米津玄師、野木亜紀子…「MIU404」と「アンナチュラル」の繋がり。制作者が語るヒットドラマの裏話

MIU404より 写真提供:TBS

綾野剛、星野源主演のドラマ「MIU404」(TBS 系 毎週金よる10時~)が好評放送中。2年前に現在のコロナ禍を予言したと話題のドラマ「アンナチュラル」(18)の脚本家・野木亜紀子、演出家・塚原あゆ子、プロデューサー・新井順子が再びタッグを組み、主題歌・米津玄師まで座組が同じということで面白さの折り紙付きである。「アンナチュラル」をはじめとして、イヤミスの旗手・湊かなえ小説のドラマ化や「わたし、定時で帰ります。」などのお仕事ものなど人気ドラマを続々手掛ける新井は、先日再放送されて四半世紀を越えても人気の高さを証明した「愛していると言ってくれ」の名プロデューサー貴島誠一郎に抜擢された貴島チルドレンのひとり。「昼の帯ドラマ 愛の劇場」、「3年B組金八先生」、「日曜劇場」等の人気枠でTBSドラマの基本を学び、昨今少ないオリジナルドラマをヒットさせ、活躍している。二十代でプロデューサーになることはなかなかないドラマ業界で異例の活躍をする新井の仕事の秘密を、貴島チルドレンの先輩にして「アンナチュラル」で共同プロデューサー植田博樹が現場視点であぶり出す。ドラマのTBS レジェンド列伝第2回

第一回はコチラ常盤貴子と豊川悦司の設定は当初逆だった。名プロデューサーが明かす「愛していると言ってくれ」制作秘話

MIU404より 写真提供:TBS
MIU404より 写真提供:TBS

●感染症、あおり運転、時代をビビッドに切り取る

植田博樹(以下 植田):現在放送中の「MIU404」の撮影がコロナで4、5月の間、止まったとき、現場の総指揮者としてはどんな気持ちでしたか。

新井順子(以下 新井):放送できるのか、このまま現場を解散しないといけないのか、先が見えない感じがずっと続きました。編成の方とも毎日のようにやりとりをしていました。撮影が再開してからも、日々刻々と状況が変わるので、いまだになかなか不安な日々ではあります。

植田:「アンナチュラル」のときもストレスで「胃が痛い」「腰が痛い」とよく言っていました。今回も胃が痛くなりましたか。

新井:胃が痛くなった感じはあります。でも、「MIU404」が続けられたのは、役者さんがスケジュールを調整してくれたからです。それでようやく「やれるんだ」という希望が見えました。

植田:3ヶ月間、延ばしてもらったんですか。

新井:2カ月です。だから本数は微減しましたが、最低限のやりたいことはやれるなと。本数が半分になる可能性もなくはなかったんです。その時点ですでに6話まで脚本があって4話の途中まで撮っていたので、ここでもし本数が激減したら、どうしたらいいかと頭を抱えました。また、制作、放送が延期となった場合、今しかやれないことを描いているから内容が古びてしまう。といってお蔵入りにはしたくない。何が正しいか迷いに迷い、1人で悶々としていました。今しかやれないこととは、1話で言うと「あおり運転」です。去年からずっと注目されていて、6月30日に施行された改正道路交通法によってあおり運転の取締が厳しくなりました。これを数年後に放送したら、過去の話になってしまうかもしれない。ほかにも今後、現代的な社会問題を扱ったエピソードを準備していて、それが数年後でも普遍的である保証はないですから。

植田:「アンナチュラル」の1話で感染症を扱いましたよね。PCR検査法にも言及したし、ウイルスの研究所から漏れたのかもしれないという説も描いた。あのエピソードと現実ののリンクをどう感じましたか?

新井:1話でやったことが、今、現実に起きていて、その既視感は怖いほどで、野木さんの先見の明はすごいと思いました。

植田:他人事みたいに(笑)。

新井:一緒に作ったとはいえ、具体的な部分は野木さんが考えたものですから。コロナ以降、この質問をよくされるのですが、どう答えていいのやらで……。植田さんだったらどう答えます? 

