なでしこジャパンに完勝したサッカー女子北朝鮮代表が強いワケとは!?~平壌現地取材で見えたもの~

なでしこジャパンに2-0で勝利した北朝鮮代表(写真:YUTAKA/アフロスポーツ)

 サッカー女子の東アジアE-1選手権の最終戦で、北朝鮮代表が日本代表に2-0で完封勝利し、大会3連覇を達成した。

 試合は終始、北朝鮮ペースで進んだ。後半20分にFWキム・ユンミの今大会4得点目となるゴールで先制すると、同37分にもMFリ・ヒャンシムが追加点を決めた。

 今大会は日本戦だけでなく、中国と韓国を相手にしてもパワー、スピード、スタミナ、フィジカルなど総合的な力は北朝鮮のほうが一枚上手だった。90分間、衰えない動きと勝利への貪欲さは、明らかに日本を上回っていた。

 特に今大会は、エースFWのキム・ユンミがきっちりと仕事をこなしたのは大きい。3試合4得点で大会得点王となったが、彼女は今年、平壌で開催された2018アジアカップ予選のグループB(4月3~11日)でも通算4得点を決めており、今大会でもゴールラッシュが期待されていた。

 それに最後まで集中力の切れない守備で、3試合無失点に抑えたことには、キム・グァンミン監督も満足しているに違いない。

 ただ、東アジアサッカー連盟会長で日本サッカー協会の田嶋幸三会長の「国際情勢、国連決議を踏まえて北朝鮮代表に賞金は支払われない」という発言から、優勝賞金は支払われないだろうが、大会3連覇という結果を残したことで東アジアでの面目を保った形だ。

参考記事:サッカー北朝鮮代表が獲得した賞金がミサイル開発に使われる可能性は!?~田嶋幸三会長の賞金未払い発言~

アジアナンバーワンに君臨した時代

 それにしても、なぜ女子の北朝鮮代表は強いのか。

 現在、北朝鮮のFIFAランキングは10位で、日本(6位)に次いで2番手。2010年に日本に抜かれて今に至るが、2005年以降は長らく北朝鮮がアジア最高位に君臨していた。

 実績はワールドカップ(W杯)には第3回大会の1999年から4大会連続で出場しており、第5回大会の2007年にはベスト8入りした。

 また、2008年の北京五輪と2012年のロンドン五輪に2大会連続で出場。アジアカップは2001年、2003年、2008年に3回制覇している。

 近年の結果を見てみると、ユース世代の成長が目覚ましい。特に2016年のU-17W杯の決勝戦で日本を下し、同年のU-20W杯の決勝でフランスを下して優勝している。アンダーカテゴリーの世代が1年に2度もW杯を制した結果を見ても、女子選手の育成にかなり力を入れていることがうかがえる。

 この大会が開催される前の11月、現在の女子北朝鮮代表チームを取材するため、平壌を訪れる機会があった。そこで出会ったキム・グァンミン監督に少し話を聞く機会があった。

平壌のメーデースタジアムで練習する女子北朝鮮代表(筆者撮影)
平壌のメーデースタジアムで練習する女子北朝鮮代表(筆者撮影)

次の目標は東京五輪出場

 キム監督は2005年から女子代表の指揮官に就任し、今年で13年目を迎えている。長期政権だが、国内では結果を残し続けているため“名将”とも呼ばれている。現役時代は代表選手としても名を馳せ、1992年の広島アジアカップで、カズやラモスがいた日本代表と対戦(1-1)しゴールを決めている。

 そんなキム監督はこの大会を前に、一抹の不安があったという。

「今回、東アジアE-1選手権に参加する代表チームの平均年齢は21歳。とても若い選手でチーム作りを進めているところです。昨年のU-20W杯を制した選手たちがほとんどですが、U-17W杯出場選手も1人入れています。ただ、A代表としての試合はほとんどが初めての選手たち。そこまで経験がない選手たちなので、どう転ぶかわからないという部分はあります」

