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投球制限がすべてではない! もっと認識されるべき新潟県高野連が目指しているもの

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
すでに高校野球は現状のままで継続していくのは難しいはずだ。(写真:アフロスポーツ)

 先週から高校野球の球数制限がメディアを賑わせている。

 発端は、日本高野連が20日に理事会を開催し、新潟高野連が今年春の県大会で球数制限を導入することを発表していたことに対し、再考を求めることを決定したためだ。

 昨年夏の甲子園大会で金足農業の吉田輝星投手が県予選から決勝まで1人で投げ抜いたことで、再び高校野球における選手の“酷使”が脚光を浴びるようになる中、新潟県高野連は昨年12月、今年4月に実施される県大会で100球の球数制限を導入することを発表していた。これに日本高野連が待ったをかけたわけだ。

 ただ日本高野連は単に再考を求めるだけでなく、球数制限は「未来の高校野球発展には避けて通れない課題」として、今後は専門家を交えて有識者会議を開催し多岐にわたって検討していくことを明らかにしており、日本高野連が遂に重い腰を上げたと歓迎しているメディアも多い。

 確かに今後は公式の場で投球制限導入が検討されることになったのは意義深いものであることは間違いないが、だが素直に日本高野連の姿勢を歓迎していいのだろうか。むしろ自分には、日本高野連と新潟県高野連がまったく正反対の方向を向いているようにしか見えない。

 これまでの報道を見る限り、日本高野連は「部員不足の連合チームが増加し、各校野球部の部員数に二極化が見られ、部員数20名以下の加盟校が全体の約4分の1を占める現状では、慎重であるべき」であり、「専門家の意見も聞き、投手の障害予防について練習、練習試合、公式戦などの様々な施策を検討した上で方向性を示す必要がある」等の理由から再考を求めているのだが、新潟県高野連はまさに同じ理由から投球制限導入を決めているのだ。

 新潟県でも部員数の減少は深刻な問題になっている。現状のままでは当然のごとく、部員数の少ない学校は常に極端な投手起用を強いられることになる。特に春の大会ともなれば、入学したばかりの新1年生に投手を任せる学校すら現れることになってしまうのだ。だからこそ専門家の意見を聞き様々な施策を検討した結果、投球制限がどんな効果をもたらすのかを確認するために、試験的に導入を決めたものだ。

 しかも新潟県高野連の独断専行による単なる思いつきではなく、長年にわたり県全体で高校野球のあり方について検討を重ねていく中で決まったもので、今回の投球制限導入は県の“総意”といっていい。実は新潟県高野連にとって投球制限は、あくまで彼らが取り組もうとしている目標の1つでしかないのだ。

 新潟県には高野連の諮問機関ともいうべき『新潟県青少年野球団体協議会』という組織があるのをご存じだろうか。これは高野連を中心に平成23年11月に設立された、青少年(小学生から高校生まで)に関わる県内すべての野球団体が所属する全国唯一の組織だ。現会長は新潟高野連の富樫信浩会長が兼務している。

 同組織は高校野球のみならず青少年野球界の現状を憂い、スポーツマンシップの重要性を再認識し、青少年たちがルールに則って野球に取り組むことができるシステムを構築するとともに、人々から青少年野球を支援してもらえるような環境づくりを目指し、活動を続けている。

 同組織でプロジェクトリーダーを務める島田修氏によれば、平成24年から野球選手の肩やひじなどの故障を防ぐための「野球手帳」を製作し所属選手への配布を始め、また平成28、30年に「野球サミット」を開催するなどして指導者の講習にも積極的に取り組んでいる。

同組織では(1)球数に関するガイドラインの作成(2)T字型体制(上で決まった決定事項をしっかり下部まで意思統一できる体制)の確立(3)完全シーズンオフ制度の導入(4)県内高校野球の球数制限の導入──の4つを目標に掲げ、その実現を目指している。つまり今回の球数制限導入は彼らの取り組みの一端でしかなく、新潟県野球界が一緒になって取り組んできた成果といえるものだったのだ。

 日本高野連は投球制限について検討する有識者会議について、新潟県高野連への参加要請を明らかにしている。ならば投球制限導入の再考を求めるのではなく、むしろ彼らの決定を尊重し、投球制限実施から得られる効果、課題を集積して上で参加してもらった方が、より有意義な有識者会議になっていたはずだ。

 新潟県のこうした活動からも明らかなように、高校野球に変革を求める潮流は日本高野連が考えている以上に大きなうねりになっている。有識者会議も大切だが、新潟県のように積極的に行動していくことが求められているはずだ。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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