植田:コロナ禍で、1話ばかりが今、目立っているけれど、それ以外のエピソードもほとんど現実とリンクした、“今、そこにある出来事”でした。それは、新井さんと塚原さんと野木さんがすごく取材をして、今、ドラマで何をやるべきか熱心に話し合って粘った結果だと僕は思います。取材して得た膨大なネタのなかから新井さんと野木さんが台本づくりの時にシャープに切り取っていたんですよ。1話に関してエピソードの候補は3つぐらいあって、そのなかに感染症もありました。打ち合わせで僕が「GOOD LUCK!!」の時にSARSが流行して、海外ロケをすることに全日空もナーバスになっていたという話をしたんですよね。三か月早撮りだったので、「アンナチュラル」の1話でMARSのエピソードにした場合、放送時期にMARSやSARSで一人でも死者が出たら放送が飛ぶかもしれないという危惧もありました。「MIU404」の“あおり運転”と同じく、「アンナチュラル」でも野木さんは“今”の話にすごくこだわっていて、その中で、新井さんと塚原さんが、感染症は「皮膚感覚的に怖いよね」と1話の題材に選んだ。新井さん、塚原さん、野木さんの作品の特性は、皮膚感覚を大事にしていることだと感じます。

新井:そう言っていただけると嬉しいです。でも、「アンナチュラル」チームと言い過ぎるのも良くないのかな?とたまに思うことがあります。

植田:キーマン3人一緒じゃないですか。

新井:3人は一緒だし、劇伴の音楽家も主題歌も一緒だからそう言われますが。でも植田さんもいないし、アンナチュラルをやっていないスタッフもいます。全スタッフが同じメンバーというのは無理なんですけど。でも、「アンナチュラル」精神を受け継いでやっています。だから、「アンナチュラル」チームでいいんですかね(笑)。今回の「MIU404」は結構派手にやっていまして。果敢にカーアクションにも挑んでいます。主題歌も「アンナチュラルと全然テイストを変えましょう」と言って作って頂きました。「アンナチュラル」は心情を丁寧に磨きこんで、死に対する想いも丁寧に描きました。そこに「Lemon」がかかることで真に迫るのですが「MIU404」の1話ではゲストの心情の吐露をあえて描いていないんです。

植田:エンタメに徹した?

新井:そうなんです。「アンナチュラル」は「アンナチュラル」の良さがあり、「MIU404」は「MIU404」の良さがあります。どちらも大切な作品です。でも、「MIU404」と「アンナチュラル」の世界は繋がっていて、UDIメンバーはどこかで生きていると思っています。なので、3話でも毛利刑事と向島刑事に登場してもらいました。西武蔵野署の捜査協力依頼を受けて、4機捜メンバーが捜査に乗り出します。

●台本の精度よりも感情を重視する

植田:僕は「アンナチュラル」で新井さんと共同プロデュースをして、新井さんの脚本づくりに対するこだわりの強さにものすごく感銘を受けたんです。初稿のあのセリフは生かしたいですとか、第2稿のあのセリフは生かしたいですとか、そういう全部の台本を頭の中に入れていて。それは台本を一回読んだら全部頭の中に入っていくんですか?

新井:学生の頃から記憶力はいいほうです。

植田:その割には漢字や人の名前は覚えないですよね(笑)。

新井:そうなんです。熟語の意味が覚えられなかったりはするんですけど(笑)。

植田:ある種の天才なんだね、やっぱり。

新井:ドラマのフレーズなどはよく覚えていて。野木亜紀子さんにも「これと似たようなことを『相棒』で言っていました」「昨日放送した『◯◯~』で言っていましたよ」みたいなことはよく言っています。

植田:塚原さんと新井さんは、台本の読み込みがすごく深いと思いました。「アンナチュラル」の台本直しもすごく的確で、正直、僕はいなくても全然よかった(笑)。

新井:植田さんは事件(のトリック)担当だったじゃないですか。私は感情担当でした。

植田:「アンナチュラル」は事件ものだから僕はトリックの精度にこだわってしまうのですが、新井さんは台本の構成の完成度よりも、台本がもたらす感情をすごく大事にするんですよね。「これは泣けない」とか「これは胸に来ない」とか。新井さんは朝まで打ち合わせしてくたくたになっている野木亜紀子さんになおも「ここをこうしてほしい」とずっと言っていました。

新井:「アンナチュラル」では打ち合わせが朝になることがものすごく多かったですよね。

植田「いや。それ、あなたのせいだから(笑)」

●主題歌にこだわる

植田:最後にキーになるボールの魚の形のことだけでも3時間ぐらい話しましたね。僕からしてみれば、野木さんは「逃げ恥」を当てた作家だから立てなきゃいけないとちょっと思っていたのだけれど、新井さんは新人やベテラン別け隔てなく意見を言っていた。もちろん、野木さんも当てた作家という傲慢な態度ではないんですよ。だけど普通は周りが気後れしちゃう。だけど新井さんには気後れがない。ビシビシ追い込んでいく。そうやって粘ってできた「アンナチュラル」のダイジェストが流れると、たいてい新井さんのこだわった部分が切り取られていて、チーフプロデューサーとして本当に素晴らしい仕事をしているなあと思ったんです。脚本のみならず、主題歌にもすごくこだわりますよね。よく何十回もリテイクしているとか……。

