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アイスホッケー界初の選手会設立の中心的役割を果たし自ら初代会長に就任した福藤豊がやり残したこと

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
3月に設立された選手会の初代会長に就任した福藤豊選手(筆者撮影)

【アイスホッケー界に誕生した選手会】

 つい最近、日本アイスホッケー界に歴史的な動きがあったのをご存じだろうか。3月1日に初めて選手会が設立されたのだ。

 NPBを始めサッカー、バスケット、ラグビーなど主要スポーツに選手会がある中で、1966年に国内リーグが誕生して以来、現在もアジアリーグとして活動を続けているアイスホッケーには、選手をまとめる組織は存在しなかった。

 それが選手会の誕生により、国内チームの日本人選手たちが所属する一大組織が完成したのだ(現在は王子イーグルスの選手たちは不参加)。

 初代会長に就任したのは、設立に向け中心的な役割を果たした福藤豊選手だ。

【日本人初のNHL選手が長年抱き続けた夢】

 福藤選手といえば、日本人初のNHL選手として知られ、長年日本代表のゴールキーパーを任されてきた日本アイスホッケー界の牽引者だ。彼は随分昔から、選手会のような組織がアイスホッケー界にも必要だという思いを抱き続けていたという。

 「5年くらい前からチームの先輩の鈴木貴人さん(現・東洋大アイスホッケー部監督)と何となく話をしていました。ただ(組織立ち上げの手続き等の)知識もなかったので、具体的な動きにはなりませんでした。

 それが3年前くらいになって、自分が引退した時に選手としてやるべきことをやれたかと思えるかどうかという点で疑問を感じるようになりました。そこから選手会に興味を持っていそうな人たちに声をかけていました」

 そうした地道な活動が徐々に実を結び、昨オフになって数人の選手たちと一緒に本格的な動きになっていき、設立準備が進んでいったという。

【労使交渉メインではない選手会】

 いざ具体的な動きが始まると、福藤選手ら立ち上げメンバーの他に、これまでアイスホッケーに携わり、今もアイスホッケーを愛する人たちが協力してくれ、公式サイトやロゴの作成など細かい作業を担ってくれた。

 それと同時に、選手たちやチーム、アジアリーグ、日本アイスホッケー連盟と話し合いを続けた結果、ようやく選手会が現実のものとなったのだ。

 ただ福藤選手らが考えている選手会は、世間で考えられているような組織とはちょっと違うものだ。それを物語るように、公式サイトには「当法人は、労働組合のような団体交渉等を目的とした組織ではありません」と但し書きされている。

 福藤選手も、以下のように説明している。

 「選手会というと労使交渉など戦っていくイメージが強いと思います。でも僕たちが考えているのはそこではなくて、現在のアイスホッケーをなんとかしなければならないというところです。

 皆口に出していないですが、何年後かにリーグそのものがなくなってしまうのではないかという危機感があります。連盟、リーグ、チームだけではなく、そこに選手が加わって連盟、リーグ、チームができないことを選手たちが埋めていくことで良い信頼関係をつくっていきたい。その土台作りをしていくことを意識しています」

【日本アイスホッケー界を取り巻く危機的状況】

 福藤選手が説明するように、現在のアイスホッケー界は決して順風満帆といえる状況にはない。

 元々国内リーグは5チームすべてが企業チームでスタートしたが、1999年の古河電工の廃部を機に廃部が続き、現在は国内5チームの内4チームがクラブチームとして存続している状態だ。

 また今シーズンは横浜GRITSが新規参入したものの、それまでは日光以外本拠地が東北、北海道にチームが集中しており、ローカル色がかなり強かった。

 さらに日本代表も1998年の長野五輪以来五輪出場から遠ざかり、世界強豪国とは遠く離れた存在になっていることも、アイスホッケーが日本国内で盛り上がらない一因にもなっている。

 そうした危機的状況を憂い、選手たちも団結してアイスホッケー界を盛り上げていきたいという思いが、長年第一線で牽引してきた福藤選手だからこそ人一倍強かったのだろう。

【選手会を通して選手が活躍できる場を提供】

 またリーグ、連盟、チームと選手との関係も決して良好なものではなく、選手会が潤滑油になり、一体感を生み出したいという思いもあるようだ。

 「今まで選手が何も出来なかったというか、連盟の情報を得ることができませんでした。例えば連盟にはどんな人がいるとか、リーグには誰が働いているのかも知らないという不透明な部分がすごく多かったです。

 そういうところもなくしていきたいですね。選手もリーグのミーティングに参加することで、選手の意見を届けていかないといけないと思っています」

 さらに現在のアイスホッケー界にある閉鎖性についても、選手会で打破したいと考えているようだ。

 「選手たちも選手としての責任感のようなものが足りないところだと思います。中には他の世界を知らないまま引退していく選手もいます。それでは子どもたちに夢を与えられる存在になれないです。

 選手たちがリンクの外に出て活動できる場所をつくり、引退した時に役立つような知識や経験を得られる機会を提供していきたいと思っています。これまではあからさまに少なかったですからね」

 そうした思いを胸に、まずは今シーズン終了後から選手会として様々な活動を始動していく予定だ。

 すでに38歳の福藤選手は、選手会を「残り少ない現役生活で最後の仕事」だと位置づけている。今後の選手会の活動に注目していきたい。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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