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ジャニーズにもいろんな子がいるんです17歳で過激な問題作に挑む北川拓実(少年忍者/ジャニーズJr.)

木俣冬フリーライター/インタビュアー/ノベライズ職人
「火の顔」に大抜擢された北川拓実  (c)深作組 MAパブリッシング

ジャニーズJr.のユニット少年忍者のひとり北川拓実さんが単独で舞台初主演。深作健太さん演出のドイツの戯曲『火の顔』で、爆弾づくりにハマる少年役に大抜擢されました。主人公は、父母と姉と四人の平凡な家庭に育ちながら、次第に大人や社会にがんじがらめになって反抗心をつのらせ、爆弾で世界を変えようと考えます。この役の心裡を17歳の北川さんはどう感じているのでしょうか。

17歳、ジャニーズJr.の大挑戦

――お芝居するのがはじめてだそうですね。

「ジャニーズの舞台には立っていますが、歌やダンスがメインで、演技はほとんどやったこことがなかったです。帝劇(帝国劇場)に出たときもバックで踊っていただけなので……。いつかお芝居もやってみたいと思っていたところ、今回、こういう機会をいただけて、最初は演劇経験のない僕でいいの? と驚きましたが、嬉しいし、光栄です」

――お芝居を見たことはありますか

「ジャニーズの先輩の舞台は見ていますが、ほかのものはあまり見てなかったです。今回、勉強を兼ねて、演出家の深作健太さんと一緒に藤原竜也さんと柄本明さんの『てにあまる』や吉田鋼太郎さんと柿澤勇人さんの『探偵〜スルース〜』を見に行きました。歌も踊りもなくても2時間芝居だけで成立することに驚きました。『てにあまる』はマイクも使わずにセリフを聞かせるのがすごかったし、『スルース』はたった2人でこんなにも迫力が出るのだと圧倒されました。今回の『火の顔』もまさに芝居だけの2時間ですし、僕にとってマイクを使わないはじめての舞台になります」

――『火の顔』はかなり過激な内容ですけれど、オファーが来たときどう思いましたか。

「まず、出演のお話をいただいて、台本を読んで、あーっ……と思いました(笑)。場面、場面で驚くことばかりで、刺激が強い作品です。まず、主人公のクルトは火に興味を持っていて、そこから爆弾づくりにハマっていきます。思春期、反抗期まっさかりで、最初は親にあたり、世界に対して、世界の人間に反抗して、姉や姉の恋人、母との関係にも常識を逸脱していきます。ベッドシーンや殺人など、ジャニーズの先輩の舞台では見たことのないものばかりで、これをやったらこわいものはないよと言われましたが、ほんとうにそうだと思います」

ジャニーズのイメージって……

ジャニーズといえばキラキラ輝くスターのイメージだが、ごく稀に人の暗部を演じることがある。例えば、岡本健一がシェイクスピア劇『タイタス・アンドロニカス』で殺戮にまみれた奴隷を演じたり、二宮和也が映画『青の炎』で未成年の殺人犯を演じたり、森田剛が映画『ヒメノアール』で猟奇的殺人犯を演じたり、横山裕が松尾スズキ脚本の舞台『マシーン日記』で兄の妻と不倫関係にある男を演じたり……と汚れ役に挑むことはある。だがそれは世間的認知度が十分確立されてからのトライであって、17歳のジャニーズJr.のひとりが文学性の高い問題作に挑むことは珍しい。

「十代でここまで過激な作品に挑むのは、僕くらいかもしれません。先陣を切る気持ちで頑張りたいと思っています。まずは、クルトにしっかりなりきろう、台本読み込んでクルトをよく知ろうとしていますが、まだまだ全然なりきれないので、もっと稽古をしたいです。稽古は3月1日からはじまって10日間くらいやっています。最初の本読みからは進歩したと思いますが、まだまだです」

――クルトのような反抗期は共感できますか。

「ないです。まわりからは、親がむかつくとかやだとかって話を聞きますが、僕はそういうのがなくて、クルトのように親にあたったことはないです。毎日稽古しながら、“反抗期”とはこういうものなのかと知りました(笑)。稽古で、深作さんが、それぞれの“傷”を意識して……と言われたので、それを意識したいと思っています」

――思春期は?

