選手は誰1人処分を受けず! サイン盗み行為は誰のために行われていたものなのか?

2018年はサイン盗み行為に関与していなかったと判断されたアレックス・コーラ氏(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

【計15ページに及ぶ調査報告書を発表】

 MLBのロブ・マンフレッド・コミッショナーは現地時間の4月22日、2018年シーズンにレッドソックスが行っていたとされるサイン盗み行為に関する調査報告書を発表した。

 報告書はMLB公式サイトでも公開しており、計15ページにわたり調査結果を報告している。

 調査の結果レッドソックスもサイン盗み行為をしていた事実が確認できたため、レッドソックスに対し処分が下されたが、チームは即座にファンとMLBに謝罪を述べるとともにコミッショナーの裁定を受け入れる声明を発表している。

【アストロズの処分とは明確な差が】

 処分内容に関しては、すでに日本の各メディアが報じているところだが、念のためここでも紹介しておこう。3つの処分が科せられている。

 ・リプレイ映像担当のJT・ワトキンス氏を2020年のシーズン及びポストシーズンでの職務停止処分。また処分が明けた後の、2021年シーズンのシーズン及びポストシーズンでの同職復帰の禁止。

 ・2020年ドラフトの2巡目指名権を剥奪。

 ・アレックス・コーラ監督(当時)の2020年シーズン及びポストシーズンの職務停止処分(ただし同氏の処分は2018年シーズンを対象とせず、ベンチコーチとして2017年シーズンのアストロズのサイン盗み行為に関与していたことでの処分とする)。

 2017年シーズンのアストロズのサイン盗み問題では、ジェフ・ルーノウGM(当時)とAJ・ヒンチ監督(当時)の現場とフロントの責任者がそれぞれ1年間の職務停止処分を受けていたが、レッドソックスに関しては現場スタッフ1人だけが処分を受けるに留まっている。

 これは、明らかに両チームの処分の重みに大きな差があることを意味している。

【サイン盗みは現場スタッフの単独行為?】

 どうして処分に差が生じたかといえば、報告書では、ワトキンス氏がMLBのルールを犯し、自分が取り扱うリプレイルーム内の機器を使用しながらサインの流れを確認し、それを試合前に選手たちに渡していたものの、アストロズのケースとは違い、その情報を使用していたのは二塁に走者がいた時のみで攻撃全体の19.7%に限られていたと説明している。

 またレッドソックスのサイン盗み行為は、コーラ監督やコーチ陣、ほとんどの選手、さらにフロント関係者が認識していたかどうかは確認できず、ワトキンス氏と一部の選手の間で行われていたものだとも説明している。

 つまりアストロズのようにチームぐるみでサイン盗み行為をしていたのではなく、ワトキンス氏が単独で行っていた行為だと結論づけている。

【サイン盗み行為は誰のため?】

 今や米国内は国全体が新型コロナウイルスのパンデミックの対応に追われる状態で、すでにアストロズのサイン盗み問題への関心もかなり薄れている。

 だがスプリングトレーニングが始まった当初は、アストロズが実施した記者会見がやや不誠実に見えたこともあり、メディアはもとより他チームの選手やファンからも猛バッシングを受けていたのは記憶に新しいだろう。

 彼らの主張は一様に、“なぜサイン盗み行為を行った選手が処分をうけないのか?”だった。

 もちろんアストロズのケースでさえ選手たちが処分を受けていたのだから、レッドソックスの選手が処分を受ける可能性はゼロに近かったし、誰もが予想する通りの裁定になった。

 だがワトキンス氏は自ら進んでサイン盗み行為を行い、選手たちに情報を渡していたのだろうか。むしろ情報を必要としていた選手たちがいたからこそ、ルールを犯してまで情報を渡していたのではないのか。

 結局今回の処分で、一連のサイン盗み問題の根本部分が解決できたとは到底思えないし、これを機にMLBからサイン盗み行為が根絶されるとも思えない。

 それほどMLBの対応は、ただただ不透明でしかなかった。

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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