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北朝鮮選手がインスタグラムを使用!?カリアリ所属の18歳FWハン・グァンソンはイタリア生活を満喫中

金明昱スポーツライター
チームメイトと食事の様子(ハン・グァンソンのインスタグラムより)

連日、テレビのワイドショーや報道番組で“北朝鮮”という文字を見ない日はない。

物々しい映像や発言ばかりが目立ち、今にも暴発しそうな国家というイメージが増幅し始めているが、少し目線をずらせば、また違う北朝鮮の姿が見えてくる。

今回は日本ではまったく報じられない政治とは無関係のサッカーの話題を一つ。

以前、今季のイタリア・セリエAで初ゴールを決めた朝鮮民主主義人民共和国(以下、北朝鮮)選手であるハン・グァンソンの記事をまとめた。

(参考:セリエA初ゴール!北朝鮮の新星ハン・グァンソンはバルセロナのサッカーアカデミーにいた!?

ハンはカリアリに所属する北朝鮮の18歳FWで、今年3月10日にカリアリに加入。4月2日に行われた第30節パレルモ戦に出場したことで、セリエAの公式戦でプレーした初めての北朝鮮人選手として話題になった。

さらに4月9日に行われたセリエA第31節のトリノ戦では、81分から交代出場してアディショナルタイムに左からのクロスにヘディングで合わせて、セリエA初ゴールを記録した。

その彼がなんと、SNSのインスタグラムを使ってイタリア生活の様子を伝えているのだ。これまで北朝鮮のサッカー選手を何度も取材してきた立場からしても、これには正直驚いた。

チームメイトと食事を楽しむ姿

彼のインスタグラムを開いてみると、海辺でサングラスをかけたハン・グァンソンのメイン写真が目に留まる。

まだ投稿は20件しかないが、フォロワーも徐々に増えていて、現在は約2900人。

写真にはカリアリでの練習風景のほか、チームメイトと食事を楽しむ姿、周囲に感化されたのかは分からないがサングラスをかけてカメラに収まる姿も見られる。

特筆すべきは応援のコメントだ。地元のイタリア人からのコメントだけでなく、特に韓国からのコメント投稿が並ぶ。その内容は応援メッセージであふれていた。

「セリエAのファンであり、韓民族としてハン・グァンソン選手を心から応援しています!」

「北朝鮮の選手だけれど、いつも韓国選手と同じように応援しています!有名な選手になってください。多くの韓国サッカーファンが期待しています」

「いつか南北が統一したらソン・フンミン(トッテナム)とのツートップが見てみたい!」

期待あふれるコメントを受け、ハン・グァンソンはさらに結果を残さなければならないと自覚していることだろう。

練習風景や機内でのようすなどもアップしている(インスタグラムより)
練習風景や機内でのようすなどもアップしている(インスタグラムより)

それにしてもだ。北朝鮮出身の選手がイタリアでプレーし、インスタグラムを使って普段の様子を発信する姿は、ここ日本では物珍しく映る。

それは連日報じられている北朝鮮関連ニュースのイメージとはあまりにもかけ離れているからだ。

だが、実際のところ、北朝鮮ではスマートフォンは広く普及しているし、テレビではワールドカップや欧州チャンピオンズリーグも放送されている。サッカー選手は欧州のサッカー事情にも詳しい。

2013年からジュニア育成改革

過去に何度か北朝鮮選手に日本のサッカー雑誌を数冊見せたことがあるが、ある選手に「なぜ日本代表の選手たちが表紙なんですか?世界的に有名なのですか?欧州の選手でない理由は?」と聞かれて、苦笑いしてしまった。

それくらい北朝鮮サッカー選手にとって欧州サッカーは馴染みのあるものであり、目指す場所は欧州なのだ。

それに北朝鮮サッカー界は2013年から大きな改革に動いており、2020年カタールW杯まで見据えた強化を始めている。

13年10月からスペイン・バルセロナの養成団体『フンダシオン・マルセ』で10~11歳の14人の北朝鮮選手が1年間、留学した。さらにイタリア・ペルージャにある『イタリア・サッカー・マネジメント』と契約を結び、トレーニングを行った。そこで学んだ一人がハン・グァンソンだった。

現在の北朝鮮代表監督は昨年5月に就任した元ノルウェー代表のヨルン・アンデルセンで、同協会は25年ぶりに外国人監督を招へいしている。

当時、在日本朝鮮蹴球協会理事長で朝鮮サッカー協会副書記長の李康弘氏は「10年後には欧州でレベルアップした選手たちの中から、代表になるプレーヤーが出てこないといけない。ジュニア世代が国際舞台に登場するのは、20年東京五輪、22年カタールW杯あたりでしょう。目の前の大会よりも、より長期的な目で見ています」と語っていた。

4年前の話ではあるが、李氏の言葉通り、確かに欧州で育った選手が表舞台に姿を現し始めている。

いずれにしても、ハン・グァンソンはどこにでもいる10代の若者らしい。

スマホやアプリの使い方もお手の物。彼のインスタグラムが世界のサッカーファンとの交流の窓口となり、北朝鮮のイメージ向上に一役買っているのは間違いない。

スポーツライター

1977年7月27日生。大阪府出身の在日コリアン3世。朝鮮新報記者時代に社会、スポーツ、平壌での取材など幅広い分野で執筆。その後、編プロなどを経てフリーに。サッカー北朝鮮代表が2010年南アフリカW杯出場を決めたあと、代表チームと関係者を日本のメディアとして初めて平壌で取材することに成功し『Number』に寄稿。11年からは女子プロゴルフトーナメントの取材も開始し、日韓の女子プロと親交を深める。現在はJリーグ、ACL、代表戦と女子ゴルフを中心に週刊誌、専門誌、スポーツ専門サイトなど多媒体に執筆中。

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