打たれたら、次はその打った人に対して、ボールを当てたくなるくらいに、すごく怒ってました(笑)。

――でも、ゴルフのプレー中はなるべく抑えていると?

 ミスショットをするとイライラして、「チッ」と舌打ちをしちゃったりすることもあります。ただ、怒りの感情はなるべく出さないように気を付けています。ギャラリーのみなさんに見てもらっていますし、ゴルフは怒ったところで、それが原因でスコアが悪くなっていきます。そういうことをプロになってから、試合を戦う中ですごく気付かされました。

――そう聞くと“スマイルシンデレラ”と呼ばれている印象とギャップが大きいですね。

 ギャップはあるかもしれませんね(苦笑)。でも、全英女子オープンで優勝したことによって、小さな子どもたちも見に来るようになりましたからね。昨年はいろんな経験をさせてもらって、多くの人の目標になりたいと思いましたし、これからどういうことをやっていったらいいのかは考えさせられますね。

賞金2億円以上を稼いでも変わらない思い

――“スマイル”だけでなく、プレー中にお菓子を食べると “もぐもぐタイム”というような報道をどのように感じていますか?

 嫌じゃないですよ。全英女子オープンで優勝してからは、何かを食べるときにシャッター音を感じます。というか、カメラマンさん、絶対に狙っているよなーって思うんですけれども。それが嫌で食べなかったときは、おなかが空いちゃうんですよ。それだと意味がないと思ったので、結局は食べています(笑)。

――写真を撮られるのを避けるために、食べなかったこともあったんですね。

 そうなんですよ。でも、本当におなかが空くのは我慢できないんで(笑)。もうこっちが我慢しても、ゴルフに影響してしまったらいけないので。だったら今までやってきたことを続けるしかないなって。今はもう「どうぞ撮ってください」ですよ。

プレー中にお菓子をもぐもぐ食べる姿が話題になった(写真:日刊スポーツ/アフロ)
プレー中にお菓子をもぐもぐ食べる姿が話題になった(写真:日刊スポーツ/アフロ)

――昨年は賞金だけでも2億円以上を稼ぎました。それによって、ハングリーさがなくなったとかはありますか?

 プロゴルファーになるまでに家族にはかなり迷惑をかけてきたので、その恩返しは1年ではまったく足りないんです。私は自分のためにゴルフをやっているというより、人のためにやっている思いがかなり強いので、これから先もハングリー精神がなくなることはないと思います。

――家族に苦労をかけたからこそ、たくさん恩返しをしたいのですね。

 プロゴルファーは結果がすべてです。小さいときから応援してくれている人、全英女子オープンで優勝してから私のことを応援してくれている人もいます。そんな人たちのためにも、優勝することが一番の恩返しです。たくさんの人に喜んでもらえるのは、やっぱりすごくうれしいんです。それがまた原動力にもなります。

――それでも生活を守るために、賞金を稼ぎ続けなければいけないと思うことはありませんか?

 肩書きは死ぬまで“プロゴルファー”ではあるんですけれども、第一線で戦っていける期間は限られています。引退してからも生きていくためには、いま頑張らなきゃいけないというのはあるんですけれども、正直そこまで考えていないですね。

一字一句が“しぶこ節”と注目される現実

――国内ツアー今季開幕戦のアース・モンダミンカップは予選落ちという結果でしたが、気持ちはどのように切り替えますか?

 寝たらすぐ直ります(笑)。それにすぐに気持ちを切り替えられるので、引きずることはありませんね。私のコーチも家族もみんなが、前向きな気持ちでいるので、とてもいいチームです。なので、気持ちが落ちることはなかったです。

――昨年はメディアに引っ張りだこで、好意的なニュースが増えた一方、今季は予選落ちした途端、悲観的な記事も目立つようになりました。そこから何か思ったことはありますか?