新井:毎回そういうわけじゃないですよ。

植田: 1回でもそういうことがあったらすごいですよ。イントロがこうとかサビがこうとかリクエストするんですか。

新井:アーティストさんによっては3曲ぐらい案をだしてくださる方もいます。それを聞いて「この中にはないですね」とざっくり言うくらいですよ。

植田:自分の中で、明確にイメージがあるんですね。

新井:「夜行観覧車」の時、「メインテーマが違う」と言い続けて、MAの3日前ぐらいの夜中の1時に音楽家さんに緑山スタジオまで来てもらって。そこでいろんなサントラを流して「この34秒から40秒ぐらいの間の感じ」などと必死に伝えて。おかげさまですごくいい曲が上がりました。人は追い詰められるといい曲が書けるものなのでしょうか。

植田:「アンナチュラル」の主題歌「Lemon」の時もデモを聞いて、「この曲じゃ泣けない。今すぐ修正をお願いに行きましょう」と事務所にアポを取ってそのまま駆け込んだ記憶があります。お正月にも連絡を取り合ったのではなかったでしたっけ? そこでアレンジの案を聞かせてもらってようやく納得していましたよね。

新井:デモだとよくわからなかったのですが、アレンジの具体的な案を出していただいて。だったら大丈夫だと安心した記憶があります。

植田:何ものにも妥協しない、すごいこだわりのプロデューサーだなと思いますよ。

新井:「Lemon」はタイミングがよかったんですよ。初めて米津さんがテレビドラマの主題歌を手掛けたということと、米津さん自身、おじいさまが亡くなったことがあの曲を作るうえで大きな影響があったこと。そういう様々なことが重なったところにさらにそれを生かすような演出があって。何よりもいい曲だったっていうところが一番でしょうけれど。それと、「Lemon」は植田さんがいなかったら生まれてないです。米津さんを最初にプッシュした方ですから。

植田:横浜まで米津さんのライブに行きましたね。

新井:ライブでの主題歌の解禁を聞いて、お客さんがわあっ!て盛り上がった。「今回(MIU404)も、前のようにやりたいな」と思っていたら、コロナでライブがなくなってしまって……。

植田:残念でしたね……。新井さんはセリフだけでなく音楽も頭の中に入っていますか。

新井:私、イントロドンやったら絶対負けないっていう自信があります(笑)。ドラマを視聴者として見ていた時に、曲の力はすごいと思っていたんです。これが流れれば自然と泣けるみたいなパワーがある。サントラも、バラエティーなどで流れると、ドラマを見ていた時の気分が思い出せますよね。私のiPodには「ドラマ主題歌」と「サントラ」というプレイリストがあって、1990年代から好きな曲が入っているんです。それらをお聞かせしながら音楽打ち合わせをよくやっています。

植田:「L×I×V×E」の主題歌を新井さんがカラオケで歌った時に、びっくりしました。よく知っているなって。

新井:「ShootingStar」ですよね。あれはかなり印象的でした。

●これだけこだわる人もなかなかいない

植田:「アンナチュラル」は賞もたくさん獲ったけれど、撮り終わってからのブームだったじゃないですか。後処理やりながらMAルームで、監督と僕たちふたりしかいないから、「これ、盛り上がっているのかな」と半信半疑でしたよね。

新井:わからないけれどとにかく進もうみたいな感じでしたね。

植田:新井さんはロケに帯同して、そのつど、キャラクターのイメージを徹底する。例えば、前髪下ろす、下さない一つで、すごく話し合いますよね。あれも昔からですか。

新井:そうかもしれないです。衣裳もリハーサル後に着替えてもらうこともありますし、やっぱり見た目は大事であることは感じています。

植田:ロケにずっと立ち会っていると、塚原さんが芝居を付けながら、ふっと新井さんの顔を見て、顔がちょっと曇ったりしたら、すぐに新井さんに「どう?」と聞く。その二人三脚ぶりが素晴らしいと思いました。これだけ内容にコミットするプロデューサーって、石丸彰彦君(「JIN」などのプロデューサー)と新井順子さんしか、うちの局では、僕は見たことがない。

