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天皇杯3連覇に向け視界良好! 前半戦を終え首位ターンに成功した千葉ジェッツの好調を支えているもの

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
シーズン前半戦を単独首位で折り返した千葉ジェッツの大野篤史HC(筆者撮影)

シーズン単独首位ターンでも試合内容に満足しない大野HC

 Bリーグはシーズン第18節を終え各チームとも計31試合を消化し、シーズン前半戦を終了した。今節で滋賀レイクスターズに連勝した千葉ジェッツは通算成績を26勝5敗とし、リーグ単独首位でシーズン折り返しに成功した。チームは10日から始まる天皇杯ファイナルラウンドに臨むことになるが、盤石の態勢を整えて同大会3連覇に挑むことになりそうだ。

 ただ滋賀に連勝したことでリーグ単独首位を決めたにもかかわらず、試合後の大野篤史HCの表情は冴えなかった。試合序盤に滋賀に主導権を握られ最大16点差をつけられながら、第2クォーター以降は自慢のオフェンス力を発揮。第3クォーター終盤で逆転に成功すると、第4クォーターは一気に滋賀を引き離し勝利をもぎ取った。地力のあるチームならではの勝利だったのだが、大野HCの考えはまったく違っていた。

 「ゲームの出だしのマインドセットの悪さとエンド・オブ・ゲームの閉め方の悪いのと、プランだった絞らなければならない選手に簡単に綺麗に(シュートを)打たせてしまったことがこういうゲームになってしまった。本当に良かった点は勝てたことだけだと思います。

 バック・トゥ・バックで難しいのは分かっているんですけれども、ソフトにディフェンスが入ってしまったところ、簡単に打たせてはいけないプレーヤーに3ポイントを打たせてしまったところ…。そういうところがこういう競ったゲームになった要因だと思いますし、自分たちが準備してきたものを何一つ出せなかったところに、反省点がたくさん出てきています」

 試合後の記者会見で大野HCから出てくる言葉は、本当に厳しいものだった。だがそれはシーズン前半戦を戦いながら、単に勝利だけで納得することなく、試合内容にもこだわることができるチーム状態になってきたという、同HCが感じている手応えの裏返しなのだ。

シーズン前半戦成功の秘訣はコミュニケーション

 もちろん大野HCは滋賀の第2戦を除けば、ここまでのチームの成長にある程度納得できている。改めてシーズン前半戦を振り返ってもらった以下の言葉からも明らかだ。

 「ケガ人が多く出た中、しっかりチーム力が上がってきたなと…。それはオフェンスもディフェンスもマインドセットできるようになってきたなという感触もありました。ただこういうゲーム(滋賀第2戦)も経験しなきゃいけないし、反省する材料も多かったですし、いくら1戦目で20点、30点、差がつこうが、2戦目で同じ相手と戦うことがどれだけ難しいことなのかというところが…。そういうところができてきた感覚があったので、逆に今日は残念だなと思ってます。

 ディフェンスのコミュニケーション能力がかなり上がったかなと、それでシステムのところでディフェンスの強度が上がりました。トランジションは変わらずというところかな…。ただハーフコートでどこにアドバンテージがあるか、ボールを動かすというフロア・バランスをしっかりとるところで、チームとしてオフェンスもディフェンスもできてきたかなとは思います」

 大野HCも説明しているように、試合を重ねながら総合的なチーム力は確実に向上している。それでは今シーズンも主力選手の多くが残留した中で、同HCはチームを成長させるためどのような点に心血を注いできたのだろうか。

 「一番しつこくいうのはコミュニケーションのところですね。何年も同じメンバーでやっていると阿吽の呼吸(が出てくる)とかいいますけど、僕はそんなものはないと思っていて、何を考えているかなんて言葉を発しないと分からないことは多々あるので、ミスコミュニケーションを無くすためにもっと口を開きなさいというところがようやく出てきたかなと思っています。

 (試合中ベンチに下がる選手に対しても)自分がやって欲しいこと、やらなきゃいけなかったことを伝えてます。それがない選手に対してはハイタッチだけで終わらせてます。それはパーソナルで違うというか、若い子たちにはやっぱり理解できていない部分がたくさんあるんじゃないかなと僕には見えるので、余計多くのコミュニケーションをしています」

