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好対照のスタートを切った今永昇太と山本由伸のデータ上での類似点と相違点

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
開幕からセンセーショナルな投球を続ける今永昇太投手(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

【野茂英雄氏の予見通りになった現在のMLB】

 すでに日本でも大きく取り上げられているように、現地時間5月1日に前田健太投手、今永昇太投手、山本由伸投手(年齢順)の3投手が揃って先発に臨み、それぞれが好投を演じた末、勝利を掴むことに成功している。これはMLB史上初の快挙らしい。

 さらに4月30日にはダルビッシュ有投手が今シーズン初勝利を飾り、その試合で松井裕樹投手も見事なリリーフ登板でお膳立てをし、また5月2日にメジャー初昇格した上沢直之投手がMLBデビューを飾り、2回を無失点に抑える好投を演じている。

 かつてMLBに在籍する日本人選手が限られていた頃、日本人対決をクローズアップしがちだった日本人メディアに対し、野茂英雄氏が「そのうち(日本人選手がMLBでプレーするのが)普通になりますよ」と予見してくれていた通り、日本ではとりわけ大谷翔平選手に注目が集まりがちだが、今では普通に日本人選手たちが活躍する状況になっている。

 それに伴いMLBにおける日本人選手(特に投手)の価値は高まる一方で、近い将来には欧州リーグに在籍する日本人サッカー選手のように、すべての選手を追い切れないような時代が到来するかもしれない。

【今永投手が「期待以上」で山本投手は「期待通り」】

 ところで今シーズンは新たに4投手が活躍の場をMLBに移したわけだが、スプリット契約を結んでいた上沢投手を含め、全選手が無事にメジャーデビューを飾ることができた。

 中でも昨オフにFA市場で高い評価を受けていた山本投手と今永投手に関しては、シーズン開幕前から米メディアの高い関心を集めていたが、現時点での評価は概ね今永投手が「期待以上」で、山本投手が「期待通り」で固まりつつある。

 5月2日時点で5勝0敗、防御率0.78と、MLBトップもしくはトップタイの成績を残している今永投手の評価は当然として、実は山本投手に関しても、韓国でのデビュー戦を除いた6試合では3勝0敗、防御率1.64という好成績を残すとともに、対戦相手のOPSが.586に抑える安定感を見せており、今や多くのメディアが前述通りの評価にまとまり始めている。

【開幕当初2投手はハードヒット率がMLB最低レベルだった】

 ところで集中打を浴び1回で降板した山本投手に対し、6回2安打無失点の好投で勝利投手に輝いた今永投手と、まったく正反対のデビュー戦となった2人だが、実はあるデータにおいて2投手はかなり類似し、MLB最低レベルであったことをご存じだろうか。

 それはハードヒット率だ。これは打球速度95mph以上の打球をどれだけ打たれたかを示すもので、打者を確実に打ち取れているかどうかを確認する際に使用されるデータだ。

 この指標で2人の投手を見てみると、山本投手はデビュー戦で4本の打球(安打3本とフライ1本)を許し、すべてが打球速度95mph以上を超えてり、ハードヒット率は100%だった。

 これに対し今永投手も、12本の打球(安打2本とフライ10本)のうち打球速度が95mph以上だったのは8本と、ハードヒット率は66.7%と同じく高い数値になっていたのだ。説明するまでもなく当初は2人のハードヒット率は、MLB最低レベルだった。

 そのため自分は今永投手のデビュー戦後に有料記事を公開し、「まだ1試合なので今後を見守る必要がある」としながらも、「打球角度が変われば違った結果になっていただろう」とハードヒット率の高さを不安要素として取り上げていた。

 そうした状況を理解していたこともあり、今永投手がシーズン開幕から繰り返している「紙一重の勝負」というフレーズに、個人的に納得させられるものを感じていた。

ほろ苦デビュー戦後は投げる度に評価を上げている山本由伸投手
ほろ苦デビュー戦後は投げる度に評価を上げている山本由伸投手写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ

【好対照の性質を持つ2人が投げるフォーシーム】

 そして2投手ともに使用頻度が高く、投球を組み立てていく上で根幹をなす球種がフォーシームだ。だが2人のフォーシームは見事なほどに好対照になっている。

 ここまで山本投手のフォーシームの平均球速は95.4mphで、ほぼすべてのフォーシームの球速がMLB平均以上に分布している。一方の今永投手の平均球速は92.1mphとほぼMLB平均レベルになっているが、全フォーシームの3分の2程度は平均を下回っている。

 今度は2人のフォーシームをスピン効率で比較すると、山本投手のフォーシームの平均回転数は2154rpmで、スピン効率はMLB148位の93.0%であるのに対し、今永投手の平均回転数は2424rpmで、スピン効率98.7%は同24位にランクしている。

 つまり山も投手のフォーシームは球速がMLB平均を上回っているもののスピン効率はやや下がる一方で、今永投手のフォーシームは、球速がMLB平均もしくはそれ以下だが、MLBトップクラスのスピン効率を誇っているということが理解できる。

 それを裏づけるように、今永投手のフォーシームのホップ成分(タテの動き)はMLB4位に入っているが、山本投手は119位に止まっている。

【間違いなくMLBに順応し始めている2投手】

 これだけ異なる性質のフォーシームを投げる2投手だが、フォーシームのハードヒット率に関しては、山本投手が52.4%、今永投手も53.6%とほぼ同じ数値で推移している。

 だが2投手ともにフォーシームだけを投げているわけではないし、他の球種を交えながら投球を組み立てているわけで、実は投球全体のハードヒット率は登板を重ねるごとに改善されている。

 直近の5月1日の登板で見てみると、山本投手は17本の打球(安打5本、フライ4本、ゴロ8本)を許し、95mph以上の打球はわずか5本だったので、ハードヒット率は29.4%。また今永投手も16本の打球(安打3本、フライ7本、ゴロ6本)のうち95mph以上は同じく5本だったので、ハードヒット率は31.3%となっている。

 しかもこの日の登板は山本投手にとって今シーズン3度目の中5日登板で、今永投手に至っては自身初の中4日登板で臨んでいた。MLB流の登板間隔に適応しながら、相手打者を翻弄し始めていることを考えると、今後の登板がさらに楽しみになってこないだろうか。

 今後もいろいろな観点から選手たちを考察し続けたい。ちなみにここで紹介したデータは、すべてMLB公式サイト「savant」から引用したものだ。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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