新井:ディレクターは回によって変わっていくから、全体像は自分が見る責任を感じます。もちろん助監督さんが全体を通して見ていてくれますが、私もずっと見ていてちょっと何か違和感を感じたら言いますね。

植田:どんな役者にでも遠慮なく話しますよね。その懐に入る感じも嫌な感じが決してしない。もちろん、言っていることが正しいから、みんなが信用するのでしょう。

新井:たまに「言っていることはよくわからないが気持ちは伝わってくるよ」みたいなことを言われますよ。難しい言葉は使えないので、とにかくいっぱいしゃべって意味をくみ取っていただくしかないんですよね。

MIU404  より  写真提供:TBS
MIU404 より  写真提供:TBS

●ドラマノートをつけていた

植田:最初に、新井さんがドラマプロデューサーを目指したときの話を聞かせてください。

新井:プロデューサーというよりは、漠然とドラマの業界に行きたいと思ったのは中学生ぐらいです。

植田:鍵っ子時代にドラマのノートを付けていたと聞いたことがあります。

新井:付けていました。高校生の時ぐらいまで。

植田:そこにはドラマの感想を書いていたのですか。

新井:感想ではなく、各クールごとにドラマのタイトルと主題歌と主演女優と男優、監督の名前などを書いていた記憶があります。プロデューサー名を書いていたかはちょっと覚えていませんが。

植田:生粋のドラマっ子ですね。

新井:何のために付けていたのか、自分のことながら定かではないのですが、記録を続けると、同じ名前の方が出てくるから、それでスタッフを意識するようになりました。

植田:最初に意識したスタッフは誰ですか。

新井:フジテレビの大多亮(とおる)プロデューサーです。

植田:トレンディードラマをたくさんプロデュースした方ですね。

新井:月9を作っていらっしゃいましたね。私が小学生の頃は、月9を見ないと次の日、学校で話に付いていけない時代でした。TBSは、野島伸司さんのドラマが流行っていて、プロデュースした伊藤一尋さんの名前を覚えました。衝撃的なドラマといえば伊藤さんという感じでした。もちろん貴島誠一郎さんの名前も印象に強くあります。芸能人みたいな名前だと思って(笑)。貴島さんは「ずっとあなたが好きだった」「愛していると言ってくれ」「青い鳥」とヒットドラマに必ず名前があった。当時、私は「青い鳥」がすごく好きでした。

植田:高校生に入ると、映像の専門学校に行こうとしてバイトをし始めたんですよね。

新井:もともと貯金が趣味でバイトのお金もお年玉も全部貯金していました(笑)。最初は専門学校に行くつもりはなくて、高校卒業したら、ドラマを見ているとよく出てくる“木下プロダクション”に入ろうと思って電話したら「大学か専門学校を出ないとどこにも入れないと思いますよ」みたいなことを言われました。当時は学歴がとても大事にされていて。でも大学に行っていると4年もかかってしまう。ちょっと時間がないなとなぜか思って専門学校に入りました。

植田:時間がない……とは生き急いでますね(笑)。

新井:その1年の夏休み頃、バイトで「池袋ウエストゲートパーク」(00年 以下IWGP)の現場に入りました。毎日行くわけではなく、大規模なロケがあった時、制作部のお手伝いとして、お弁当を配ったり、通行人の方の人止めしたりしました。夏だったので、おしぼりも配りました。印象に残っていることは、現場の片隅に大きなテントがあって、何だ、これは?と思ってのぞいたら、中に堤監督がいてトークバックでしゃべっていたことです。はじめて堤さんの姿を見て感動しました(笑)。

植田:専門学校卒業後は木下プロに入ったんですか。

新井:いや、結局、木下プロには入らなくて。その代わり、専門2年ぐらいの時に「渡鬼(渡る世間は鬼ばかり)」の助監督募集があって、ドラマの募集は初めてだったから、そこに何百人も大殺到しました。もちろん私も応募しました。

植田:ドラマ全盛期だね。

新井:それがVSO(のちに木下プロと合併ドリマックス・テレビジョン、現TBSスパークル)の社員募集で、結局、受かっても、私は「渡鬼」には入らなかったんですよ。

植田:最初入った番組は何ですか。

新井:最初の半年間は制作部でした。「助監督はいま足りているから制作部をまずやって」と言われまして、福田新一さんが演出した「義父のいる風景」(00年)という、田中美佐子さんや松任谷正隆さんが出演した、芸術祭参加作品の、ヒューマンドラマに入りました。

植田:最初は、お弁当発注から入った?

