日米野球文化の違い? 巨人・原監督がとった野手の投手起用がなぜ論争になってしまうのか?

2015年に自身初の投手デビューを果たしたイチロー選手(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

【上原浩治氏のツイートで知った論争】

 6日のオリックス対ロッテ戦の取材を終え帰宅する途上、ネットニュースをチェックし、巨人の原辰徳監督が同日の阪神戦で、野手の増田太輝選手を投手として起用したことを知った。

 11-0という試合結果も確認し、心中「やるなぁ。日本でもこうした起用法をする監督が現れたか」と感心していた。自分の中ではそれで終わっていた。

 だが、世間的には全然終わっていなかった。その後Twitter上でフォローしている上原浩治氏のツイートを確認し、球界OBの人たちを巻き込んだ論争になっていることを知った。

 なぜ野手の投手起用がこれ程の騒ぎになってしまうのか、自分には理解できなかった。

【野手の投手起用はMLBの常套手段】

 自分の本格的な野球取材歴は、1995年に野茂英雄氏がドジャース入りを機にスタートした。それ以降2017年4月に帰国するまで、ずっとMLBを取材してきた。つまり自分の視点は、常にMLBをベースにしている。

 いうまでもなくMLBでは、野手の投手起用は常套手段であり、今も重要な起用法の1つだ。点差が広がりすでに勝敗が決まった試合でリリーフ投手を温存することは、明日以降の試合を考える上で重要なことだ。そうしたケースで野手が投手として起用されるのはごく一般的な起用法だ。

 今シーズンからルール変更があり、野手の投手起用は多少制限されるようになったが、それでも延長戦もしくは6点差以上ついた試合では、野手の投手起用はルールとして認められている(今シーズンは短縮シーズンのため導入が見送られた)。ただこのルール変更は、新たに二刀流という新たな区分が加わったことによる、投手と野手を明確に区別をするための措置であり、従来の野手の投手起用に影響を及ぼすものではない。

 例えばマーリンズ在籍時の2015年に、イチロー選手が彼のMLBの経歴の中で初めて投手として起用され、1イニングを投げたのを記憶されている方も多いはずだ。日本でも話題になったし、ファンは快く受け入れていたように思う。

 多少ルールの違いがあるとはいえ、NPBでも野手の投手起用は有効な起用法だと考えて然るべきだ。今回の試合もその条件は整っており、原監督は増田選手の起用について「あそこをフォローする投手はいない」と説明している通り、まさに的確な采配だったと思う。

【11点差がつき残りアウトは2つ】

 論争になっている場面を振り返ってみよう。

 0-4で迎えた8回裏、巨人はこの回から5人目の堀岡隼人投手に託した。だが彼は阪神打線の猛攻を浴び、1アウトを奪っただけで大量7失点を許してしまう。この時点で11点差がつき、巨人の攻撃は9回を残すのみ。すでに大勢が決したと判断した原監督は、野手の増田選手をマウンドに送ったというわけだ。

 まず考えてほしいのは、この時点でベンチに残っている投手は中川皓太投手、大竹寛投手、大江竜聖投手、鍵谷陽平投手の4人だった。

 大竹、中川投手は現在の巨人の“勝利の方程式”ともいえる勝ち試合の後ろを担っている投手で、前日の勝利試合でも登板している。もしここで起用してしまえば、翌日の試合で3連投になってしまうリスクがある。

 また鍵谷投手、大江投手も勝敗を左右する中盤を繋ぐリリーフ投手としてフル回転してきた投手だ。特に大江投手はこの7試合で4試合に登板しているほどだ。

 さらにこの日登板した宮國椋丞投手が27球、堀岡投手も29球を投げており、2人とも翌日の試合で起用するのは難しい状況にあった。ベンチに残った4投手を残り2つのアウトをとるために使いたくないと考えるのは、至極自然の流れだろう。

【野手の投手起用はNPBのタブーなのか?】

 しかも原監督は、やみくもに野手を選んだのではなく、高校時代に投手経験のある増田投手に託している。決して無茶をしたわけではなく、理にかなった選手を起用しているのだ。

 もし仮にNPB内で紳士協定のようなものが存在し、野手の投手起用がタブーとされているのなら、対戦相手の阪神の矢野燿大監督が憤慨するべきところだろう。だがそうした素振りは一向にない。なぜ球界OBの中から今回の件で目くじらを立てる人が存在するのか、きちんと理由を聞いてみたいところだ。

 MLBで野手の投手起用は、前述通りリリーフ投手を温存するために重要な戦術の1つだが、それだけではない。すでに勝敗が決した試合で、ファンを楽しませてくれる最上のファンサービスでもあるのだ。実際イチロー選手の登板を皆が満喫したはずだ。

 これも日米の野球文化の違いといってしまえばそれまでだが、今後はNPBでも野手の投手起用が認知されるようになって欲しいと願うばかりだ。

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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