富樫勇樹が指摘するチームを成長させるXファクター

 チームの司令塔で、日本代表PGの富樫勇樹選手もチームの成長を感じ取っている。彼は序盤にケガ人がでたことが、結果的にチームがいい方向に向かったと説明する。

 「最初の出だしは連敗から始まって、今シーズンが過去2シーズンより心配になるようなスタートだったんですけど、そこから10連勝を挟めたのが大きいと思いますし、そこでチームとしての方向性が見えて、そこから強いチームの栃木、琉球、アルバルクだったりの試合を少しずつ挟む中、チームとして成長できてるなという実感があります。

 まあケガ人がいる中で…。外国人のトレイ(・ジョーンズ選手)とジョシュ(・ダンカン選手)が入れ替わりのケガだったり、(小野)龍猛さんが2ヶ月くらい抜ける中でのこの成績っていうのは、本当にチーム全員で助け合いながらできたのがいいと思います。逆にそれがステップアップする機会になって、チームとして何か上手くいったんじゃないかと思いますね」

 

今シーズンは故障なくここまで全試合先発出場を続けているチームの司令塔富樫勇樹選手(筆者撮影)
今シーズンは故障なくここまで全試合先発出場を続けているチームの司令塔富樫勇樹選手(筆者撮影)

 ただ富樫選手はチームが成長できた要因として、自分たちの力だけではなくXファクターの存在を指摘している。それは熱狂的な千葉のブースターたちだ。

 「千葉の場合あれだけのお客さんが来てくれる環境の中で、気を抜く機会がないというのはおかしいですけど、自動的にお客さんがあそこまで入って自分たちの気持ちを高めてくれるという環境にいるので、そういう面では自分たちがコントロールしているというよりはお客さんのエネルギーじゃないですけど、満員の会場というものに助けられて毎試合集中力が高い試合ができているんじゃないかなと思います。

 チームが良くなったからお客さんがついたと思いますし、結果を残したから増えているのもそうですし、逆にお客さんが増えているからこそ、自分たちが常に高いバスケットをしなきゃいけないという意識にも繋がっていると思うので、それはお互いに助け合っているなとすごく思います」

 ちなみに千葉と双璧をなすほど熱狂的なファン(栃木はブースターという呼称を使わない)に支えられる栃木ブレックスも、常にホーム試合は満員の中で試合をしているが、その栃木も前半戦は好調を維持し千葉を1ゲーム差で追っている状況だ。富樫選手の指摘通り、これは決して偶然ではない気がしてならない。

天皇杯3連覇は単なる通過点?

 繰り返すが現状を見る限り、今週行われる天皇杯ファイナルラウンドに千葉ジェッツは理想的な態勢で臨むことになる。大野HCもビッグタイトルの1つとして天皇杯3連覇を今シーズンの目標の1つにしてきたと話している。

 「2つの大きなタイトルだと思っていますし、Bリーグ(のチャンピオンシップ)と天皇杯で勝てるように1年間努力していこうというところから始まっていますので、いい結果を残し最後みんなで笑えるように取り組んでいけるようにしていきたいと思っています。(天皇杯を控え)けが人も戻ってきてますし、(滋賀第2戦があったためやや控えめに苦笑混じりで)そうですね、万全ですね」

 だが昨年負傷のため天皇杯には出場できなかった富樫選手は、ちょっと違った捉え方をしている。天皇杯に勝ちたくないというわけではないのだが、それ以上にBリーグ初王座への思いが強いというべきだろう。

 「もちろん天皇杯でも目標は常に優勝ですけど、3試合だけのトーナメントなので…。優勝したいし3連覇したいのはもちろんですけど、何かそれは一瞬の出来事で、去年天皇杯で連覇してリーグはファイナルで負けたっていうことで、ちょっとその1年を思うと、リーグで60試合を積み重ねてきたものが本当に出るのがチャンピオンシップで、天皇杯というのは勢いで勝てるような雰囲気があるので、あんまりフォーカスし過ぎてはないです。今の勢いのままやりたいなとは思いますけど…」

 昨年の経験を生かし、さらにここまでチームとして順調に成長し、その手応えを感じているからこそ、現在のような心境になっているようだ。天皇杯3連覇も大事だが、とにかく初のチャンピオンシップを獲得するため、千葉ジェッツは間違いなくチーム全員が同じ方向を向いている。まずは天皇杯の戦いぶりに注目してみたい。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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