新井:そうですね。舞鶴でロケをしたので、ロケ地までの地図を書いたり、ハマグリを焼いたりしていました(笑)。休憩中、みんなに配るために。あと、通行人の人止めなどもしました。「IWGP」での体験が生かされました。

●二十代で助監督からプロデューサーへ転身

植田:僕が新井さんと仕事をはじめてしたのは「オレンジデイズ」(04)でした。

新井:サード助監督でした。それまで「金八先生」という名作ながら正統派な現場にいたもので、やっとトレンディーなーー「トレンディ」とはちょっと言葉が古いですけど(笑)――旬なスターがたくさん出ている現場に入れたと嬉しかったことを覚えています。そのときは、柴咲コウさんの手話とバイオリン練習の準備などを担当していました。

植田:制作部から助監督になり、それでプロデューサー志望になったのは、いつぐらいから?

新井:私は助監督時代、八木康夫さんプロデュースのドラマに付くことが多かったのですが、その時は、プロデューサーの道は考えていなかったです。プロデューサーとは、たまに現場に来てみんなにご飯を食べさせてくれる人という漠然としたイメージだったものですから(笑)。

植田:八木さんの現場は作家打ち合わせを作家と八木さんのふたりだけでやっているしね。

そういう意味で言うとアシスタントが八木さんの仕事を見る場面は少ないからね

新井:そんななか、「恋の時間」(05)の現場で私はぎっくり腰になりまして、それを機にAP になり、はじめてプロデューサーの仕事を知り、私はこっちのほうが向いているかもと思ったんです。それから数年APをやっていました。助監督時代は監督のカット割り台本を見て勉強していましたが、今度はいろんな人の企画書を見せてもらって企画書を書いて提出するようになりました。

植田:プロデューサーの師匠は誰ですか。

新井:当初、APとして付いて、後々、初Pをやる時もチーフPで付いてくれたのが加藤章一さんです。初めてAPにしてくれたのは貴島さんでした。

植田:貴島さんがドリマックスにいた時代ですね。

新井:そうです。「やってみなきゃ分かんないよ」みたいなことで、急に「これやって」と、いきなり連ドラーー愛の劇場「砂時計」(07)という昼帯に呼ばれて「ええ? 私でいいんですか」みたいな感じで(笑)。

植田:僕もそうでした(笑)。セカンドADをギリギリやっているかやってないかぐらいの時に、突然「『ダブルキッチン』のAPやれ。3年後にはプロデューサーやれ」と貴島さんに無茶振りされた。

新井:ほんと無茶振りで(笑)。私はスケジュールの書き方も知らなかったんです。その時、スケジュールの書き方を教えてくれたのが塚原あゆ子さんです。

植田:塚原さんはチーフ助監督?

新井:その時はサードディレクターでした。ADのチーフが佐藤敦司さん、セカンドが福田亮介さん、サードが塩村香里さんと今もプロデューサーやディレクターをやっている精鋭のメンバーでした。そして加藤章一さんがプロデューサーでした。

植田:「砂時計」は愛の劇場でも大ヒット作で、切ないラブストーリーでしたね。

新井:昼帯は主にセットの中で撮るものと思っていたら、地方ロケが多くて、スケジュールを立てることが大変でした。クランクインまでにすでに12週分の台本があって、そのスケジュール組まなきゃいけないのですが、どこから手を付けていいのかが分からなくて……。

植田:新人なのに。

新井:新人なのに。しかも、最終回のシーンが1話に出てくるから、このシーンとこのシーンは同じだから同じ日に撮らなきゃいけないというような縛りもあって、スケジュールを組むことにコツを要するんですよ。

植田:最初に本打ちをやった作品は何ですか。

新井:「だいすき!!」(08)です。香里奈さんが知的障害者のシングルマザー役で、1人で子どもを育てていくというドラマでした。その時、プロデューサーがドラマデザイン社の山本和夫さんでした。そこにドリマックスのプロデューサーの川西琢さんが参加していて、「女性の意見を聞きたい」と、はじめて脚本打ち合わせに参加させてもらいました。「どう思う?」と聞かれて、かなり好き勝手言いまくっていた気もします。

植田:そういうはっきり言うところは今も変わらない新井さんスタイルですね。自分の企画でプロデューサーデビューした作品は?