 確かに今大会に挑んだ女子北朝鮮代表は、若い選手が主体でどのようにモチベーションを保つのかは一つの課題だったに違いない。

 というのも、今年の2018アジアカップ予選ではB組で韓国に1位を譲り、北朝鮮は2位で本大会を逃した。このアジアカップ本大会が2019年W杯の予選もかねた試合となるため、必然的にW杯出場の可能性は消えた。次の大きな国際大会は2020年の東京五輪になり、そこに向けてこれから新たなチーム作りを目指していくことになる。

 キム監督にとっては、メンバーも戦術もこれから作っていく段階で、どちらかといえばテストに近い状況だったのかもしれない。それでも試合をするからには負けられないのは当然で、きっちりと3勝して結果を残すところを見ると、ある程度チームの骨格が見えてきたのではないだろうか。

常に男子と同じメニューをこなす

 11月の平壌での取材日、女子代表は15万人が入るメーデー(5・1)スタジアムで練習をしていた。選手たちはゴール脇でアップしていたが、走り込みやステップワークでひたすら追い込んでいた。みんな真剣な眼差しだが、時折、士気を上げるために張り上げる声がスタジアム全体に響く。

 その後は、チーム全体のゲーム形式の練習をずっと続けていた。特に印象に残ったのは、キム・グァンミン監督がピッチ内で、細かい指示を送っていたことだ。一つひとつの連係に対して、ミスがあると止めて再度、プレーを再開する。選手たちの動きや理解度も早く、意思疎通のとれたパスワークを見るだけでも、日々のトレーニング、練習の成果を目の前で確認ができた。

練習中に細かい指示を送る女子北朝鮮代表のキム・グァンミン監督(筆者撮影)
練習中に細かい指示を送る女子北朝鮮代表のキム・グァンミン監督(筆者撮影)

 キム監督に女子選手をレベルアップさせるための秘訣はあるのかについて聞くと、笑いながらこう答えてくれた。

「男子と違い、女子の場合は細かい部分で指導法が変わってきますが、基本的には男子と同じトレーニングメニューをこなすようにしています。女子選手は男子選手よりも当然、体力的に劣る部分があるので、最初はついていくだけで精いっぱいです。練習がハードなときは、とても辛いはずです。ただ、それについて来られるようにならないと世界の頂点は見えてきません。これは私が監督になってから一貫して変えていないことです」

 男子と同じトレーニングを課し、ひたすらついてくるように鍛えるという。それこそ厳しいはずだが、そこについて来られない選手は、ピッチの上に立てない。90分間、衰えないスタミナは日々のハードな練習から養われていた。

女子のサッカー人口は男子と同等

 一方で、北朝鮮では女子サッカーが、すでに一般的な人気スポーツになっているというお国柄がある。キム監督も日本戦後に「母国では女子サッカーが大衆化されている」と語っていた。

 在日本朝鮮人蹴球協会理事長で朝鮮サッカー協会副書記長の李康弘氏もこんな話を聞かせてくれた。

「朝鮮では女子サッカーは特に人気スポーツで、サッカー人口がとても多いんです。すでに男子と同じくらいのサッカー人口が女子にもいます。女子はアジアカップも制覇していますし、子どもたちからすれば憧れや夢になります。たぶん、世界的に見ても女子がサッカーしている割合はかなり多いので、そこでパワーバランスが大きく変わってきますよね。国家プロジェクトの一つとして、女子サッカーにはかなり力を入れていますから、そこで成功すると、選手としての地位やステータスも大きく上がります。各地方の学校でも女子サッカーが盛んで、平壌国際サッカー学校(アカデミー)で学ぶ選手たちにはより英才教育を施していますから、育成年代はどんどん育っていますよ」

 女子サッカーの人口が男子と同等になってきているという国は、世界的にも類をみないだろう。今回のE-1選手権での北朝鮮の優勝は、決して偶然ではなく、着実な育成が実を結んだ形だ。

 女子北朝鮮代表をこの目で見るのは、3年後の2020年東京五輪になる可能性が高い。北朝鮮の着実な成長は、これからもなでしこジャパンの脅威となるに違いない。