「思春期というと、恋愛?(笑)」

――恋愛の話はできないですよね。

「小学校のときには気になる子はいましたけれど、中学1年くらいから事務所に入ったので、お仕事のこと以外は考えられなくなってしまいました」

――深作さんの演出はいかがですか。

「最初、稽古で怒られるかなと思っていたのですが、深作さん、めっちゃ優しくてホッとしました。僕、怒られると固まっちゃうんで……」

――怒られる場もありますか。

「ジャニーズの振付師のかたは厳しいです。振りを間違えると、この曲には出さないぞって言われたりしますので必死です」

大人と子ども、どっちがいい?

――北川さんはとても感じ良くて、稽古で演じていたクルトとは喋り方は全然違って明るいですけど、例えば、こうして見知らぬ人に話を聞かれて、本当は僕の気持ちなんか知らないくせにーなんて思ったりしませんか(笑)

「(笑)。人には言わず、心のなかに秘める気持ちはわかります。僕はどちらかというと心に溜めるほうですね。例えば、なにか問題があったとき、クルトの場合は、家族や社会への不満を爆弾に託して晴らそうとしますが、僕は誰かに言っても仕方ないというか、自分のなかで時間をかけて熟成していくしかないと思うほうです。クルトも最初はふつうの少年だったけれど、話がすすむにつれて、危険な思想を抱くようになって、ある瞬間、豹変し、自分のなかで秘めているものを吐き出します。クルトのやっていることは危険なことですが、演じる分には、楽しいです。マイクを使って演説するような場面では、思っていることを全部吐き出す開放感があります。十代の少年の気持ちを、十代の僕がやるからより伝わるんじゃないかと思いますが、その分、責任は重いですね。ご覧になるかたで、僕のファンでいてくださるかたにとっては、ふだんの僕とは違う役で、ちょっとこわいかもしれませんが、何かを考えるきっかけになる作品だと思います。ふだんは触れることのできない、いろいろな問題が散りばめられていますので、この舞台を見て、考えるきっかけをつかんでほしいし、そのためにもしっかりやりたいです」

――世の中のいろいろな問題が解決しないのは、大人のせいだとは思わないですか。

「一口に、大人と言っても、いろんな性格の人がいますし、一部のひとを責めてもしょうがないと思います。結局、異なる意見をもった者同士、協力するしかない。それでもいいと思う人、それはいやだと思う人、みんなで意見を分かち合うしかないと思います。僕はそういうふうに思って生きていますが、『火の顔』のクルトの場合は、なんとか世の中を変えようとして独裁的になってしまうんです」

――北川さんはクルトのようにはならない。

「ならないです(笑)。気持ちはわからなくはないけれど、行き過ぎだし、かなりイタいやつだって思います。現実にいたら絶対引かれますよ。反抗期はいずれ終わるものなんですよ。時間がすべて解決してくれて、大人になったら親の気持ちもわかるようになるものだけれど、クルトは待てなかったんですね。とにかく、時間なんですよ、時間」

――ものすごく冷静に客観視していますね。これまでの北川さんは、北川拓実としてステージに立って来たわけですが、今回は、そういう冷静な北川さんとは真逆の役を演じます。それをどう思いますか。

「不思議な感じですよね。ふだんは北川拓実として活動し、舞台では、クルトとして独裁者のようになるのは。それが演劇なんだって、改めてお芝居に興味を持ちました」

――今、自分は大人と思います?

「全然、子どもです」

――大人と子ども、どっちがいいですか。

「大人にはなりたくないです。昔は大人のほうが自由だと思っていました。学校から解放されて、好きなことができて、めっちゃ自由そうだなあって。でも、今になってみれば、義務教育を受けているときのほうが自由な気がします。子どもは一見縛られているようで、子どものときのほうが遊べたし、好きなことができますよね」