新井:愛の劇場「ラブレター」(08)という鈴木亜美さん主演のドラマです。

植田:それは何歳の時ですか。

新井:28歳ですかね。

植田:二十代で自分の企画をやれるのはすごい抜てきですね。

新井:本当に。チーフPの加藤章一さんに「一緒にやってみるか」と言われて企画書を作りました。

植田:「だいすき!!」に光るものがあったのでしょうね。初めてのゴールデンタイム作は「タンブリング」(10)ですか。それもまだ20代ですよね。

新井:20代です。貴島さんが若手にどんどんチャンスをくださる人だったからですよ。

植田:それから大躍進ですよね。

新井:大躍進……なんでしょうか…。でも助監督時代はなかなか昇格しなくて、いつまでこの仕事をやっていればいいのだろうと思っていましたよ。耐えるとこ耐えたら伸びる時は伸びるものなのでしょうか。

●中谷美紀、湊かなえ、大物と次々に仕事をしていく

植田:いやいや、20代で伸びていたら、それは下積みとは言いませんよ。「わたし、定時に帰ります。」(19)や「私結婚できないんじゃなくて、しないんです」(16 以下「できしな」)などの少し異色なドラマもやっていますよね。企画の方向みたいのは何かあるんですか。

新井:サスペンスをやったら次はちょっとライトのものやろうとか、テイストを変えたくなりませんか。ずっと同じものをやっていても限界があるし。

植田:ワンクール、ずっとラーメン食べ続けてきたから、次はカレーを食べたいぞ、みたいなことですよね。

新井:そうそう。企画が通らない時もありますが、たまに「それ、いいじゃん」と言われることもあって。例えば、「できしな」は、ラブストーリーをやりたいけれど、普通のラブストーリーの企画がなかなか通らなかったので、少しひねってみたんですよ。ちょうど「スパルタ婚活塾」という恋愛マニュアル本を読んで、ここに書かれていることをセリフにしてしゃべったら面白いのではないかなと思ったとき、あのタイトルがポンと浮かびました。企画書2枚の簡単なものを出したら、編成の瀬戸口克陽さんに「いいね。これをもっとちゃんと書いて」と言われて書き直して。その主演を中谷美紀さんにオファーしたらまさかのOKだったんですよ。

植田:僕は震撼(しんかん)というと大げさですが驚きました。中谷さんにあのタイトルのコメディのオファーをするとは……って。

新井:「ばかなふりして行け」「おまえはまだ若いから大丈夫だ」って背中を押されオファーしました。中谷さんは硬派な作品のイメージがありましたが、「そういうイメージで、同じような企画ばかり来る」から逆に「こういうのがやりたかったのよ」とすぐに返事をもらえたんです。私としては、「ケイゾク」(99)のイメージがあったので、いけなくもないかなとは思っていたんですよ。そしたら初めて会った時に「嫌味なの?(笑)」と笑いながら言われて「とんでもないです」と(笑)。

植田:新鮮だったし評判になりましたよね。 そして「わた定」はギャラクシー賞を取りました。

新井:うれしかったですね。

植田:だとしても、難しい題材をよく評価されるところまで持っていきましたね。

新井:難しかったです。実際にいろいろな方に取材して面白いネタが上がってきたのを取り入れたりしました。脚本の奥寺佐渡子さん、清水友佳子さんに本当に助けられました。

植田:奥寺、新井、塚原といえば、「湊かなえシリーズ」が代表作ですよね。「夜行観覧車」「Nのために」「リバース」の3部作で、新井順子プロデューサーとは何者? と業界がざわついた。僕は、「オレンジデイズ」の時に助監督をやってくれていた新井さんが、今、このプロデューサーやっているんだ? とその成長に驚きました。湊かなえシリーズは新井さんが企画というか原作権を取ってきたんですよね。

新井:そうですね。その頃、企画募集がありまして。

植田:ドリマックスの中で?

新井:TBS の編成局からです。ドリマックスとして企画をまとめて出すときに、オリジナルを出しても通らないから、強い原作者のいるものをと思って、そういえば、湊かなえ作品は連続ドラマではあまりやってないなと思って「夜行観覧車」を提案したら、いろいろ条件があったとはいえ、やれることになったんです。それがはじめてひとりでPをやった作品になりました。

植田:やらせてくれた編成は誰ですか。

新井:十二さんです。そのとき、塚原さんはTBSではまだチーフDをやったことがなかったのですが、塚原さんでやりたかったので、原作者や俳優事務所さんに、NHKで演出した「ラストマネー」の完パケをダビングしてプレゼンしました。湊さんは監督にはそんなにこだわってなくて、章によって視点が全部変わっている原作をどうやって全10話にするかを一番気にされていました。

