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大谷翔平に襲いかかるHRダービーに出場すると打撃不振に陥るというジンクスはホント?それとのウソ?

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
後半に入り打撃がやや低迷しているように見える大谷翔平選手(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

【後半戦5試合で計11三振を喫した大谷選手】

 MLB史上初めてオールスター戦で二刀流出場を果たし、日本はおろか全米からも注目を集める中で後半戦に突入した大谷翔平選手だが、打者としてはやや厳しいスタートを切ることになった。

 DH解除で登板に臨んだ19日のアスレチックス戦を含め、ここまで5試合に出場し、20打数4安打11三振と打率.200に終わっている。

 前半戦でMLB最多の33本塁打を放つ長打力もやや影を潜め、1本塁打、長打率も。400に止まっている。

 まだ後半戦は始まったばかりなのでこのまま推移していくとは考えにくいが、大谷選手に期待を寄せるファンとしては、やはり気がかりなところだろう。

【HRダービー出場が打撃に悪影響?】

 大谷選手がやや厳しいかたちで後半戦を滑り出す中、日本のメディアの中で“あるジンクス”が実しやかに取り沙汰されている。

 それは、──HRダービーに出場した選手は本来の打撃を見失い、シーズン後半戦で不振に陥る──というものだ。

 今回大谷選手とともにHRダービーに参加したジョーイ・ガロ選手が「普段の打撃練習とHRダービーは全く別物だ」と説明しているように、自分の打撃コンディションを維持するための打撃練習とは違い、とにかく本塁打を狙いにいくHRダービーに出場すると、自分が理想とするスイングを見失うリスクがあると言われている。

 またHRダービーに出場した選手が、シーズン後半戦に打撃不振に陥ったケースも確かに存在しているからこそ、このジンクスが生まれたのだろう。

【出場8選手中3人はむしろ打撃が爆発している事実】

 だがこのジンクスの信憑性に、個人的に疑念を抱き続けている。というのも、HRに出場した後でむしろ打撃が爆発している選手も存在しているからだ。

 今年のHRダービー出場8選手を見ても、後半戦に入りジンクス通りに明らかに打撃が下降しているのは3選手しかいない。その一方で別の3選手は、逆に打撃好調のスタートを切っているのだ。

 下記の別表をチェックして欲しい。HRダービー出場8選手の後半戦打撃成績をまとめたものだ。打率、長打率、本塁打数を比較したものだが、打率と長打率の括弧内の数字は、シーズン前半戦の成績だ。そしてシーズン前半戦より上回っている場合は青数字、下回っている場合は赤数字で表記している。

(筆者作成)
(筆者作成)

 つまりシーズン前半戦より明らかに打撃が下回っているのは、大谷選手を含めガロ選手、トレバー・ストーリー選手の3人のみ。逆に前半戦を上回る打撃成績を残しているのが、フアン・ソト選手、ピート・アロンソ選手、マット・オルソン選手と3人もいるのだ

 この例からも秋からなように、ジンクスと呼ぶにはあまりにデータ的な裏付けがなさ過ぎる。

【むしろ心配はジンクスではなく前半戦の疲労】

 大谷選手の場合、ジンクスと言うよりもやはり前半戦の疲労による失速を危惧すべきではないだろうか。

 すでに本欄で報告しているように、シーズン前半戦で33本塁打以上を記録した選手は過去に12人存在しているのだが、そのうち10選手がシーズン後半戦に入り、前半戦より打率を落としているのだ。

 シーズン前半戦で驚異的な打撃を疲労した分、後半戦で失速気味になってしまうのは仕方のないところかもしれない。

 いずれにせよシーズン後半戦はまだ始まったばかり。とにかく大谷選手にはケガなくシーズンを乗り切って欲しいと願うばかりだ。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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