――将来、どうなりたいと思っていますか。それこそ、てっぺんにいきたいみたいな思いはありますか。

「僕は、自信があまりないほうで。高みを目指すことは大事だけれど、トップというかセンターに立つ器ではまだないかあと思っています。少年忍者って22人もいて、ジャニーズのなかでも大所帯なんです。そのなかにはセンターめざしている子もいるし、控えめな子もいるし、おもしろいことが得意な子もいます。僕はそのなかでは控えめなほうで、今、目の前のことをがんばって積み上げていこうと思いながらやっています。今回の舞台も、これを今後の確かな土台にしたいです。歌が好きなので、いずれはミュージカルもやってみたいです。ミュージカルも歌だけでなく、芝居が大事ですから、今回の体験は確実に生かせると思うんです」

演出の深作健太さんは、北川さんについてこのように語った。

「一目惚れでした(笑)。まっすぐ話を聞いてくれる人で、そこに惚れちゃって。いっしょに芝居づくりの時間を過ごしたいと思ったんですよ。英才教育のように『てにあまる』や『スルース』を見に行きました。彼にとっての初舞台は生涯一回だけだから、責任重大ですが、彼の可能性に賭けています。毎日、稽古が楽しくて仕方ありません」

映画監督としても活動する深作さんはこの舞台「火の顔」を、この作品が上演したく演劇の演出家になったというほど、のめり込んでいる。

いま僕たちの世界を覆う〈孤独〉と〈分断〉。そして〈同調圧力〉……。この戯曲で描かれている十代の〈閉塞感〉は、書かれた当時のドイツよりもむしろ現代日本の方が伝わることが多いでしょう。僕が作りたいのは、闇を照らし出す〈火〉、触れる人がヤケドする、危険な〈火〉。――すべてを焼き尽くし、浄化する〈炎〉であれ。これは〈誕生〉の物語です。そして僕たちが、新たに生まれ変わるための〈演劇〉なのです。

(宣伝チラシより一部抜粋)

これほど大事な作品の主人公に演技素人の少年を抜擢した。でもそれだけ北川拓実に賭けているということになる。筆者も今回がはじめての北川さんの取材。深作さんの言うとおりまっすぐ話を聞き、素直に反応する人だった。稽古を見学させてもらったら、深作さんがこれまでやった演技のチェックをしはじめたとき、舞台のセットのうえにいた北川さんは、台本がそばになく、きょろきょろと探し始めるなど、反応がダイレクト。稽古が終わって、取材をはじめるときの声や表情は、思いつめた演技とはまったく違っていた。ジャニーズのレジェンドな先輩たちとは接する機会もなく、もともと、なんとなくこの世界に入ってしまったのだという。舞台も映画もあまり見ない。アニメの「天気の子」が好き。演じる役とほんとうに真逆な屈託のなさ。だからこそ、物語を素直に理解して、最大限に表現できるのではないだろうか。初舞台で少年は何を発見するかーー。

プロフィール

Takumi KITAGAWA

2004年2月28日、埼玉県生まれ。中学生のときにジャニーズ事務所に入る。ジャニーズJr、少年忍者の一員。

火の顔

作:マリウス・フォン・マイエンブルグ

翻訳・ドラマトゥルク:大川珠季

演出:深作健太

出演:北川拓実(少年忍者/ジャニーズJr.)   

納谷健/直江幹太(Wキャスト)   

大浦千佳/小林風花  

中野英樹 

比企理恵

2021年3月25日(木)〜29日(月)吉祥寺シアター

「火の顔」より (c)深作組 MAパブリッシング
「火の顔」より (c)深作組 MAパブリッシング

フリーライター/インタビュアー/ノベライズ職人

角川書店(現KADOKAWA)で書籍編集、TBSドラマのウェブディレクター、映画や演劇のパンフレット編集などの経験を生かし、ドラマ、映画、演劇、アニメ、漫画など文化、芸術、娯楽に関する原稿、ノベライズなどを手がける。日本ペンクラブ会員。 著書『ネットと朝ドラ』『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズ・ルポルタージュ』、ノベライズ『連続テレビ小説 なつぞら』『小説嵐電』『ちょっと思い出しただけ』『大河ドラマ どうする家康』ほか、『堤幸彦  堤っ』『庵野秀明のフタリシバイ』『蜷川幸雄 身体的物語論』の企画構成、『宮村優子 アスカライソジ」構成などがある

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