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NBAがシーズン再開案を承認した日に発表したMLB選手会声明の悲しすぎる中身

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
MLBの譲歩案に応じない声明を発表した選手会のトニー・クラーク専務理事(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

【NBAのシーズン再開がほぼ決定】

 NBAは現地時間の6月4日、理事会を開き、リーグが提示したリーグ再開案を圧倒的多数(米メディアによれば30チーム中29チームが賛成)で承認した。この結果、NBAは7月31日の再開を目指し、本格的に動き出すことになった。

 シーズン再開案については日本でも報じられているので詳細は省くが、プレーオフ進出の可能性がある22チームをオーランドのウォルト・ディズニー・ワールドに集め、各チームが公式戦8試合を戦った後、上位16チーム(東西カンファレンス8チーム)によるプレーオフに移行し、10月上旬までにNBAファイナルを終了するというもの。

 この再開案は最終的に選手会の承認を受けなければならないが、米メディアによれば、選手会は5日に電話会談を行い、承認する方向だという。

 この報道が真実ならば、新型コロナウイルスの影響で主要プロリーグの中で真っ先に活動休止を決めたNBAが、シーズン再開においても最初に正式決定したリーグになるわけだ。

【同じ日に声明を発表したMLB選手会】

 だが読者の方々は、NBAより先にシーズン実施案をオーナー会議で承認されたリーグが存在しているのをご存知のはずだ。

 そう、MLBだ。彼らは5月11日にシーズン実施案の承認を受けながら、未だに選手会と合意することができず、シーズン開幕できる目処すら立っていない。MLB、選手会ともに「1日も早くシーズンを実施したい」と主張しながら、両者の間で今も合意点を見出せないでいる。

 NBAがリーグ再開案を承認したのと同じ日に、MLB選手会はチームの代表者らを集めて電話会議を行い、その後声明を発表した。その内容は絶望的なものだった。

【MLBから脅迫されている?】

 これまでMLBと選手会が水面下で交渉を続けている中、米メディアが様々な報道をしてきたが、選手会の中から直接声を聞くことができなかった。この声明は選手会の現状を説明しているものだが、改めてMLBとの間に大きな隔たりがあることを浮き彫りにする結果になった。

 声明は少し長めなのでこの場で全文を紹介するのは控えるが、要はこれまで米メディアで報じられてきた交渉内容を改めて説明するようなものだった。

 とりあえず簡潔に説明すると──

 選手会が年俸支払い譲歩案の交渉に応じないのであれば、MLBはシーズンをさらに短縮すると主張してきた。

 しかしこの案は、すでに合意している年俸支払い案より更なる大幅な削減に繋がる。そのため合意案の支払いを保証できるような実施案をMLBに提示したが、譲歩案に合意しないのであれば、シーズンを短縮するという回答だった。

 今日の会議の結果、選手会内の圧倒的多数の共通認識として、選手たちは条件が整えばいつでもグランドに戻る準備ができているが、譲歩案を受け入れさせようとするMLBの要求は拒否する。

 ──というものだ。

【両者に正義なしの泥仕合】

 つまり選手会は、改めてMLBの強硬姿勢には屈しないという意思表示をしたのだ。NBAとの圧倒的な差を見せられたファンは、これをどう受け止めるのだろうか。

 MLBと選手会の間で交渉が続く中、ドジャースのクレイトン・カーショー投手はメディアのインタビューに応じ、「(交渉が長引き)このままの状態が続けば、両者(MLBと選手会)ともに(人々から)良くは見えない」と話している。まさにカーショー投手の予言した通りになり始めている。

 ファン目線から見れば、MLB、選手会ともに自分たちの主張を押し通そうとしているだけで、どちらにも正義を見出せない。完全なる泥仕合でしかない。

 すでにオーナーの中にはこのままシーズンを打ち切ってもいいという声が上がっていると報じられているが、ますますその可能性を否定できなくなってきた。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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