Yahoo!ニュース

【タイ現地取材 其の2】来日間近のサッカー北朝鮮代表がマレーシアに2戦8発!~アジアカップ最終予選~

金明昱スポーツライター
マレーシア代表に2連勝した北朝鮮代表(写真・筆者撮影)

 2018年ロシア・ワールドカップ(W杯)アジア最終予選に進めなかった朝鮮民主主義人民共和国代表(以下、北朝鮮代表)が、10日と13日にタイ・ブリラムのi-mobileスタジアムで行われたアジアカップ2019最終予選でマレーシア代表との2連戦で勝利した。

 両日ともに4-1のスコアで北朝鮮代表が勝利。これで北朝鮮は2勝2分1敗の勝点8でB組2位となり、本大会出場へ大きく前進した。

B組の他の国は1位ヨルダン(勝点10)、3位香港(勝点5)、4位マレーシア(勝点1)となっている。

 10日の結果やタイでの開催経緯は、以下を参照していただきたい。

【タイ現地取材】サッカー北朝鮮代表のアジアカップ予選に密着!其の1

北朝鮮とマレーシアとの力の差は大きく、13日の試合も終始、北朝鮮代表のペースで試合が進んだ。

欠かせない海外組

 代表チームに欧州と日本のJリーグでプレーする選手は欠かせないようで、10日の試合に続いて海外組はスタメンで起用された。

 前線に長身FWパク・クァンリョン(オーストリア・SKNザンクトペルテン)を置き、サイドハーフにMFチョン・イルグァン(スイス・FCルツェルン)、Jリーグのカマタマーレ讃岐でプレーする在日選手のMF李栄直が背番号「10」で先発出場を果たした。

 海外組の経験値がチームにもたらす好影響については、外国人指揮官のヨルン・アンデルセンもよく理解しているようで、彼らを重宝しているのがよくわかる。

FWパク・クァンリョンの1対1のシーン(筆者撮影)
FWパク・クァンリョンの1対1のシーン(筆者撮影)

 フォーメーションは前回と同じ4-4-2。サイドバックのオーバーラップはあまり活用しないラインを引いたオーソドックスな4バックの守備。

 MF李栄直がゲームの緩急をつけるボールさばきで、ボランチの役割を果たしていた。身長187センチの長身を生かした守備での貢献度も高く、「代表チームではより多くの役割を任せられているので、攻守の切り替えでしっかりと頭を使わないといけない」(李)と、ヨルン・アンデルセン監督からの信頼の厚さもうかがえる。

「セットプレーが得意」

 先制したのは北朝鮮。前半14分に左CKからFWキム・ユソンがヘディングでゴール。その5分後の19分にも右CKから再びキム・ユソンが2点目を決めた。

 早い時間からの得点で流れをつかんだ北朝鮮は、44分にも右サイドからのセンタリングをまたもやキム・ユソンが決めてハットトリックを達成。

試合観戦は入場無料。バックスタンドにはタイ人の観戦客が300人ほどいた(筆者撮影)
試合観戦は入場無料。バックスタンドにはタイ人の観戦客が300人ほどいた(筆者撮影)

 3-0で前半を折り返すと、後半に入っても北朝鮮のペースは変わらず、78分にパク・クァンリョンが追加点を決めた。

 10日の試合でもセットプレーからの得点があったが、李によれば「朝鮮代表はセットプレーは得意」だという。

 もちろん、セットプレーだけでなく、素早いカウンターから流れのなかで得点する形も作ることができていたが、ある程度、ボールを持たせてくれた格下のマレーシアだからこそのゴールラッシュだった。

凡ミスからの失点が課題か

 だが、これで終わらなかった。北朝鮮代表の課題とも言えるのが、凡ミスからの失点だ。4点リードで少し余裕と疲れが出て気が緩んだのか、84分にマレーシアに得点を許してしまう。

マレーシアのサポーター「ULTRAS MALAYA」が敗れた選手たちに激励の歌を歌っていた(筆者撮影)
マレーシアのサポーター「ULTRAS MALAYA」が敗れた選手たちに激励の歌を歌っていた(筆者撮影)

 10日の試合でも1失点しているが、終盤で集中力が切れるとプレーの質が落ちてくるのが目立つ。平凡なミスからピンチを招くシーンがたびたび見られ、アンデルセン監督が大声で指示を出す姿も一度や二度ではなかった。

