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現在3Aで無双状態!プロ未勝利ながら早期のメジャー初昇格に期待がかかるMLB版佐々木朗希の潜在能力

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
ここ最近米メディアの関心を集めるポール・スキーンズ投手(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

【米メディアから注目が集まるマイナーリーグ投手】

 まだシーズンが開幕してから1ヶ月しか経過していないが、MLBは連日様々な話題を提供してくれている。

 個人的にも毎朝眠い目をこすりながら、ドジャース戦を中心に試合観戦するのが日課になっているし、日本でも大谷翔平選手を中心とする日本人選手たちの活躍がすっかり毎朝の話題になっている感がある。

 また試合観戦のみならず米メディアの動向を確認するのも個人的な日課の1つなのだが、ここ最近米メディアの間で1人のマイナーリーグ投手がかなり注目を集めているのをご存じだろうか。

 まだプロ未勝利でありながら、1日も早いメジャー初昇格を望む声が日増しに高まっている状況にある。

【2023年ドラフトで全体の1位指名を受けたスキーンズ投手】

 その投手とは、パイレーツ傘下3Aに所属しているポール・スキーンズ投手(21歳)だ。

 彼は2023年6月に実施されたドラフトで、パイレーツから全体の1位指名を受けた超若手有望選手なのだが、今シーズンは開幕から3Aに在籍し、ここまで無双状態を続けているのだ。

 3Aはシーズン中の補充要員的な実績あるベテラン選手や若手有望選手がひしめくリーグだが、そこで打者たちを圧倒する投球を続けているのだから、スキーンズ投手の実力の一端を理解してもらえるだろう。

 そんな彼の特徴を簡単に説明するならば、MLB版佐々木朗希投手という表現が最適だと考える。

【レベル違いの剛速球を投げるMLB版佐々木朗希投手】

 スキーンズ投手の最大の武器は、身長198センチから繰り出すフォーシームだ。しかも彼のフォーシームは常時100mph前後を計測する剛速球で、メジャーと比較しても一段高いレベルの球速を誇っている。

 MLBのデータ関連を中心に発信を続ける「Codify」によれば、今シーズンの3A先発投手の中で、ここまで99mph以上を計測した球数を見ると、1位はスキーンズ投手(95球)がダントツの1位で、2位の投手(2球)と圧倒的な差をつけている。

 まさにフォーシームを投げれば当然のように160km/hを超えてくる佐々木投手を彷彿させる異次元のフォーシームなのだ(今シーズンの佐々木投手は球速がやや控えめになっているが…)。

 これだけ圧倒的な球速を誇っているからこそ、3Aでも無双状態にあるわけだ。ちなみにスキーンズ投手はここまで5試合に登板し、勝敗はついていないものの、防御率0.53、34奪三振を記録している。

 さらに被打率は.164で、許した安打も10本中長打はわずか2本と、完全に打者を圧倒している状態だ。

 しかも注目してほしい点は、5試合で17.0イニングしか投げていないのに34奪三振を記録していることだ(その理由は後述)。ちなみにK9(9イニングあたりの三振率)は18.0となり、現在MLBでトップにランクしているギャレット・クロシェイ投手でも12.1であることを考えると、スキーンズ投手の凄さは一目瞭然だろう。

 3Aでは数年前からメジャーと同じ公式球を使用しているので、現在スキーンズ投手が3Aで披露している投球は、そのままメジャーでも期待できることを意味している。

 米メディアがスキーンズ投手に注目を集め始めた背景を、十分にご理解頂けたかと思う。

【まだ先発投手として育成過程の真っ只中】

 前述したように、スキーンズ投手はここまでプロ未勝利なのだが、それには明確な理由がある。まだ先発投手として育成過程の段階にあるためだ。

 スキーンズ投手はドラフト指名後、すぐにプロの世界に身を投じ、先発投手として実戦登板を果たしている。ただパイレーツの起用法は従来の常識を覆したものだった。

 プロ入り直前の大学(ルイジアナ州立大)では19試合に先発し、計122.2イニングを投げていたにもかかわらず、プロ入り後は極端な球数制限を行い、中4、5日間隔で5試合に先発させ、1.0イニング、1.0イニング、2.0イニング、0.2イニング、2.0イニングに制限した。その間レベルを徐々に上げ、ルーキーリーグから2Aまで経験させている。

 また今年のスプリングトレーニングでは招待選手としてメジャーキャンプに招集され、メジャーでオープン戦登板も果たすなど、MLB公式サイトがシーズン開幕前に発表した若手有望選手トップ100では堂々の3位(投手としては1位)にランクされていた。

 3Aに回った今シーズンもまったく同様で、開幕からしっかり球数をモニタリングされ、開幕3試合は3.0イニングに止まり、そこから中5、6日間隔で投げながら徐々に球数とイニング数を増やしている。

 そして直近の4月24日の試合では、70球を投げ始めて自身最長となる5回途中まで投げることに成功している。つまり順調に過程を踏んでいるのだ。

 実は育成過程を3Aで行うということもかなり稀なケースだ。それだけスキーンズ投手が規格外な選手であり、またここまでの起用法を見れば明らかなように、彼を大事に育てたいというパイレーツの意思も感じる。

 現時点でスキーンズ投手のメジャー初昇格がいつになるのか、誰にも分からない。ただ3Aで100球前後、5回以上を投げられるようになれれば、満を持してメジャー昇格してくるのではないだろうか。

 現状を見る限り、その日がやって来るのはそう遠くなさそうだ。今から新たなスターが誕生するのを待ち侘びたい。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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