 いろんな意見があると思いますが、私の気持ちを分かってほしいとも思っていないので、自分を信じてやるだけですね。分かってくれている人に、自分が取り組んでいることや本当の気持ちを分かってもらいたいと思っています。

――万人受けしなくてもいいと。ただ、さまざまな意見は注目されている証拠でもありますよね。

 注目していただけているというのは、本当にありがたいことです。私もそれを目指していたわけですから。確かに結果が出なくて、予選落ちをしました。あのときは「オフにやってきたことが無駄だったのかな」と言ってしまったんですけれども、いま思えばすぐに結果が出るわけでもない。だから、いつ出るか分からない結果のために、これからも頑張っていかなきゃというのは、もう次の日に思いましたね。

――そういう意味では、“しぶこ節”という言葉が生まれたように、自分の発言の一字一句が記事になることで、気を付けたりしますか?

 気を付けないといけないというのはあるんですけれども、結局、自分の思っていることをちゃんと言っているので、それを記事にしていただけているのは本当にうれしいなと思います。

リモート取材中の渋野。どんな質問にも笑顔で答えてくれた(写真提供・株式会社ゾーン)
リモート取材中の渋野。どんな質問にも笑顔で答えてくれた(写真提供・株式会社ゾーン)

「画面越しからでも笑顔を届けたい」

――今、何かやりたいことはありますか?

 もちろん私がやるべきことはゴルフです。いつ引退するか分からないですけれども、それまでは練習して、ゴルフをしっかり頑張っていけたらなと思います。その中でもいろんな経験をしたいなと。今年、私がやりたかったのはスポーツ観戦だったんです。ゴルフとは違うスポーツの試合を見に行って、いろんなことを吸収して、勉強したいと思っていました。そういう思いもあったので、新型コロナウイルスの影響で、スポーツイベントが中止になっている状況がとても残念です。

――具体的にはどんなスポーツを観戦したいですか?

 2月にラグビーのトップリーグを見に行かせていただいたので、あとは野球、サッカー、バスケットボール、卓球とかを見に行きたいです。そうしたことも人生経験になると思っています。

――最後に。これからもやっぱり笑顔でいたいですか?

 それはもちろんです! ゴルフで笑顔を届けたいのもありますけれども、笑っていることで、いろんな人を笑顔にすることができたという思いがあります。今は無観客試合がほとんどですし、ギャラリーがいつから入れられるか分からないですけれども、画面越しからでも笑顔を届けられるようにできたらなと思います。

■渋野日向子(しぶの・ひなこ)

1998年11月15日生まれ(21歳)。岡山県岡山市出身。8歳のとき、ゴルフと一緒にソフトボールを始め、中学2年生からゴルフに専念。2018年のプロテストに2度目の挑戦で合格。2019年5月、「ワールドレディスサロンパスカップ」で国内メジャー初制覇。同年8月、海外メジャー初出場の「全英女子オープン」では日本人選手として樋口久子以来、42年ぶり2人目のメジャー制覇。「スマイルシンデレラ」と呼ばれる存在に。昨季は国内ツアーで4勝を挙げるなど、賞金2億円以上を稼いだ。8月20日から開催される「全英女子オープン」で連覇を目指す。

【この記事は、Yahoo!ニュース個人編集部とオーサーが内容に関して共同で企画し、オーサーが執筆したものです】

スポーツライター

1977年7月27日生。大阪府出身の在日コリアン3世。朝鮮新報記者時代に社会、スポーツ、平壌での取材など幅広い分野で執筆。その後、編プロなどを経てフリーに。サッカー北朝鮮代表が2010年南アフリカW杯出場を決めたあと、代表チームと関係者を日本のメディアとして初めて平壌で取材することに成功し『Number』に寄稿。11年からは女子プロゴルフトーナメントの取材も開始し、日韓の女子プロと親交を深める。現在はJリーグ、ACL、代表戦と女子ゴルフを中心に週刊誌、専門誌、スポーツ専門サイトなど多媒体に執筆中。

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