 ペース配分や試合終了間際の時間の使い方などは、やはりまだまだ国際試合での経験値の少なさを感じざるを得なかった。

 課題は集中力が切れる後半戦終盤で、どれだけ自分たちの形を崩さずにプレーできるのかがカギとなるだろう。

キム・ユソンとU-19日本代表

 ただ、収穫もあった。ハットトリックをした国内でプレーするキム・ユソンの活躍だ。12月の東アジアE-1選手権では北朝鮮代表メンバーとして必ず来日するだろうが、一体、キム・ユソンとは何者なのか。

13日のマレーシア戦でハットトリックを決めたキム・ユソン(筆者撮影)
13日のマレーシア戦でハットトリックを決めたキム・ユソン(筆者撮影)

 彼は北朝鮮では各年代別代表に選ばれているエリートで、国際試合経験も豊富。実は日本代表ともゆかりがある。

 2014年のAFC U-19選手権の準々決勝で、北朝鮮代表と日本代表が対戦しており、そのときのメンバーにキム・ユソンがいた。

 当時のU-19日本代表だった、井手口陽介(ガンバ大阪)や南野拓実(ザルツブルク)などが出場。試合は1-1のまま延長戦へ突入し、PK戦で北朝鮮が勝利。12月の東アジアE-1選手権でキムと井手口が、再びマッチアップする姿が見られる確率は高い。

 ちなみにキムは、マレーシアとの2戦目でハットトリックをし「マン・オブ・ザ・マッチ」に選ばれ、試合後の会見で「とても重要な試合でチームメイトの力もあって、ゴールを決めることができてうれしい」と語っていた。

 ヨルン・アンデルセン監督も「2試合とも4点を取って、勝点6を積み上げられたことはうれしいし、とても満足している」と笑顔を見せていた。

2連勝の結果に満足していたアンデルセン監督(筆者撮影)
2連勝の結果に満足していたアンデルセン監督(筆者撮影)

在日Jリーガー、李栄直への信頼度

 そして、今や代表チームの主力に成長した李栄直の奮闘ぶりが、ともて際立つ試合でもあった。日本で生まれ育った彼が、北朝鮮選手たちに受け入れられ、チームの中核を担い、アンデルセン監督からも信頼されていることがよく分かった。

「試合は内容も大事ですが、マレーシアとの2連戦はまずは勝つことが大事だったので、2連勝できたことには満足しています。今では監督やスタッフ、選手たちの期待に応えられているという実感がありますし、とても充実しています。監督の要望にもしっかりと応えられるようになってきたと思います」(李)

 李は日本に戻ったあと、J2リーグの最終戦が控えている。そのあとは12月に日本で開催される東アジアE-1選手権で、北朝鮮代表として出場する予定だ。

J2讃岐でプレーする李栄直。12月に日本で開催される東アジア選手権を楽しみにしている(筆者撮影)
J2讃岐でプレーする李栄直。12月に日本で開催される東アジア選手権を楽しみにしている(筆者撮影)

 本大会までまだ時間はあるが、「マレーシアに立て続けに勝利したことで、東アジア選手権に向けて大きな弾みになったと思います」と日本、韓国、中国との対戦を楽しみにしている。

 かつて東アジアでは力のあった北朝鮮だが、FIFAランキングを見てもわかる通り、近年は日本(44位)、韓国(62位)、中国(57位)の3カ国と北朝鮮(132位)の力の差は、大きく開き始めている。

 それでも北朝鮮はマレーシアとの2連勝を大きな弾みにして、12月に日本に乗り込んでくる。日本、韓国、中国を相手に一泡吹かせることができるだろうか、引き続き注目していきたい。

スポーツライター

1977年7月27日生。大阪府出身の在日コリアン3世。朝鮮新報記者時代に社会、スポーツ、平壌での取材など幅広い分野で執筆。その後、編プロなどを経てフリーに。サッカー北朝鮮代表が2010年南アフリカW杯出場を決めたあと、代表チームと関係者を日本のメディアとして初めて平壌で取材することに成功し『Number』に寄稿。11年からは女子プロゴルフトーナメントの取材も開始し、日韓の女子プロと親交を深める。現在はJリーグ、ACL、代表戦と女子ゴルフを中心に週刊誌、専門誌、スポーツ専門サイトなど多媒体に執筆中。

金明昱の最近の記事