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大谷翔平がMLB初のDH選手としてMVPを受賞する上で重要になりそうなOPS+200超え

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
現在MLB唯一OPS+が200を超えている大谷翔平選手(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

【早くも注目を集めるベッツ選手とのMVP争い】

 開幕当初は「なかなか本塁打が打てない」とか「得点圏打率がかなり低い」等々、メディアが要らぬ心配をするのを他所に、一時は打率、本塁打数、長打率等々多くの打撃部門でMLBトップに立つなど、現在の大谷翔平選手は無双状態に入りかけている。

 ドジャースも4月24日のナショナルズ戦以降、15試合で13勝2敗の快進撃を続け、早くもナ・リーグ西地区で独走態勢を整えようとしている。

 大谷選手とともにチームの快進撃を支え、シーズン開幕から打撃好調を維持し続けるムーキー・ベッツ選手の2人は、ナ・リーグMVP争いで先行している状況にある。

 FOXニュースが最近発表したMVP予想オッズでも、2選手が突出した存在になっているのが理解できるだろう。

【MLB初のDH選手がMVPを受賞するには】

 すでに本欄では、今シーズンの大谷選手は三振率と空振り率が大幅に改善され、より確実性の高い打撃に変化していると説明させてもらっていたが、現在は空振り率がややMLB平均を下回っているものの、三振率は今も改善方向に向かっており、ますます穴のない打者に変貌しようとしている。

 このまま無双状態を続け、ケガなくシーズンを乗り切れれば、大谷選手は間違いなくMVP有力候補に残り続けることになるだろう。

 ただ本欄だけでなく各所で報じられているように、これまでMLBでDH専門の選手がMVPを受賞したことは一度もない。守備の貢献度が加味されないDH選手は、守備や走塁等も加味されて総合的に判断されるMVP争いでどうしても不利になってくるからだ。

 しかも大谷選手とともにMVP争いで先行するベッツ選手は、シーズン開幕直前にプロ入り後初めて本格的なショートにチャレンジし、ここまで無難な守備を披露しており、それだけでも評価も上がってくる(ただし選手の各種データを紹介しているMLB公式サイト「savant」では、ベッツ選手の守備指標はMLB平均以下になっている)。

 それを裏づけるように、MLBのデータ専門サイト「FanGraphs」によれば、現時点(5月9日現在)のWAR(野手、打者に関係なく試合における貢献度を比較する指標)では、ベッツ選手が3.0でMLBトップを走り、大谷選手は2.6で3位(ナ・リーグ2位)につけている。

 こうした劣勢を覆していくには、打者として他を圧倒する打撃を披露していくしかない。

【打者の突出度を確認できるOPS+に注目】

 これまで本欄では、選手の貢献度を確認する指標としてWARやOPS(出塁率と長打率を足したもので強打者の指標として使用される)などを紹介してきたが、今回はOPS+を取り上げてみたい。

 OPS+とは、OPSをすべての打者と比較しながらMLB全体でどの位置にいるかを確認できる指標だ。MLB平均を100とし、それぞれの選手を数値化する。つまり数値が高ければ高いほど、MLBで突出した存在になっていることを意味する。

 ちなみに昨シーズン2度目のMVPを受賞した大谷選手のOPS+は184で、MLBトップだった。それだけ打者単体でも突出した存在だったことを示している。

 また今シーズンの大谷選手もOPS+が209となっており、ここまでMLBトップを走っている。

【2000年以降OPS+200超え選手はすべてMVPを受賞】

 実はOPS+が200を超えるのは、打者にとってかなり至難の業なのだ。

 実際2000年以降でOPS+が200を超えた選手は、2001~2004年のバリー・ボンズ選手、2022年のアーロン・ジャッジ選手の2人しか存在していない(2020年にフアン・ソト選手も超えているが短縮シーズンなので除外)。また2選手は200を超えただけでなく、2位以下の選手に圧倒的な差をつけている(2位以下は200を下回っている)。

 そして忘れてはいけないのが、ボンズ選手はOPS+200超えをしたシーズンすべてでMVPを受賞し、ジャッジ選手も大谷選手を上回りMVPを受賞しているのだ。

 それだけOPS+の200超えは打者としての金字塔であり、MVP争いで高評価を得られる重要な指標だと考えていいのだ。

【MVP投票で同僚が1、2位を独占できればMLB史上7度目】

 改めて断っておくが、このまま大谷選手がOPS+200以上を維持するのは決して簡単ではないし、200を超え続けたからといってMVPを確実に受賞できるわけでもない。あくまでMVP争いを予想する指標として考えてほしい。

 いずれにせよ大谷選手、ベッツ選手のどちらがMVPを受賞しようとも、ドジャースファンからすれば歓迎すべきことに変わりはない。またこのまま2選手がMVP争いを先行する活躍を続けられれば、チームはそれだけ念願のワールドシリーズ制覇に近づけることになる。

 MLB公式サイトで記録や歴史を専門に扱うサラ・ラングス記者によれば、チームメイト同士がMVP投票で1、2位を独占したのは、過去に6例ほどあるそうだ。

 1971年のアスレチックス(ビダ・ブルー投手とサル・バンド選手)、1976年のレッズ(ジョー・モーガン選手とジョージ・フォスター選手)、1983年のオリオールズ(カル・リプケンJr.選手とエディ・マーレー選手)、1989年のジャイアンツ(ケビン・ミッチェル選手とウィル・クラーク選手)、1990年のパイレーツ(バリー・ボンズ選手とボニー・ボニーヤ選手)、2000年のジャイアンツ(ボンズ選手とジェフ・ケント選手)──の6チームだ。

 そして6チームはすべて地区優勝を果たしポストシーズンに進出し、うち3チームがワールドシリーズまで駒を進め、オリオールズとレッズは世界王者に輝いている。

 果たして大谷選手とベッツ選手のいずれかが、MVPを受賞できるのか。そして2人は、チームをワールドシリーズに導くことができるのだろうか。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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