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今シーズン河村勇輝が掲げる2つのチャレンジと日本バスケ界を背負おうとする覚悟と矜持

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
今シーズンは自他ともに認めるチームリーダーを担う河村勇輝選手(筆者撮影)

【京都2連戦で圧倒的な存在感を発揮した河村選手】

 この夏実施されたワールドカップで、日本代表が48年ぶりに自力で五輪出場権の獲得に成功したことで、日本国内でバスケの関心が高まる中、週末に2023-24シーズンが開幕したBリーグにも、その人気が波及しているようだ。

 バスケ専門サイトの「バスケットボールキング」によれば、多くの会場で主催チームの最多入場者数を更新する賑わいを見せていたという。それは京都で行われた京都ハンナリーズ対横浜ビー・コルセアーズ戦も同様で、第1戦4313人、第2戦4325人と、2日連続で最多入場者数を塗り替える人気ぶりだった。

 試合の方は、昨シーズンにチャンピオンシップシリーズ準決勝進出を果たしている横浜が京都に連勝する結果となったが、2試合とも白熱する試合展開となり、会場に足を運んだ横浜ブースターのみならず、京都ブースターも満喫できる内容だったように思う。

 そんな好試合を繰り広げた両チームの中で一際光彩を放った存在が、昨シーズンのMVP受賞者であり、日本代表でも五輪出場権獲得に大いに貢献した河村勇輝選手だっただろう。

【チーム最年少の22歳PGが試合を完全支配】

 2試合を通じて河村選手がみせた圧倒的な存在感とは、彼の試合支配力に他ならない。

 まず第1試合では、第1クォーターを18対22で終え苦しい立ち上がりとなったが、第2クォーターに入り河村選手が積極的なドライブを仕掛け京都のディフェンスを翻弄することで、試合の流れを横浜に向かわせることに成功。このクォーターを23対12と圧倒し、試合の主導権を掴んでいる。

 続く第2試合でも、試合終盤まで京都と激しいデッドヒートを繰り広げる中、第4クォーター残り2分31秒で1点差に詰め寄られたが、河村選手が残り55秒で3点シュートを沈め、横浜に勝利をもたらしている。結局この試合で河村選手は両チーム最多の30得点を記録している。

 つまり河村選手の試合支配力とは、状況に合わせ自分のプレースタイルを変えながらチームを勝利に導く最善のオプションを選択できる能力に他ならない。

 まだチーム最年少の22歳ながら、そのバスケIQの高さはすでにリーグ屈指といえるのではないだろうか。

京都戦第2戦では重要な局面でシュートを決め続けた河村勇輝選手(筆者撮影)
京都戦第2戦では重要な局面でシュートを決め続けた河村勇輝選手(筆者撮影)

【青木HC「周りのスタンダードを上げてくれるリーダー」】

 今シーズンはリーグ制覇を目指す青木勇人HCも、河村選手に絶大な信頼を寄せている。その上で代表活動からチームに戻ってきた彼に対し、更なる成長を確認できているようだ。

 「チームに入った時からこのチームで勝つという覚悟が強く、それが年々強くなっているように感じます。それに伴いリーダーシップというものを発揮しているように思います。

 うちはそれぞれ選手たちが自分の持っている役割をリーダーとして戦うチームだと思いますが、その中でチームのスタンダードを引き上げてくれるのが河村選手の大きな役割だと思います。

 (代表活動から戻ってきてからは)相手からターゲットになるのが分かっているので、如何に周りの選手たちをうまく使っていくのかというコントロールの部分をさらに意識しているのではと感じています。昨年の土台に、さらに上積みしようとしているチャレンジが見てとれます」

代表活動後の河村選手の変化を感じ取っている横浜の青木勇人HC(筆者撮影)
代表活動後の河村選手の変化を感じ取っている横浜の青木勇人HC(筆者撮影)

【今シーズン河村選手が掲げる2つのチャレンジ】

 青木HCの考えは、まさに河村選手の今シーズンの思いを代弁するものだった。

 改めて本人に確認したところ、彼は今シーズンのチャレンジとして「実戦を通しての個人的な成長」と「チームリーダーとしてのコミュミケーション」を掲げている。

 「相手がいろいろなアジャストをする中で、それを瞬時に判断して最高の選択肢を選ぶというのが、ゲームの中で成長できる1つのきっかけになるというか、いいチャレンジになると思います。

 傲慢というわけではなく、一番は僕を止めるディフェンスを(相手チームが)組んでくると思うので、そこを上回れるようなプレー、考え方をチャレンジしていきたいです。

 今シーズンは誰がコミュニケーションをとりにいくのか、リーダーシップをとるのかがすごく大事になってきます。その役割を今シーズンは僕がやっていければと思うし、コミュニケーションをとってチームの士気を上げていくというのも自分にとってチャレンジになるかなと思います」

 京都との2連戦を見る限り、コート内外でチームメイトたちに積極的に声をかける河村選手の姿が目に留まった。すでに河村選手が真のチームリーダーになっているのは明らかだった。

 2試合で披露した彼のプレーぶりも含め、河村選手は着実にチャレンジを遂行しているのが理解できた。

【日本バスケ界そのものを背負おうとする覚悟】

 実は河村選手のチャレンジは、それだけに留まらない。今後日本にバスケ人気を定着させていくためにも、河村選手の存在は必要不可欠なものだ。もちろん本人もその責任を感じ取っている。

 「ワールドカップを終えてから少しずつバスケットの熱が上がっていく中で、有り難いことに注目されるようになって、ワールドカップや日本代表だけでなく、日本にも素晴らしいリーグがあることやバスケットいうスポーツの魅力を、1試合1試合を通じて伝えていければいいなと思っています。

 そういうところを意識しないと嘘になるというか、できるだけ沢山の方に魅力を感じてもらい、満足して帰ってもらえるようなプレーができればいいなと思っています。プレッシャーにはなっていないですけど、そうした責任感を持つようにしています」

 横浜ブースターのみならず相手チームのブースターをも満足させるプレーを目指す河村選手。最早横浜のチームリーダーというよりも、日本バスケ界そのものを牽引しようとしているのかもしれない。

 今シーズンの更なる飛躍がすでに待ち遠しくて仕方がない。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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