Yahoo!ニュース

『やすらぎの郷』 伝説のバラエティー番組『しのぶの庭』のモデルは、あの番組

木俣冬フリーライター/インタビュアー/ノベライズ職人

『やすらぎの郷』43話のあらすじ

ハワイで活躍していた出目金こと石上五郎(津川雅彦)は、ビーテレのテコ入れに、日本のバラエティーのくさ分けともいえる『しのぶの庭』を40年ぶりに復活させようと考えていて、菊村(石坂浩二)に、当時MCをつとめていた及川しのぶ(有馬稲子)のフィジカル、コンディション(ハワイ帰りだから何かと英語になる)について聞きに来たのだった。

どうせ復活させるなら、及川しのぶ本人が良いと思って、やすらぎの郷を訊ねてきたものの、当人は、石上と一緒に来た犬山小春(冨士眞奈美)との過去の諍いを根に持ち、絶対会いたくないと突っぱねる。

さて、どうなる? というのが43話。

『しのぶの庭』のモデルは『光子の窓』

『やすらぎの郷』世界では、『しのぶの庭』は、高齢者たちにとって、永六輔、中村八大の『夢であいましょう』に次ぐ人気番組という設定になっている。

『夢であいましょう』は、NHKで、1961年(昭和36年)〜66年まで放送されたバラエティー番組。永六輔が構成で、中村八大が音楽を担当した。

一方、『しのぶの庭』という番組は実在していない。だが、モデルの推測は容易だ。『徹子の部屋』かと思いきや、そうではない。1958年(昭和33年)から60年まで、日本テレビで放送された『光子の窓』だ。草笛光子がMCをつとめ、歌、踊り、芝居と八面六臂の活躍をした。永六輔はここでも構成を担当している。この番組で、初めて構成作家というものが登場したらしい。

ちなみに、『やすらぎの郷』43話の同日放送された朝ドラ『ひよっこ』51話、工場生活最後のコーラスで歌われた『見上げてごらん夜の星を』の歌手・坂本九は、『夢であいましょう』で『上を向いて歩こう』をヒットさせている(また、朝ドラ、帯ドラ、若干リンクしました)。

石上が言うに、いま日本の人口の25%が65歳、60歳以上は33%。2017年現在、65歳の人は、1958年には6歳だから、その親世代(80代以上?)がなつかしむ番組ということで、まさに、〈やすらぎの郷La Strada〉世代の番組だ。

石上の「若者の視聴率に頼った昔ながらのゴールデン神話は崩壊しているんじゃないか」、「若者は完全にテレビ離れを起こしているから、テレビは高齢者を頼らないと生き残れないんじゃないか」と言う台詞は、『やすらぎの郷』を作った倉本聰や、この番組の制作陣の思いと同じだろうと想像できる。

『やすらぎの郷』の魅力のひとつは、エピソードのネタもとを、観た人がだいたいわかるようになっていること。

石坂浩二にまつわる芸能スキャンダルをはじめとして、これまでモチーフとして取り上げられたものは、テレビや週刊誌を騒がせたかなり有名なものばかりで、同時代を生きた人なら、たいてい、ああ、あれね、と気づいて楽しめる。同時代を生きてない若い世代にしても、検索したら、比較的容易に真相にたどりつける。マニアック過ぎないのだ。

お馴染み、テレビへの恨み節も

『しのぶの庭』のモデルは何かということに気持ちが集中しがちだが、後半、「家族の小さな別れのドラマが、園内のあちこちで繰り広げられていた」からはじまる菊村の長いモノローグも味わい深い。

すべてを引用するのは遠慮するが、「ある者は、それが永遠の別れになるものと予測し、ある者はすでに予測を超えた一種覚悟の別れであり、」という一節、「すでに予測を超えた一種覚悟の別れ」というのは老いをリアルに感じる者しかわからない言葉だと思う。

そして、それの、別れの話が、テレビの話にすり替わっていき、もはやお馴染みになりつつある、菊村という創作上の人物を借りた、倉本聰のテレビへの恨み節かとにやにやしつつ聞いていると、だんだんとテレビとは、いまの日本じゃないかと思えてくる。テレビを人生に重ねて説得力をもたせるには、どんなに才能のある倉本聰でも、テレビに対する名台詞を生んだ『6羽のかもめ』(74〜75年)の時代、アラフォーの彼では、まだ不足なところがあっただろう。『やすらぎの郷』は、82歳まで生きている倉本聰だから描ける凄絶なドラマなのだ。

“(前略)テレビ

はたしてテレビが彼らの夢賭けた一生に報いることがあったのか、

テレビが彼らに何かをしたのか“

出典:『やすらぎの郷』43話から

この台詞にしみじみしてしまうのは、筆者もまた人生残りわずかってことかもしれないと、ちょっとびくびくしている。夢賭けたがんばった世代ではないのだけれど。

帯ドラマ劇場「やすらぎの郷」(テレビ朝日 月〜金 ひる12時30分  再放送BS 朝日 朝7時40分〜)

第7週 41回 5月31日(水)放送より。 

脚本:倉本聰 演出:池添博

フリーライター/インタビュアー/ノベライズ職人

角川書店(現KADOKAWA)で書籍編集、TBSドラマのウェブディレクター、映画や演劇のパンフレット編集などの経験を生かし、ドラマ、映画、演劇、アニメ、漫画など文化、芸術、娯楽に関する原稿、ノベライズなどを手がける。日本ペンクラブ会員。 著書『ネットと朝ドラ』『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズ・ルポルタージュ』、ノベライズ『連続テレビ小説 なつぞら』『小説嵐電』『ちょっと思い出しただけ』『大河ドラマ どうする家康』ほか、『堤幸彦  堤っ』『庵野秀明のフタリシバイ』『蜷川幸雄 身体的物語論』の企画構成、『宮村優子 アスカライソジ」構成などがある

木俣冬の最近の記事