植田:構成は奥寺さんがつくったのですか。

新井:主に奥寺さんです。「10話割り」と呼ばれる何話で何が起こるみたいな構成をまず決めて、そこから奥寺さんが30~40枚ぐらいにわたるプロットを書いて、その時点でめちゃくちゃ面白かったんです。それを湊さんのとこに送ったら、即OKをもらえました。

植田:湊かなえ作品は結構な争奪戦だったと思いますが。

新井:争奪戦になっていたかどうかもよく分かってなくて。対応してくださった双葉社の方が細かいことを私に知らせず託してくれたのかもしれないです。

●次にやりたいことは……

植田:新井さんはなかなか休みが取れないと思いますが、休みはどうしているんですか。

新井:今は働き方改革によってドラマ中でも週1日休んでいます。その時は家にいて、とにかく寝るっていう感じですかね。撮影中は。2連休あったり3連休あると出掛けたりもしますけど、今、こんな状況なので、どこにも行けないので、公園に行ってウオーキングしてストレス発散しています。こんな普通の日常いいかもみたいな感じで過ごしています。

植田:最後の質問にしたいと思いますけど、これから、もうヒットメーカーとしてヘビーローテーションの中に入っていって、30代、40代、投げ続けるわけじゃないですか。今後、どういう作品やりたいですか。

新井:今は、ホームドラマですね。普遍的なホームドラマがやりたい。サスペンスを盛り込んだ家族愛ものはやったことがありますが、いわゆるホームドラマをやったことないんです。今、ホームドラマ自体が少ないじゃないですか。ラブストーリーも一時期はなくて、だからこそラブストーリーをやりたいなと思ったけど、最近はラブストーリーも増えてきましたし……。事件ものは、いったんお休みしようかなと思っています。

植田:新井、塚原コンビによるホームドラマ見てみたいですね。

新井:やりたいですね。あと、夢はハワイロケをすることです。「GOOD LUCK!!」の1話がハワイロケで、絵がきれいだし最高だなと思って、ハワイの企画をたくさん出しているのに、全然通らないんですよ(笑)。

植田:プライベートでもハワイは好きなんですよね。

新井:好きです。旅行が結構好きで、番組と番組の間は旅行によく行きます。「MIU404」が終わったら行こうと思っていたのですが、当分、日本から出られそうにもなく……。

●自分がグッとくるものを目指す

――最後に、植田さんに代わって、ライター木俣が質問します。植田さんが「こだわりのプロデューサー」とおっしゃっていましたが、他のプロデューサーの方はそこまでこだわらないのですか。

新井:みなさん、こだわっていると思いますよ、多分。ただ、こだわるところが違うんでしょうね。例えば、男性のプロデューサーは、俳優の前髪までこだわってないかもしれないです。

――また、新井さんのこだわりの表現が熱いのでしょうか。

新井:どうなんでしょう(笑)。結構テレビ見ていても、もっとこの人こうすればいいのにとよく思うんですよね。もうちょっとこういうふうに髪型をすればいいのにとか、衣装がもうちょっとこうだったらいいのにとか細かく気になるタイプで。とにかく自分がいいと思うものを目指す。誰かに合わせるのではなく、自分がグッとくる感覚を信じています。

――:そうやってどんどんまい進していって、止められちゃったこととか、失敗しちゃったことっていうのはないんですか。

新井:失敗はいろいろありますよね。もっとこういうふうにしとけばよかったなという反省もあります。でも、数字(視聴率)が取れないことはしょうがないと言ってはいけないですが、結果は誰も分からないわけで、多分「おまえのせいで数字が取れなかった」と責める人はいないです。

綾野と星野の自粛期間明けの弾けた演技

 MIU404より 写真提供:TBS
MIU404より 写真提供:TBS
 MIU404より 写真提供:TBS
MIU404より 写真提供:TBS

――:「MIU404 」に関して、綾野剛さんと星野源さんについてお話していただけますでしょうか。

新井:今までになかったふたりになっていると思っています。綾野さんは私の中ですごくクールなイメージでしたが、「MIU404」では明るく生き生きと演じていらっしゃいます。星野さんは、過去を抱えてはいるものの、そんなに暗くなることもなく、毒舌もたまに吐くような役で、その心の機微をすごく丁寧に演じてくださっています。おふたりとも型にはまらない演技をどうやったらうまくやれるかずっと考えてくれていて、ときにはアドリブを提案してくれて、監督がチョイスして……ととにかくみんなが楽しそうに撮影しています。とりわけ自粛期間が明けたときの勢いはすごかったですよ。とにかく面白いものをつくりたいという一心のふたりのバディ感を毎週お楽しみいただきたいです。

――:自粛明けで、ステイホームしていた皆さんが、はじけているところが見られそうということですよね。

新井: 1~2話は自粛前に撮ったもので、自粛明けは3話以降になります。絵的にはそんなにわからないかもしれないですけれど、画面から滲み出る熱を感じていただければ……。

profile

新井順子JUNKO ARAI

◯大阪府出身。TBSスパークル所属。プロデューサー。主な担当作に「わたし、定時で帰ります。」「中学聖日記」「アンナチュラル」「リバース」「私結婚できないんじゃなくて、しないんです」「Nのために」「夜行観覧車」などがある。

植田博樹 HIROKI UEDA

◯1967年、兵庫県出身。京都大学法学部卒業後、TBS入社。ドラマ制作部のプロデューサーとして、数々のヒットドラマを手がける。代表作に「ケイゾク」「Beautiful Life」「GOOD LUCK!!」「SPEC」シリーズ、「ATARU」「安堂ロイド~A.I .knows LOVE?~」「A LIFE~愛しき人~ 」「IQ246~華麗なる事件簿~」「SICK‘S」などがある。

MIU404より 写真提供:TBS
MIU404より 写真提供:TBS

金曜ドラマ「MIU404」

TBS系毎週金曜よる10:00~10:54

出演:綾野 剛 星野 源 岡田健史 橋本じゅん 生瀬勝久 麻生久美子ほか

脚本:野木亜紀子

音楽:得田真裕

プロデュース:新井順子

演出:塚原あゆ子 竹村謙太郎 加藤尚樹

主題歌:米津玄師「感電」(ソニー・ミュージックレーベルズ)

取材を終えて

インタビューで、「MIU404」では「今しかやれないこと」を描いていると言っていた新井さん。確かに、第1話の「あおり運転」の放送が7月にずれていたら、6月末に、あおり運転の厳罰化に大きく関わる「改正道路交通法」が施行され、それより後になってしまうとタイミングとしてはあまりよくなかったことであろう。施行前に第1話が放送されてよかったと思う。

映画の場合、撮って公開するまでに1年くらい経ってしまうことも少なくない。そのため“今”をビビッドに書くことは難しいが、テレビドラマは放送日の前日(当日の朝のことも)まで撮影していることもあるくらいなので、“今”を視聴者と共有することが可能である。その昔、浄瑠璃や歌舞伎は今起こっている話題をすぐに演目に取り入れて庶民を楽しませた。いまも歌舞伎でその時起こっている話題をセリフに加えたりもしているが、放送してより多くの人たちに伝わるテレビドラマはいっそう多くの人と共有できる。

その瞬間のみならず、「アンナチュラル」の感染症のように今に敏感になって作ったことが普遍性を持つこともある。刹那的な熱を大事にすることも尊いが、今を見つめたら普遍になるという奇跡こそ、ドラマに期待することである。25年前のドラマを再放送したら、当時見ていた人とその子供世代が一緒になって楽しみ、話題になった「愛していると言ってくれ」はまさにそうだったし、植田博樹の「SPEC」も10年前の作品ながら、再放送で今、見ても十分楽しめた。むしろ「SPEC」は、放送当時の現代を舞台にしながら、SF風味を加えたことによって普遍性を獲得できたように思う。

「MIU404」はどういう作品となるであろうか。話数が少し減ってしまったことは残念ながら、とことんこだわり粘る新井プロデュースならではの完成度で完走してくれることだろう。

7月10日、第3話のオンエアを見ての追記:第3話は、高校陸上部員たちの起こした事件を、主人公たちが追う。陸上部員の能力を生かして走る少年たちを、俊足の伊吹(綾野剛)が追う。出演者たちがひたすら走っていることにもびっくりしたが、最後に菅田将暉が出てきたことにもびっくりした。ネット社会、少年法など今の問題に対して見る者にも考えを促すだけでなく、俳優が走る、瞬間のアクチュアリティには現代性を強烈に感じた。それこそいま起こっていることそのものだから。そして、前宣伝をしないで(ネタバレなし)のサプライズ。人気俳優が出演するというのは格好のネットニュースの題材になるのにそれをせず、見た後の盛り上がりに任せ、翌・土曜日に再放送することも、新しい戦法だと思う。